お気に入りの革靴やレザージャケットにカビが生えてしまった!靴箱や衣装ケースに革製品を収納していると、誰しも経験することでしょう。でも、すぐに諦めないでください。革製品についたカビは、自宅で取り除ける場合も多くあります。
今回の記事では、クリーニング歴15年「おうちクリーニング研究家」が、革製品やレザー衣類のカビを安全に取り除く方法と予防策について解説します。
ハンドソープやボディクリームなど、お家にあるものだけでできる簡単なカビ除去方法を見ていきましょう!
革製品にカビが生えやすい理由
革製品は、ウールや綿などの素材に比べ、カビが生えやすい素材です。
そもそも、なぜ革製品はカビが発生してしまうのでしょうか。
日本の高温多湿という気候はカビの繁殖にピッタリであることに加え、革素材の主成分であるタンパク質や油分はカビのエサになります。
「高温多湿」「カビが好むエサ」この条件がそろっているため、革製品は他の素材と比べると非常にカビが発生しやすいのです。
カビが発生しやすい革と発生しにくい革
同じ革製品でも、カビが発生しやすいものとそうでないものがあります。
その違いは、革製品を作る過程の「なめし」の方法によって左右されます。
動物の皮を腐らないように加工することを「なめし」といい、大きく2つの方法があります。
・化学薬品である塩基性硫酸クロムをつかったクロムなめし
・化学薬品をまったく使わずに植物性のタンニン(渋)を使ったタンニンなめし
このうち、カビが発生しやすいのは「タンニン」を使用したなめしの方です。
本来は防虫・防カビ効果のあるタンニンですが、革本来のナチュラルな素材感を重視するため、表面に顔料などを使用しないケースが多いのです。そのため、水分や油分を吸収しやすく、カビが生えやすい状態となるのです。
お持ちの革製品がタンニンなめしであれば、定期的なお手入れが必要不可欠です。
革製品にカビが発生しやすい条件
革製品にカビが発生しやすい条件や理由をまとめると、下記の通りです。
・70%以上の湿気
・20度以上の気温
・革の主成分がカビのエサになりやすい
・タンニンなめしの革製品
条件がそろえばカビはわずか数日で発生してしまうため、完全に防ぐことは容易ではありません。気を付けていても発生してしまったカビは、なるべく早く見つけて除去することが大切です。
革製品のカビ取りはおうちでできる?
では、お家で革製品のカビ取りができるのでしょうか。
結論からいうと、できる場合と難しい場合があります。
お家でカビ取りできる場合
革製品に発生するカビは、比較的除去しやすい白カビであることがほとんどです。
しつこく根を張る黒カビは除去が難しいのですが、根が浅く革の表面に発生する白カビであれば、発見が早ければブラッシングだけで取り除くことができます。
革製品の一部に白いふわふわしたカビが生えている場合は、お家で簡単に取り除くことができます。
しかし、白カビでも根が深くなってしまうと除去が難しくなるので、発見したらなるべく早めに処理することをおすすめします。
お家でカビ取りできない場合
比較的除去しやすい白カビですが、革製品全体に生えてしまっている場合や、革の中にまで根が伸びてしまっている場合には、ブラッシングだけでは除去できません。
そのような場合、革製品にダメージを与える可能性のある、アルコール消毒や水による洗浄などの強い処理が必要になります。
ブラッシングだけで取り除けないカビに関しては、無理してお家で処理しようとせず、クリーニング店に持ち込むことをおすすめします。特に、ブランド物や大切な衣類の場合、取り返しのつかないダメージを与えてしまう前にプロの力を借りましょう。
お家でかんたん!カビ取り方法
それでは、落ちでできるカビ取り方法をご紹介していきましょう。
ブラシは失敗がほぼゼロ!安全なカビ取り方法
お家でできる最も簡単なカビ取り方法は、ブラシを使ったブラッシングでカビを払う方法です。
靴用のブラシには馬毛と豚毛があり、柔らかくて密度の高い馬毛ブラシが最適です。小さなカビの胞子も、残さず払い落せます。
ブラッシングをすると空中にカビが舞うので、吸い込んでしまわないようにマスクを着用しベランダなどの屋外で使用してください。
お値段が割高な馬毛ブラシを購入したくない場合は、もちろん豚毛ブラシでも代用可能です。
革製品をお持ちの場合、お手入れ用のブラシは必需品なので、お好みのものをご用意してください。
牛毛ではないんですが、100円ショップのセリアにも天然の豚毛のブラシ(税込110円)が販売されています。
わざわざ馬毛のブラシを買いたくないという場合は、そちらで代用してもOKです。
カビ臭い場合は風通しのよい場所に吊るす
ブラシでカビを取り除いたあと、カビ臭さが気になるようなら風通しのよい日陰に干します。
ニオイは揮発性なので、風通しのよいところに干しておくと一週間くらいで気にならなくなります。
アルコールを使う場合は色褪せの心配もあるので慎重に
カビの除去にはアルコール(エタノール)が有効ですが、使い方によっては革に脱色やシミなどのダメージを与えてしまうこともあります。
アルコール消毒液が革製品に付着し、変色してしまったというケースを聞いたことはありませんか。
革製品にアルコールを使用するのは、根深いカビが生えてしまった場合の緊急事態のみと考えた方が良いでしょう。使う場合は、目立たない場所で試して変色などがないか確認するようにしてください。
カビ取りでアルコールを使う場合
アルコール除菌には、消毒用エタノールか無水エタノールを使用します。
エタノール濃度が99.5%以上のものを無水エタノールといい、エタノール濃度が80%前後のものを消毒用エタノールといいます。
無水エタノールは濃度が濃すぎるので、無水エタノール8に対して水2の割合で薄めて使います。
柔らかくて乾いた布にアルコールをとり、目立たない場所を試し拭きします。
乾いても変色などが見られないようであれば、全体を消毒していきます。同じように、布にアルコールをとり全体を拭いていきましょう。
アルコールを直接革製品にスプレーしたり、強く押し当てたりしないように注意してください。
また、アルコール除菌シートは水分を多く含んでいることから「水シミ」の原因になることがあるので、革製品のカビ取りには使用しないでください。
除菌が済んだら、革用クリームで忘れずにケアをしましょう。
お家に革用クリームがなければ、ハンドクリームで代用してもOKです。指先で優しくさするように塗りつけてください。
最後に、乾いた布でササっと乾拭きし、余分なクリームをふき取りましょう。
右がアルコール消毒してハンドクリームを塗った状態です。
全体にびっしりついた白カビもアルコールでしっかり取り除けました。
ボディーソープで洗ってクリーム補修の全行程
カビ臭さがどうしても取れない場合、革製品を水洗いするという手もあります。
ただし、革製品は水洗いできないことになっている場合がほとんどです。場合によっては、革製品に施された「なめし」加工がはがれてしまうこともあります。もし洗いを試す場合は、自己責任でお試しください。
革製品用の洗剤も販売されており、そちらを使う方が安全ですが、すぐに洗ってしまいたい場合などはボディソープを使います。
革製品をボディソープで洗ったことがありますが、市販の革製品用の洗剤と同等の仕上がりとなりました。今回の記事でも、ボディソープを使って洗っていきます。
必要なもの:ボディーソープ、やわらいかいスポンジ、乾いたタオル
一点注意として、ボディソープは中性もしくわ弱酸性のものを選んでください。
カビは酸性なのでアルカリ系洗剤の方が効くのですが、革の主成分であるタンパク質も溶かしてしまうので使えません。
革製品を洗う場合は、必ず中性か弱酸性のものを使いましょう。
洗う前の準備として、革靴は中敷や靴紐、レザージャケットの場合はポケットの中などを確認し、取り外せるものはすべて取り外しておいてください。
まず、ブラシで取り除けるだけのカビを払い落します。
次に、人肌くらいのぬるま湯にボディソープを溶かし、革製品全体をつけこんでください。
革は一部分だけ水に付けると水シミになるため、水を使う際は思い切って全体をつけることがポイントです。
柔らかいスポンジか指先で優しく撫で洗いましょう。
泡が出なくなるまで流水でしっかりすすぎます。
乾いたタオルでやさしく押さえるように水気を取ります(擦らないよう注意)。
完全に乾くまで陰干しします。
革靴の場合、靴の中に新聞紙などを詰めて型崩れしないように干します。
ジャケットであれば、濡れたジャケットは重いので肩の部分の負担を軽くさせましょう。
肩幅の広いハンガーにタオルなどを巻き、完全に乾くまで風通しのいい日陰に干します。
平干しすると、下側に水シミができたりするので、レザージャケットは吊り干し推奨です。
一度水を使って洗った革製品は、乾燥が足りないとカビが再発しやすくなります。しっかりと時間をかけて乾燥させてください。
完全に乾いたら保湿クリーム(もしくはハンドクリーム)を塗って、最後は乾拭きしてツヤを出します。
こちらのレザーパートナーという製品は、保湿・艶出しのほかに撥水効果や革の保護などもできるオールインワンタイプ。革製品のお手入れが簡単にできます。
お手入れにつかうのは付属のスポンジではなく、120デニールくらいの厚手のストッキングがおすすめです。
革に塗り込んで、乾いたら柔らかい布で乾拭きします。
しっかり保護してカビの再発を防ぎましょう。
紫外線殺菌はできるだけ短時間で
革製品を太陽の光(紫外線)にあて、カビを除菌する方法もあります。
本来であれば、革製品を紫外線に当てるのは変色につながるためおすすめできませんが、カビが生えた場合の緊急処置として一時間ほどの短時間であれば有効です。
ただし、赤や紺など褐色しやすい革製品には向きません。こちらの方法も水洗い同様、試す場合は自己責任でお試しください。
革製品のカビ防止対策
革製品を長く愛用するためには、そもそもカビが発生しないように予防することが大切です。
前述の方法でカビを取り除くことももちろんできますが、場合によってはダメージとなることもあるので、なるべくカビが発生しないように注意するとよいでしょう。
着用したあとはブラッシング
一度でも着用した衣類には、汚れていないように見えてもほこりや排気ガス、花粉や皮脂などの汚れが付いているものです。
それらを餌にカビが発生しないように、着用したらブラシで汚れを払っておく習慣をつけてください。
革用クリームを拭き取る
保湿のために革用クリームを塗ることは大切ですが、つけすぎるとそれもカビの餌になります。
そのため、革用クリームを塗ったあとは、乾いた布で乾拭きして余計な油分を取り除くことが大切です。
乾拭きの時に使う布は、柔らかいネル生地か110デニール以上のストッキングなど目の詰まった布にしてください。
スポンジやタオルなどはクリームが残りすぎたり、革に傷をつけたりするのでNGです。
クローゼットには除湿機または乾燥剤を使う
湿気が多いクローゼットには、湿気対策として除湿機や乾燥剤を使います。
乾燥剤は「シリカゲル乾燥材」と「塩化カルシウム入り除湿剤」の2種類あります。レザージャケット、レザーバックなどがクローゼットにある場合は、シリカゲル乾燥剤を使ってください。
塩化カルシウムは革を縮ませる成分なので、革製品には向いていません。また、製品によっては変色や変質の恐れがあります。
革製品を収納したクローゼットにはシリカゲル乾燥材、と覚えておきましょう。
雨に濡れた時の対処法
革製品が雨に濡れた場合は、必ずお手入れをしてください。
革製品に湿気は大敵なので、そのままにしておくとあっという間にカビが生えてしまいます。
革靴なら中に新聞紙やキッチンペーパーを詰められるだけ詰め、湿気を吸わせてください。
ジャケットなどは、柔らかい布で水分をふき取り、風通しの良い場所でしっかり乾くまで陰干しします。
また、雨が降りそうな日はそもそも革製品を使わない、という選択も大切です。
フッ素加工の防水スプレーで水分をシャットアウト
水に濡れても革の内部に水分を侵入させないため、防水スプレーをしておくと安心です。
防水スプレーにはフッ素加工とシリコン加工の2種類あり、革に使えるのはフッ素タイプの防水スプレーです。
フッ素タイプは水分の侵入を防いで、蒸気は逃がす構造なので革製品の湿気対策にもぴったりです。汚れや水分が着くまでに予防しましょう。
正しい方法で保管する
革製品にカビが生えてしまわないため、正しい方法で保管することが大切です。
次の段落では、カビを予防するための正しい革製品の保管方法を解説していきます。
こんな保管はNG!正しい革製品の保管方法
カビを発生させないための革の正しい保存方法を見ていきましょう。
ビニールの袋に入れたままにしない
クリーニングに出すとホコリよけのビニール袋をかけてくれますが、これは持ち帰ったら一刻も早く取り外してください。
ビニールは風も通さず蒸気も逃さないので、袋の中に湿気があっても外に放出されません。
ただし、革製品のカビ防止としてホコリをさけることも大切です。カバーをかけるのであれば、ビニールではなく湿気を逃がす不織布のカバーをかけて保存してください。
クローゼットの奥にはしまわない
クローゼットに収納する際は、なるべく手前のエリアに保管しましょう。
革製品にとって湿気は大敵です。クローゼットの開け閉めで空気の流れができやすい、扉付近に保管することをおすすめします。
また、月に一度はクローゼットの中も換気するようにしましょう。
プラスチックのケースに入れない
風を通さないプラスチックケースには革製品を入れないようにしましょう。
汚れを防ぐためにプラスチックケースに入れたくなるかもしれませんが、通気性が悪いので革製品には不向きです。風通しの良い場所に保管しましょう。
長期保管の前にクリーニングに出す
長期保存する前には、一度でも着用した革製品はクリーニングに出すことをおすすめします。
目に見えなくてもカビの大好物の皮脂汚れ、フケ、ホコリ、食べこぼしなどが付着しているものです。
しっかりと取り除いてから長期保存に備えてください。
大切な革製品にカビが生えないように正しい対処をしましょう
今回の記事では、クリーニング歴15年「おうちクリーニング研究家」が、革製品やレザー衣類のカビを安全に取り除く方法と予防策について解説しました。
革製品は、他の製品に比べてそもそもカビが生えやすい特徴があります。
保管場所をできるだけ風通しを良くしておくことが、カビの予防につながります。
万が一カビが発生してしまった場合は、当記事を参考にカビの除去を試してみてください。
なお、試す際は自己責任で試していただくようにしてください。確実に安心に革製品のカビを除去したい場合は、クリーニングなどプロの力を借りるようにしてください。