秋の恒例行事として定着したハロウィンでは、思い思いのコスプレやボディペインティングなどをした子どもたちが楽しそうに歩いているのを街で見かけた人もいると思います。そして次なる秋の恒例行事といえばもちろん、大人のお祭り「ボージョレ・ヌーヴォー解禁」。「11月の第3木曜午前0時解禁」というピンポイントさも盛り上がりを助長させています。
ボジョレー・ヌーヴォーの産地や歴史
そんなボージョレ・ヌーヴォー、まずは産地や歴史などをおさらいしましょう。
フランスのボジョレー地区で造られるボジョレー・ヌーヴォー
フランスのほぼ真ん中から、正確にはもう少し東寄りですが南北に約100km伸びているのがブルゴーニュ地方です。その一番北は白ワインで有名な「シャブリ」、そこから「ロマネ・コンティ」(赤)や「モンラッシェ」(白)など"超"がつくほどの高級ワインを産する地区が続き、最も南に位置するのがボジョレー地区になります。この地区のボジョレー、ボジョレー・ヴィラージュのエリアで造られる新酒(その年に収穫したブドウで仕込み、熟成をさせずに瓶詰めしてすぐ出荷するワイン)がボジョレー・ヌーヴォー。他のブルゴーニュの地区では主に、白ならシャルドネ、赤ならピノ・ノワールという品種でワインが造られていますが、ボジョレー地区だけはガメイという品種から造られます。
ガメイは若いうちは赤い果実(いちごやラズベリーなど)のフレッシュな果実味を感じ取ることができ、タンニンも少ないことからまさに新酒に向いているブドウ。このおなじみの赤ワイン、ボジョレー・ヌーヴォーとボジョレー・ヌーヴォー・ヴィラージュに加え、近年ではロゼも登場、さらにすぐ隣のマコン地区からは白(ブドウはシャルドネ)も登場し、現在はバラエティーに富んだマーケットになっています。
ボジョレーヌーヴォー解禁日が「11月第3木曜日」の理由
日本でもボージョレー・ヌーヴォー解禁時には、カウントダウンイベントが開催され、お祭り騒ぎとなります。でもなぜ、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁にお祭り要素がプラスされるようになったのでしょうか。
中世の頃から新酒は飲まれていましたが、この頃はまだお祭り的(商業的)要素はありませんでした。
ことの発端は今から67年前の1951年。これまで軍隊への供給目的で綿密に決められていた出荷日を廃止し、ボジョレー生産者協会の「ボジョレーのワインは新酒(※)で、しかもできるだけ早く販売したい」という申請に対し、政府が許可したことから動き出します。この地区でのブドウの収穫は9月中旬頃までなので、11月の出荷(解禁)は妥当です。この年の解禁日は11月13日でしたが、その後15年間は日にちを特定せず毎年前後していました。
11月第3木曜日になったのは1985年
1967年から11月15日に固定されたものの、年によっては日曜日に当たってしまいます。ヨーロッパの多くの国々が日曜日は酒店やレストランなどが休業日となります。せっかくの解禁日が休業日になったのでは商売上がったり。盛り上がりも欠いてしまいます。
この状況を解消するため1985年以降、ボージョレー・ヌーヴォーの解禁日は現在の11月第3木曜日に固定されたのでした。日本にボジョレー・ヌーヴォーが最初に入ってきたのもこの年で、以来途切れることなく日本で親しまれています。
※なおボジョレー地区で造られているのは、実はヌーヴォーだけではありません。この他に同じガメイ品種で造られながらも新酒では出さず、熟成を経て、早くても出荷は翌年以降という「クリュ・ボジョレー」があります。ちなみにこの「クリュ・ボジョレー」地区の10村はヌーヴォーを造ることが許されていません。
世界で最もボジョレー・ヌーヴォーを輸入する日本
海外への出荷量は2004年をピークに、翌年からは徐々に減少を続けています。現在はピーク時の約5割程度にまで縮小したものの、日本は国別輸入数量では2位のアメリカ、3位のカナダに大差をつけてのトップは今も変わっていません。
ボジョレー・ヌーヴォーは本拠地のボジョレー地区はもちろん、大都市パリやボジョレー地区に隣接している美食の都リヨンなどで長年親しまれているようです。日本は主要国の中では時差の関係で最も早く解禁を迎える国で、お祭り好きな国民性も反映してか、毎年盛り上がりを見せています。
「50年に一度」「100年に一度」のキャッチコピー
ところで、ボジョレー・ヌーヴォーには「50年に一度」や「豊満で朗らか、絹のようにしなやか」など毎年異なるキャッチコピーが付いているのをご存知ですか?これらはボジョレーワイン委員会が、その年のボジョレー・ヌーヴォーの特徴を表してつけたもの。「今年はどんな文言だろうか」と注目している人もいるはず。
もちろん売るためのキャッチコピーなので、ネガティブな表現は一切されていません。しかしながら、「100年に一度(2003年)」や「50年に一度(2009年)」といった表現は、良年を手放しで喜んでいるのがわかると思います(100年に一度の6年後に50年に一度が訪れる矛盾はご愛敬! )。
天候がカギを握る
一方、農産物であるブドウの出来はその年の質や特徴を大きく変えてしまうので、正直"難しい年"と表現される良年ではない年もあるわけです。大雪が降るなどした冬や、春先の寒さが長いとブドウの発育は遅れ、夏の成長期に雨が続くとカビなどの病害、ひょうが降るとブドウに大きなダメージとなってしまいます。「このままいくと……」と不安になってしまいますが、収穫前にカラリと晴れた日が続けばそれまでの悪天候を一気に挽回できたりもします。
本当に天候というのはわからなく厄介、時に無情なもの。しばしばやってくるこの"難しい年"を克服するべく収穫時期を見極めたり、醸造の方法を工夫したりして、11月第3木曜日に向けて造り手たちは奮闘するのです。幸い近年は醸造技術、醸造機器ともに発達しているので、ワインのクオリティーは安定しています。あとは「その年のブドウ×造り手の個性」を楽しめばいいのです。
ボジョレー・ヌーヴォーの出来が高級ワインの指針にも
もう一つ、ボジョレー・ヌーヴォーの出来には重要な意味合いが。新酒であるボジョレー・ヌーヴォーは、ブルゴーニュ全域や同じ気候の近隣の地域のヴィンテージの良し悪しを計る指標でもあるのです。ボジョレー・ヌーヴォーの出来が良ければ、その年のヴィンテージの高級ワイン(長期熟成が必要なので市場に出るのは数年後)も「グレートヴィンテージ」となることが容易に想像できます(したがって高値の取引も想像できます)。
2019年のボジョレー・ヌーヴォーは……
完璧な天候のおかげでクオリティの高いヌーヴォーとなった2018年。気になる今年の出来はどうなっているのでしょうか?
今年のボジョレー地区のブドウの収穫量は、平年より20~30%減とのこと。少ないということは天候による影響が少なからずあったということです。春は寒く霜が降り、夏には大規模なひょうが降った後に記録的な熱波が襲いました。その後の天候は回復し、9月9日から無事収穫が始まりましたが、どうやら昨年のように手放しで喜べる良年とはいかなかったようです。
こうなると”造り手の技量”に委ねられることになります。収穫のタイミングや醸造のテクニックによって、ブドウの特徴というよりは、造り手の個性がより際立つ収穫年になりそうですね。
解禁日当日から数日間は店頭で試飲できる店舗もあるので、いくつか試飲しながら好みのヌーヴォーを見つけることをおすすめします。
今年はどんなキャッチコピーがつくのかも気になるところ。今から予想しながら、来たる11月第3週木曜を楽しみに待ちましょう。