今年もあと2カ月あまり。ふるさと納税の申し込みはしましたか。節税につながるふるさと納税ですが、住宅ローン控除など他の制度と併用する際には注意が必要なこともあります。「トクするつもりだったのにうっかり損をしてしまった」なんてことのないよう、ふるさと納税と他の制度のバランスについて再確認しましょう。解説はファイナンシャルプランナーの冨士野喜子さんです。
ふるさと納税と併用できる制度は?
選んだ自治体に寄附することで、所得税と住民税が返ってくる「ふるさと納税」制度。節税できる上、寄附のお礼として地域の特産品が届くということで、とても人気の制度です。
また、ふるさと納税以外に節税効果のある制度としては、「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」「医療費控除」「雑損控除」の他、iDeCoの掛け金も「小規模企業共済等掛金控除」があり、ふるさと納税と併用することができます。
しかし、これらの控除を利用しても返ってくる税金の上限は、納税した金額までです。まずは、ご自身が支払っている税金額を把握しましょう。所得税は、源泉徴収票の「源泉徴収税額」、住民税は住民税決定通知書の「税額」部分に記載されています。確定申告をする人は、確定申告書をチェックしましょう。
住宅ローン控除と併用する場合
住宅ローン控除とは、住宅の取得や増改築で住宅ローンを組んだ場合、居住を開始した年以後10年間、毎年の所得税と住民税の一部が還付となる制度です。還付金額は住宅ローンの年末残高の1%かつ、最大40万円までとなっています。※新築の認定住宅の場合は最大50万円まで。なお、居住を開始した年によって最大の控除金額のは変わることがあます。
例えば、認定住宅ではなく、住宅を取得し、年末の借入残高が3,000万円の場合を例にしましょう。3,000万円×1%=30万円で、最大額の40万円以下となりますので、30万円が還付される税金の上限となります。そして所得税の納税額が10万円、住民税の納税額が17万円の方の場合は、控除枠30万円に対し所得税額は10万円ですので、所得税は全額返ってきます。さらに、所得税では引ききれなかった控除枠が残り20万円あるので住民税から、その一部が返ってきます。なお、住宅ローン控除による控除額がその年の所得税額より多いケースでは、ふるさと納税によって返ってくる金額は住民税からのみになりますので、お得感は薄れることがあります。
医療費控除やiDeCoの場合は?
住宅ローン減税が「税額控除」なのに対し、医療費控除や雑損控除、iDeCoの場合は「所得控除」となります。「税額控除」は、上記でご紹介したように、支払う税金から控除額をそのまま引きますが、「所得控除」では、税金の計算過程での優遇になることに注意が必要です。
税金の計算式は、
- 収入-経費=所得(所得の種類は10種類)
- 各所得の合計-「所得控除」=課税所得×税率=納税額
となっています。「所得控除」が多くなると、課税所得が少なくなるので、支払う税金が少なくなる、という仕組みです。税率は、所得税の場合は5%~45%と、所得が多くなるにつれて税率が高くなる超過累進税率です。住民税の税率は一律となっており、ほとんどの自治体が10%となっています(平成49年までは、復興特別所得税が加算されます)。
iDeCoの掛金は「全額」が所得控除となりますが、その他の控除は、費用の一部が控除対象額となります。例えば、医療費控除は1月1日~12月31日までの「医療費合計額-保険金などで補填される金額-10万円」(総所得所得が200万円未満の場合は、総所得金額×5%)が所得控除に加えられます。
その他、本人や本人と生活を一にする配偶者や親族の資産が盗難や災害によって損害を受けた場合は、「雑損控除」で所得控除の適用を受けることができます。ただし、その場合も「損失額(損失額から保険金などの金額を引いたもの)-総所得金額×10%」か控除の金額になるので、損失額全てが控除となる訳ではありません(災害による損失の場合は、「災害関連支出の合計-5万円」とどちらか多い方を選択)。
具体例から……世帯収入590万円、子ども2人の4人世帯の場合
例えば、以下の家庭の場合で考えてみましょう。
≪家族構成≫
- 夫: 会社員 / 年収500万円
- 妻: パート / 年収90万円
- 子ども2人(16歳未満)
≪夫の源泉徴収票より≫
- 社会保険料控除: 90万円(年間で支払った年金保険料、健康保険料、雇用保険料)
- 生命保険料控除: 12万円(平成24年1月1日以降に加入した個人年金保険、生命保険、医療保険にそれぞれ年間10万円支払い)
- 配偶者控除: 38万円
- 基礎控除: 38万円
- 源泉徴収税額: 8万4,000円……(1) ※子どもの年齢が16歳未満の場合は扶養控除無し
≪住民税決定通知書より≫
- 納税額: 18万6,000円……(2)
≪その他≫
- 所得税の課税所得は168万円(所得税率5%*)
- 住民税の課税所得は186万円(住民税率10%)
*所得税率は、国税庁のウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)を参照
住宅ローン控除が15万円だった場合(住宅ローンの残高が1,500万円)は、(1)の所得税は全額返ってきます。(1)で引ききれなかった残り6万6,000円は、住民税から返ってきます。 なお、住民税から返ってくる税金の上限は、所得税の課税所得金額の5%の9万7,500円(平成26年以降に居住し、購入の際に消費税8%が適用されている場合は8%の13万6,500円)が上限となっています。
ここで、寄附(ふるさと納税)を2万円した場合について考えていきましょう。
ふるさと納税をしたことによる控除額は、
(1)所得税: (2万円-2千円)×5%(所得税率)=900円
(2)住民税 基本分: (2万円-2千円)×10%=1,800円
(3)住民税 特例分: (2万円-2千円)×(100%-10%-所得税率5%)=1万5,300円
所得税は、既に住宅ローン控除から全額が還付されているため、(1)は返ってきません。住民税は、住宅ローン控除を引いても残り12万円分の税金を引くことができるので(住民税: 18万6,000円-住民税分の住宅ローン控除: 6万6,000円)、(2)+(3)=1万7,100円が住民税から還付となります。自己負担額は2,900円です(寄付額2万円-還付額1万7,100円)。
さらに、iDeCOに加入して、掛金を年間12万円にした場合、12万円×10%(住民税率)=1万2,000円
この金額分の住民税は安くなります。ちなみに住宅ローン控除は10年で終了するので、その後は所得税分のふるさと納税や、iDeCoの所得税分(12万円×所得税率5%=6,000円)は返ってくるようになります。
年間数万円の節税ですが、積もり積もれば山となる。まずは、ご自身の税額を把握し、ふるさと納税をはじめ「所得控除」や「税額控除」を上手に活用しませんか。