夏になるとスーパーなどの店頭で見かける「土用丑の日」の文字。夏の土用丑の日はウナギを食べることで有名ですが、どうしてウナギを食べるようになったのかご存知でしょうか。「土用丑の日」とはどういった日なのか、なぜウナギを食べるのかなど、民俗情報工学研究家の井戸理恵子先生に教えてもらいました。
「土用丑の日」ってどんな日?
ウナギを食べる理由を知る前に、まずは「土用丑の日」の意味について紹介します。
「土用」とは
「土用」とは、中国の道教(どうきょう)の教えにある「土旺用事(どおうようじ)」という言葉を略した呼び方です。土旺用事は「土が盛んにはたらく(旺=盛ん)」ということを意味します。
同じく中国に伝わる「陰陽五行説」では、万物が「木火土金水」と呼ばれる五つの要素から成っていると考えられています。かつて、それぞれを1年の春夏秋冬にあてはめたところ、「木」は春、「火」は夏、「金」は秋、「水」は冬となり、「土」が余りました。土はこれら季節の中間に入り、春夏秋冬どれでもない「間」の期間とされました。こうして、二十四節季の「立春」「立夏」「立秋」「立冬」前の18日間をそれぞれ「土用」と呼び、土が盛んになる時期と考えられるようになったといいます。ちなみに、今では「節分」といえば2月3日を指しますが、本来はそれぞれの季節の節目になる日を節分と呼んだため、土用の終わり(立夏、立冬などの前日)が節分と呼ばれていました。
古来よりこの4つの土用の期間は、二十四節季の「穀雨(春)」「大暑(夏)」「霜降(秋)」「大寒(冬)」の頃に重なり、暑さや寒さなどそれぞれの季節が最も極まり、体調を崩しやすい時期と言われていました。昔の人は、土用の時期は体を壊しやすいので、体の養生や健康への留意をするように考えていたといいます。
「丑の日」とは
子丑寅…といった干支は、年だけでなく日の考え方にも同じくあてはまります。「丑の日」とは、「丑」の干支があてはまる日のこと。干支には12種類の動物がいるため、12日ごとに丑の日がまわってきます。
先ほども出ていた「五行」の考え方で、「丑」とは水を意味します。水と土は相性が悪く、合わさることで土砂崩れなどの災害が起こってしまうことも。つまり、土用丑の日とは土用の日のなかで最も相性が悪く、忌むべき日を指しています。
以上をまとめると、「土用丑の日」とは「土用」の期間中の「丑の日」を指し、注意を促した方が良い日と考えられます。ちなみに、今年2018年は7月20日と8月1日が土用丑の日となります。
夏の印象が強いのはなぜ?
これまで説明した通り、「土用」は春夏秋冬どの時期にも存在します。ですが、土用丑の日というと夏のイメージが強いですよね。これはなぜかと言うと、春夏秋冬の土用の中でも夏の土用が最も体調を崩しやすいと考えられていたため。大暑(夏の土用)の頃は、暑さで人の精気が奪われると同時に菌も繁殖しやすく、疫病も流行りやすい時期。また暑いがゆえに水の事故も多く、人の命が危なくなることが多いため、夏が特に危険視されたというわけです。
ウナギを食べる理由
土用丑の日にはウナギを食べる習慣がありますね。これは江戸時代の科学者であった「平賀源内(ひらがげんない)」という人物のエピソードに由来します。平賀源内は当時「電気ウナギ」に関する実験をしており、ウナギ店の店主とも親しくしていました。
この頃、脂があまりのっていない「夏のウナギ」はおいしくないと言われおり、ウナギが売れずウナギ店が困っていたといいます。そこで何とか夏にもウナギを売るべく、平賀源内が「ウナギは滋養強壮に良いので夏にぴったりである」といった内容の看板をウナギ店の店頭に出したところ、大ヒット。夏にウナギが売れるようになりました。これが現代にも受け継がれているため、体調を崩しやすい夏の土用丑の日にウナギを食べるのです。
ウナギ以外に食べる物
土用丑の日には、ウナギの他に「黒いものを食べると良い」や「『ウ』がつく食べ物を食べると良い」と言われています。「ウ」がつく食べ物といえば、うどんや梅干し、瓜など。特に瓜は水分が多く身体を冷やす効果もあると言われるため、キュウリやスイカなどはこの時期に食べておきたい食材だと考えられています。
また、夏の土用は梅雨が明け、晴れ間が出てくる時期。「土用干し」といって、書物や衣服などを干して風通しする風習もありました。この土用干しの時期は、おいしい梅干しを作るのにもぴったり。梅干しは梅雨の時期に梅を漬け込みますが、その漬け込んだ梅を夏の土用に干す「梅の土用干し」をして完成すると良いと言われます。ちなみに食べ物ではありませんが、この時期は「土用風呂」といって、柿の葉のお風呂に入るのも良いとされます。抗菌効果の高い柿の葉のお風呂は、邪気からも身を守ると考えられていたのです。
土用丑の日の頃は、気温も高く夏風邪をひくなど病気になりやすい時期。ウナギを食べて体力をつけ、暑い夏を乗り切りましょう!
監修: 井戸理恵子
今回お話を聞いた先生
井戸理恵子(いどりえこ)
ゆきすきのくに代表、民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大學卒業後、株式会社リクルートフロムエーを経て現職。現在、多摩美術大学の非常勤講師として教鞭を執る傍ら、日本全国をまわって、先人の受け継いできた各地に残る伝統儀礼、風習、歌謡、信仰、地域特有の祭り、習慣、伝統技術などについて民俗学的な視点から、その意味と本質を読み解き、現代に活かすことを目的とする活動を精力的に続けている。「OrganicCafeゆきすきのくに」も運営。坐禅や行事の歴史を知る会など、日本の文化にまつわるイベントも不定期開催。