富士山の銘水株式会社が展開するウォーターサーバーブランド「FRECIOUS dewo」が今年10月で発売開始から10周年を迎えることを記念し、5月29日に東京都内でレセプションを開催。これまでの10年の歩みが語られたほか、同製品の開発に関わったプロダクトデザイナーの安積伸氏、インテリアスタイリストの窪川勝哉氏をゲストに招いたトークセッションが行われた。
ウォーターサーバーの革新的プロダクトが歩んだ10年間
2014年に発売された「FRECIOUS dewo(フレシャス・デュオ)」は、高い機能性に加え日本の住空間に馴染むおしゃれなデザインで好評のウォーターサーバーブランドだ。初代モデルの発売後、2017年に卓上サイズの「dewo mini」、2018年にボトルタイプの「dewo bottle」をリリース。さらに2021年からは浄水タイプの「every」シリーズを追加し、カフェ機能のあるモデルも加えるなど、多彩なレパートリーで人気を博している。
デザイナー職を夢見る10代から20代の若者を招いて行われたこの日のレセプションでは、富士山の銘水株式会社でFRECIOUS dewoに開発時から携わってきた溝内竜士取締役がはじめに挨拶。
10周年を迎えるにあたり喜びを述べた同氏は、同ブランド設立のきっかけに「東日本大震災以降の社会の変化」を挙げ、「防災意識や備蓄意識の高まりが、それまではオフィスなどでの利用が中心だったウォーターサーバーが各家庭に浸透する流れを生んだ」と述懐。その上で「当時は大きくて無機質な形のウォーターサーバーが主流でしたが、家庭で使われるこれからのウォーターサーバーは機能性とデザイン性が良くなければ受け入れられないと思い、FRECIOUS dewoの開発に至りました」と述べながら、これまでの10年を振り返った。
FRECIOUS dewoがロングヒットになった秘訣は?
過去にグッドデザイン賞やキッズデザイン賞を受賞し、現在も年間2万台近い出荷を続けるFRECIOUS dewoシリーズは、初代モデルのコンセプトを変えず、時代ごとのニーズを取り入れながら少しずつ変化を加えてきた。そのベースを作ったのが、プロダクトデザイナーの安積伸氏であり、時代に合わせたエッセンスを加えてきたのがインテリアスタイリストの窪川勝哉氏だ。続くプログラムでは、両者をゲストに招き、溝内氏を交えた三者によるトークセッションが展開された。
安積伸氏は、1994年にイギリスのロイヤルカレッジ・オブ・アートの修士課程を修了後、デザインユニットAZUMIとして10年間活動した後に、自身のスタジオ「a studio」を設立。T-fal社はじめ数々の世界的企業でプロダクトデザインに携わってきた。また、2016年からは法政大学デザイン工学部システムデザイン学科の教授を務めるなど後進の育成にも力を注ぐ。
前半のトークは、「観察と分析 使用者に対する徹底した配慮」を出発点に、「家庭用機器として美しく快適な在り方とは?」というアプローチでFRECIOUS dewoをデザインした安積氏が、本製品の設計思想を振り返る形で進行。
「当時、大型中型の調理家電の仕事はいろいろやっていましたが、家庭用製品というのは手がけたことがなく、その上で既存のウォーターサーバーを調べてみると、見栄えが素敵なものがなく、操作性もかなり非人間的な形だったので、これは我々の手で楽しいと思ってもらえるようなデザインを提供できればかなり大きな変化を起こせるのではないかと、非常に可能性のある仕事だと感じました」
オファーを受けた当時の思い出をそう振り返った同氏は、旧来のウォーターサーバーに感じた問題点をひとつひとつ洗い出した上で、それらを改良した形をひとつの製品として美しくまとめ上げるアプローチで造られていったFRECIOUS dewoのこだわりを開発当時の資料を交えながら解説。
当時、問題点として挙がったのは、「上方に設置するガロンボトルがとにかく重い」「給水レバーが下方にあり、押し込み式レバーが使いづらい」「トレイが浅く、鍋などが置けない」「設備的なデザインで家庭のインテリアに馴染まない」といった点。
それに対して、改良のポイントには「①エルゴノミクス(人間工学)的要素の見直し(→身体的にストレスの少ない寸法・角度)」「②直感的に操作ができるようインターフェイスを整理(誤操作を誘発しないボタンレイアウト)」「③調理に使用しやすい給水部の提供(生活の中で求められる機能性を精査する)」「④力の弱いユーザーでも扱いやすい小型パック(ターゲットユーザーに寄り添う最適なスペックの精査)」「⑤建築造作に準ずる幾何形体、空間の一部、環境に溶け込むデザイン(快適な使用環境を生み出すための配慮)」という5点が挙げられた。
このうち、②については「旧来のような押し込み型のレバーを上の方にボタンにして持ってきて非常にアクセスしやすい形にしたり、目を閉じたりよそ見していても直感的にボタンの位置がわかるインターフェイスにこだわった。LEDの表示もまぶしくなりすぎないようにしました」と安積氏が述べたのに対し、溝内氏は「それまでのウォーターサーバーでは子どもの火傷リスクが非常に問題化していて、各社チャイルドロックを設けるなどしていたが、そのために水を出すまでの行程が増えて使いづらくなっていた。そこをFRECIOUS dewoでは子どもの手が届かない場所にボタンを設けるという発想で、この問題をシンプルに解決しました」とこだわりを語った。
一方で、④については、FRECIOUS dewoの大きな魅力である小型のビニールパックからの給水について言及があり、溝内氏が「使い終わった後のパックは小さく畳んでリサイクルゴミに出すことができます。パックから水が漏れないのを不思議に思われるかもしれませんが、そのあたりは三層構造の技術など当社のいろんなノウハウを投じて実現できたもので、ガロンボトルのように回収の必要もなく、SDGsなどが叫ばれる前に先んじて環境配慮に貢献できた部分だと思います」とコメント。そのほか、鍋をおける広さのトレイ、家庭の建築空間に馴染むなど、観察と分析の結果が美しくひとつのデザインに結実されている点が紹介された。
後半のトークでは、インテリアスタイリストの窪川氏を中心に、流行の変化を捉えたFRECIOUS dewoのカラー展開に関する話題に。また、その後の質疑応答では会場に集まった学生たちから質問が寄せられ、「今後、メーカーが家電の装飾性に力を入れる時代は来るか?」「アイデアが出てこなかった時にするべきことは?」といった問いに登壇者の三名が答えた。
最後に司会者から「長くヒットする家電を作るコツ」を尋ねられた安積氏は、「人間の本質というのは百年くらい変わらないと思っているので、いかにそれを捕まえ、新しい技術の中に定着していくかが重要。深い身体性への理解を、生活品質や使い方の中にちゃんと汲み取って、歪まない形で作り上げることができたら、それなりに息の長い製品になると思います」とコメント。一方で、この10周年について感想を改めて尋ねられた窪川氏は「インテリアスタイリストとしていろいろな製品と関わっている中で、こうして10年続き、この先もさらに続いていくもの、そして皆さんに愛されているものに携われていることを嬉しく思います」と話した。
そして、同ブランドの今後の展望を尋ねられた溝内氏は「安積さんの話では、10年同じシーンで売れ続けるロングセラーはなかなかないと聞いています。その上で今でもうちの屋台骨を支えているのはこのシリーズなので、10周年は通過点だと思っています。これからもベースの考え方、デザイン、設計は変えずに、その時々のトレンドを取り入れながら、20年30年続けていきたいと考えています」と述べて全体を締めくくった。
来るべき10周年を華やかに祝ったFRECIOUS dewo。なお、今年中にリニューアルも予定されているそうで、新たな発表にも期待だ。
【「FRECIOUS dewo」公式ホームページ】
https://www.frecious.jp/dewo/