昨今の情勢下により、頭痛や不眠、気分の落ち込みやイライラといった体の不調や違和感、心の不安感を感じている方も多いのではないだろうか。外出自粛や在宅勤務、休業などによる生活不安やストレス、生活環境の変化などから体や心に様々な不調が起こっており、早急にこれらの対策が必要となっている今日この頃。そんな多くの人が不調や不安を抱える今、改めて注目されているのが「オメガ3系脂肪酸(以下、オメガ3)」だ。脳への働きや血流を促す効果から、様々な効果が期待できると多くの研究で報じられている。毎日たった小さじ1杯のオメガ3を摂るだけで、多くの不調や症状の改善効果が期待できるとされるオメガ3。代表的なオメガ3のアマニ油・えごま油をどう摂ると良いのかなど医師や有識者・管理栄養士の方々が詳しく教えてくれた。
【各先生・プロフィール】
麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科 食品栄養学研究室 教授。横浜市立大学卒 国立がんセンター研究所、東京大学 薬学部に研究出向の後、同大学で博士号を取得。米国国立衛生研究所(NIH)で脂肪酸と脳機能に関して研究。2008年より現職。日本脂質栄養学会 理事長。気分障害を中心としたオメガ3系脂肪酸に関する脳機能研究の第一人者。
内科医・糖尿病内科・統合医療医・漢方医。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。現在は自身のクリニック、みやま市工藤内科で地域医療に力を注いでいる。専門は、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病、漢方治療・ダイエット治療など多岐にわたる。テレビ・ラジオなどのメディアではジャンルを問わず様々な医療の最新情報を発信している。
小児科医、公衆衛生の専門医 赤坂ファミリークリニック 院長。東京外国語大卒、同時通訳者として従事。その後、帝京大学医学部卒、東京大学大学院終了。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。近著に『抗酸化ごま生活』(アスコム)、『小児科医がすすめる最高の子育て食』(講談社)等。テレビ・雑誌などメディア出演多数。二児の母。
健康のカギは、オメガ3の摂取で“細胞膜を柔らかく保つ”こと
「油は、摂りすぎに注意する時代から、今では必要な油を賢くバランス良く摂ることが、美と健康に不可欠な時代となりました。脂質(油脂)は糖質やタンパク質と並ぶ三大栄養素の一つで、生きていくために必ず摂らなければならないもの。体を動かすエネルギーになるほか、私たちの体を作っている約37兆個と言われる全ての細胞ひとつひとつを覆っている膜を作る大切な材料となっています。そして、その細胞膜にオメガ3の油が適度に含まれることが、細胞膜自体の柔らかさに繋がり、体と心と脳の健康を大きく左右することがわかっています。オメガ3の油は、体内で合成できない必須脂肪酸のため、一生にわたり、普段の食事から摂る必要があります。毎日小さじ1杯をきちんと摂ることで、体は少しずつ変化します。まずは約1ヵ月程度を目安に肌のツヤを見てください。脳への影響は約半年ほどかかりますが、摂り続けることですべての細胞・臓器にオメガ3が行き渡るので、確実に手ごたえを感じるはず。若々しく健康でいるために、正しい油の働きを知って毎日の食生活に取り入れることをおすすめします」(守口先生)
油(脂質)には大きく分けて4種類あり、細胞の働きに大きく影響するのがオメガ3とオメガ6の油だとか。理想的な脂肪酸の摂取バランスは、オメガ3が1、オメガ6が2~4程度と言われており、オメガ6の油はサラダ油、ごま油、マーガリン、マヨネーズ、菓子パン、スナック菓子、スーパーの惣菜やコンビニ弁当などの加工食品にも多く含まれており、止血やウイルスなど病原菌から体を守る働きがある。オメガ3、オメガ6共にそれぞれの役割があるため、 油の摂取バランスがとても大事だそうだ。
「オメガ3は、私たちの体内ではつくることができない、けれども絶対に必要な油です。しかし、たいがいの人は十分に摂れていません。アマニ油、えごま油は加熱をすると酸化しやすいので加熱調理での使用を控えて、食事の時間になったら食卓に出して、“ちょい足し”する習慣が良いと思います。お味噌汁やサラダにかける使い方をおススメします。トマトソースやデミグラスソースなどにも合います。メイプルシロップにちょっと混ぜてデザートに使うのも良いですね。またオメガ3の油は、脂溶性ビタミン食材(ビタミンA・D・E・K)と組み合わせると、よりオメガ3の吸収が高まります。まだまだたくさんの効果に注目しています。年齢に関係なく、α-リノレン酸、EPA、DHAは虚血性心血管疾患を予防、乳がん、大腸がん、子宮がん、皮膚がんのリスクを下げる、産後うつ、躁鬱病、認知症、高血圧、糖尿病、黄斑変性症を予防するなど。オメガ3を毎日摂っておくことはとても大切なことです」(伊藤先生)
オメガ3が摂れるアマニ油・えごま油について
亜麻の種子から絞った油。アレルギー反応の抑制、生活習慣病のリスク低減が期待できる必須脂肪酸であるα-リノレン酸を高濃度で含有。フラックスシードオイルとも呼ばれる。
シソ科のえごまの種子から絞った油。アレルギー反応の抑制、生活習慣病のリスク低減が期待できる必須脂肪酸であるα-リノレン酸を高濃度で含有。
オメガ3不足は高血圧、動脈硬化などの血管性疾患の原因にも
「オメガ3は、心筋梗塞の発症リスクを下げる、炎症を抑える、リウマチの症状を抑える、中性脂肪を下げる、動脈硬化を予防する、血圧を下げるといった様々な効果が注目されています。中性脂肪を減らし、肥満の予防にもつながる、肥満の治療としてのメンタルにも良い効果があります。(工藤先生)
アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー症状も改善
「オメガ3を摂り始めた方から、『長年の悩みだったアトピー性皮膚炎が良くなった』『花粉症がラクになった』といった声を度々いただきます。その理由は2つ。1つは、炎症を抑える作用があるEPA(オメガ3)に、アレルギー反応を抑制する働きがあること。もう一つは、オメガ3とオメガ6の脂肪酸バランスが理想の比率に近づき、痛みや炎症の原因になる物質の産生を抑制できたことが考えられます。実際、オメガ3の継続的な摂取による、アトピー性湿疹、花粉によるアレルギー性結膜炎の症状の改善効果は医学的な研究データでも証明されています。アレルギー症状の改善のためにも、オメガ3の摂取は重要だといえます」(守口先生)
物忘れや記憶力の低下など認知症予防にも効果的なオメガ3
「脳細胞の油の入れ替わりは半年から1年はかかるとされていますので、日頃からオメガ3をしっかり摂っておくことで、脳の環境を健全な状態に保ち、年齢相応に老いていくことができます。アルツハイマー病の発生に関わるアミロイドβ蛋白を脳に注入したマウス実験では、DHA(オメガ3)が十分足りているマウスは不足しているマウスに比べて、認知症の症状が軽減されていたという研究結果が出ました」(守口先生)
他にもオメガ3が骨密度を高めたり、ドライアイ予防にも効果的とのこと。
ストレス社会に生きる現代人に不可欠なオメガ3
「オメガ3には『抗不安作用』があると言われています。イライラ、怒りっぽい、気持ちがふさぐ、すっきりしない、などさまざまな心の不調は『不安』から来ていることが多いので、オメガ3の抗うつ効果は新たな注目を集めるのではないでしょうか。脳にはオメガ3が集まっていて、脳の神経細胞を作る材料としても使われています。オメガ3を毎日摂って、メンタル面のケアと記憶力の低下を予防するというのはとても良いと思います。」(工藤先生)
「オメガ3の不足はうつなどネガティブ思考と関連していることが示されています。なおかつ、脳機能全体も下がっていくので、集中力の低下、また認知症のリスクが上がることが知られています。脳のレジリエンス(流動性、柔軟性)が欠けていくので、強迫傾向になり摂食障害なども引き起こしやすくなることを示す研究も多数あります。」(伊藤先生)
「最近、すぐに感情が高ぶる人が増えていますよね。キレやすい子どもによるいじめや、家庭内暴力、親の育児放棄、児童虐待など、私たちは、それもオメガ3不足が原因の1つだと推測しています。平常時は、オメガ3が不足した状態でも何も変わりませんが、生活環境などから強いストレスを受けると、簡単に攻撃的になる(限界レベルが低くなる)ことが動物実験でもわかっており、すぐにキレる、簡単なことで怒鳴る、判断が鈍ってしまい怒らなくても良いことでも相手に当ってしまうなど、攻撃性が増します。このような状態に陥るのを予防する、軽減するためにもオメガ3の摂取は大切です」(守口先生)
ここで管理栄養士の金丸絵里加さんと柴田真希さん監修による「体が変わる!アマニ油・えごま油レシピ」を紹介しよう。
【管理栄養士 金丸絵里加さん監修レシピ】
たことわかめキムチやっこ
たことわかめ、キムチがたっぷりのったボリュームたっぷりの冷やっこ。たこのタウリン、わかめの食物繊維、発酵食品のキムチが腸内環境を整えます。アマニ油・えごま油をプラスすることで便秘の改善、短鎖脂肪酸がつくれる腸内環境に整え、免疫力を高めたり、肥満を防いだりする効果も。糖尿病などの生活習慣病の予防、ダイエットにもつながります。
■材料(2人分)
ゆでたこ…足1本(80g)
塩蔵わかめ…40g
白菜キムチ…60g
木綿豆腐…1丁(300g)
白だし醤油…小さじ1
アマニ油orえごま油…小さじ2
■作り方
① 豆腐は水気をきってさっと洗い、器に盛る。
② タコはそぎ切り、キムチは粗く刻み、ワカメは戻して食べやすい大きさに切る。
③ ②と白だし醤油を加えてなじむように混ぜ、①の豆腐の上にのせてアマニ油orえごま油をかける。
えのきと小松菜とごぼうのみそ汁
野菜がたっぷりとれる具沢山みそ汁。食物繊維が豊富なえのきとごぼう、発酵食品のみそ、アマニ油・えごま油を組み合わせることで効果的に腸内環境を整え、便秘を改善。またたっぷり含まれる水溶性食物繊維&不溶性食物繊維により消化と吸収が抑えられ、食後の血糖値の上昇をゆるやかにします。油脂を加えることで、小腸での糖の吸収を遅らせ、血糖値の上昇も抑制。また腹持ちが良く食べ過ぎ防止で生活習慣病予防にも。
■材料(2人分)
えのきたけ…1/2袋
白菜…2枚
小松菜…2株
ごぼう…1/2本(80g)
だし汁…1と1/2カップ~2カップ
みそ…大さじ1と1/2~2
アマニ油orえごま油…小さじ2
■作り方
① えのきたけは長さを3等分に切ってほぐす。白菜は縦半分に切ってから横細切りにする。小松菜は3~4㎝の食べやすい長さに切り、ごぼうは縦半分に切って斜め薄切りにする。
② 鍋にだし汁とえのき、ごぼう、白菜の芯の部分を入れて強めの中火にかける。煮立ったら火を弱めてそのまま2~3分煮込む。小松菜と残りの白菜を加えてさらに煮て野菜に火が通ったら、みそを溶き入れて火を止める。器に盛り、アマニ油orえごま油をかける。
【管理栄養士 柴田真希さん監修レシピ】
みそマスタードドレッシング
みそ、粒マスタード、酢、砂糖とアマニ油・えごま油を合わせた、みそベースのドレッシング。粒マスタードの食感と酢の酸味がアクセントに。さつまいもとブロッコリーのサラダに合わせたり、豚しゃぶや温野菜のつけダレにも。
■材料(作りやすい分量・6人分)
砂糖…大さじ1
みそ…大さじ2
粒マスタード…大さじ2
酢…大さじ2
アマニ油orえごま油…大さじ2
■作り方
① 材料を上から順に混ぜ合わせる。
※すぐに使わない場合は、油以外の調味料を混ぜておき、食べるタイミングで油を混ぜると酸化を防ぐ事ができる。
豆腐ティラミス
絹ごし豆腐と全粒粉パン、アマニ油・えごま油などを使ったヘルシーティラミス。オメガ3のほか、たんぱく質やイソフラボンも豊富。美肌、PMS&更年期症状、骨粗しょう症予防、子どもの集中力や学習能力向上に効果が期待できます。
■材料(2人分)
・(A)木綿豆腐…1/2丁(150g)
砂糖…大さじ1
レモン汁…大さじ1
アマニ油orえごま油:小さじ2
・全粒粉パン(ライ麦パン)…6枚切り1枚
・(B)インスタントコーヒー…大さじ1
砂糖…各大さじ1
熱湯…50㎖
・ラム酒…大さじ1
・ココアパウダー…適量
■作り方
① 木綿豆腐を耐熱容器に入れて600Wの電子レンジに2分ほどかける。水気を切り、ペーパータオルなどに包んで5~10分ほど水切りをする。(A)を深めのボウルなどに入れてハンドブレンダーにかける(フードプロセッサー、泡立て器でも可能)。
②(B)を混ぜて砂糖を溶かし、粗熱が取れたらラム酒を加える。全粒粉パンを16等分に切り、バットなどに入れてこれをしみ込ませる。
③ グラスに②を1/4量ずつ入れ、①を1/4量ずつのせこれを2回繰り返す。同じものをもう一つ作る。冷蔵庫で冷やし、食べる時に茶こしでココアパウダーをふる。
他にも妊活や妊娠中、学習能力の向上、ホルモンバランスの調整や筋力維持など老若男女問わず嬉しい効果をもたらしてくれるオメガ3。これを機に日々の食卓にオメガ3の摂取を取り入れてみてはいかがだろうか。