▲北朝鮮の水爆による核実験は、BBCでも大きく報道された(YouTube / BBC Newsより)
2017年9月3日午後0時29分ごろ、北朝鮮北東部で大きな揺れが観測されました。同日午後3時半、北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは「水爆実験を成功させた」と発表。そのニュースでは、水爆とされる装置を視察する金正恩朝鮮労働党委員長の写真が紹介されていました。
ところで、そもそも水爆ってなんでしょう。原爆とはどう違うのでしょうか。そして、北朝鮮は本当に水爆を作れたのでしょうか? そこで、ア理科シリーズでおなじみ、『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』の著者である亜留間次郎氏に、詳しい解説をお願いしました!
理論上いくらでも威力を出せるのが水爆
水爆の基本的な構造は、上図のように密閉容器に重水素と原爆を入れたものとなります。原爆を起爆して、その核爆発の力で重水素の核融合反応を引き起こし、威力を倍増させる……という代物。原爆との違いは、簡単にまとめると以下のとおり。
- 原爆 … プルトニウムなどの核物質を使うので威力に限界があり、放射能汚染を撒き散らす。
- 水爆 … 重水素を使うのでいくらでも威力が出る。導火線がわりに原爆を使う。
最初の水爆は巨大だった
▲世界初の水爆実験に使われたマイク実験装置。出典|ウィキメディア・コモンズ
世界最初の水爆は、アメリカが完成させました。65トンもあって、持ち運びは不可能。重水素を冷やして液化していたので、冷却装置が非常に大型でかさばったためです。1952年11月に行われた実験で、この水爆はメガトン級の威力を発揮し、実験場となったエルゲラブ島は消えてなくなりました。
その後、アメリカとソビエトの熾烈な軍拡競争が繰り広げられるなかで、水爆は小型化していきます。現在、アメリカが保有する核弾頭で最新のものとなるW88は、弾頭部分を含む全長が1.75mで直径は0.55m、重量は推定360kg未満となっています。
北朝鮮はいきなり小型の水爆を作れたのか?
▲BBCのニュースでも取り上げられた金正恩朝鮮労働党委員長の視察風景(You Tube / BBC Newsより)
さて、9月3日の朝鮮中央テレビでニュースで、水爆とされる装置を視察する金正恩の写真が紹介されていました。この水爆、かなり小さいですよね。左奥に写っている、この装置を収納するであろう弾頭部分も、3mもないように見えます。
はたして、北朝鮮は、いきなりこのサイズの水爆を作ることができたというのでしょうか? 残念ながら、現時点では、断定的なことは言えません。
ただし、そもそもの話として、北朝鮮は核開発にあたって、ブラックマーケットを通して資料や機材を入手していると言われています。その一例が、パキスタンで「核開発の父」と呼ばれているアブドゥル・カディール・カーン博士の存在です。彼は、ウランを濃縮するために必要なガス遠心分離装置の技術をオランダのUrenco(ウレンコ)社から盗み出し、パキスタンに戻って核開発を進めました。カーン博士は、弾道ミサイルの技術と交換で、北朝鮮にも設計図を渡したとされています。
また、核兵器開発の始祖であるアメリカのロスアラモス国立研究所は管理体制がグダグダで、これまでさまざまな事件が発生してきました。1999年に台湾系アメリカ人科学者の李文和(ウェンホー・リー)氏が中国のスパイとして捕まったり(その後裁判で無罪に)、50年間で300㎏のプルトニウムが行方不明になっていたり、2004年に機密情報が入った記録媒体が紛失したり……。
ちなみに、1999年の李文和スパイ事件では、李文和氏は無罪となりましたが、アメリカの水爆に関する機密が中国に流出したことは本当にあったかもしれません。というのも、米下院のクリストファー・コックス下院共和党政策委員会委員長が、中国への情報流出について調査し、提出した報告書「コックス・レポート」があるからです。コックス・レポートでは、W88核弾頭を含む7つの熱核兵器に関する情報が盗まれたとしています(ただし、否定意見もあり)。
コックスレポートが対象にした期間は1980年代から1990年代にかけてです。その当時、中国に渡ったアメリカの核弾頭の技術が、北朝鮮にも流れた可能性は否定できません。
北朝鮮が9月3日に行った6回目の核実験による揺れの規模は、日本の気象庁の推定によるとM6.1でした。これまでの核実験にくらべ、10倍程度の規模だったそうです。専門家によると、
――過去にアメリカやソ連で実施したメガトン級のものに比べるとずっと小さいが、水爆は小型のものもあり、これぐらいのレベルでは判断が難しい(NHK NEWS WEBより引用)
とのこと。もはや、あのニュース映像に写っている水爆とされる装置がフェイクだとは言い切れない状況になっているのです。
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世界情勢は緊迫する一方ですが、それでも最後まで、平和的な解決がなされることを信じたいところです。