IPビジネスにおける「3本の柱」
写真:インタビューにお答えいただいた植野様
――本日はよろしくお願いいたします。
――「電殿神伝-DenDekaDen-(以下、DenDekaDen)」はどのようなIP(Intellectual Property:知的財産)プロジェクトなのか、東映アニメーション様が特に力を入れている点など、お話を伺いたいと思います。
植野様(以下、植野と表記)「IPの創出は弊社全体のミッションだと考えております。ゼロベースから新しいIPを作り上げていくにはいろいろな手法があると思いますが、今回お話するDenDekaDenはその一つです。」
植野「その他に、今まで放映してきたIPを改めて掘り起こし、リブートをかけて届けることもミッションです。」
植野「弊社は現在放映しているもの以外にも、IPを数多く持っていますが、過去に放映していた人気作など、現状の市場にうまく届けられていないIPも多くあります。」
植野「NFTで実現すべき三番目として、現行の放映や、これから放映するものを、一緒に応援していき盛り上げていくこともミッションだと思っております。この3つの柱で取り組んでおり、いずれも対等なものだと考えています。」
――新しいIPを作っていく、既にあるIPを再度加速していく、現行のIPの魅力をさらに発信していく、この3本の柱があるということですね。
――3本の柱のうち、新しいIPを作っていく部分の一つとしてDenDekaDenのプロジェクトがあるのだと理解しました。
植野「現状のデジタルプロダクト推進室では、ゲームだけではなくNFTやメタバースをはじめとした他の分野の可能性も考えています。例えば、電子コミックなど、そういった様々なものに挑戦したいと思っています。」
植野「過去には小説を出していたり、とにかく幅広く挑戦している室ですが、その中でもマネタイズの基本はゲームだと思っています。」
植野「過去のIPを使うにはファンがついていることがわかっていますし、そのファンの方たちもそのIPを活用した新しいものを待っていると思います。」
植野「ですので、そういった方々に向けて過去のIPをゲームとして届けることで、入りやすい窓口にもなり、より多くの人に遊んでもらえる可能性があります。」
植野「一方、新たなIPの創出となると、直ちに莫大な資金を投入してゲームを作ろうとするのも厳しい世界ではあります。」
植野「そこで、NFTなどの様々な新しい技術を使ってIPの創出ができないかと目論むところも期待されて当室が立ち上がっています。そういった新しいの技術を使うことが多くなってくると思います。」
――様々ある新しい技術を使ってIPを作るということが前提にあり、今回の場合はその中のブロックチェーンやNFTという技術を活用してDenDekaDenというプロジェクトが立ち上がったということですね。
「ファンがいること」がIPの絶対条件
植野「DenDekaDenについては、『東映アニメーション』というブランドに期待を持ってくれている人達が多く関わっていただいている印象です。今のNFTの市場の中で振り向いてくれていることはありがたいです。」
植野「彼らの期待を裏切らないために、何を提供し続ければいいのか、どういった情報を届けていけばいいのか、そういった点に関しては、繊細に気を付けながら絶えず検討していかなければならないと感じています。」
――具体的には、どのような取り組みでしょうか?
植野「今回、MegnaちゃんというDenDekaDenの精霊(キャラクター)の女の子に、Vtuberとしてデビューしていただきました。配信などを通して、よりお客様と密なコミュニケーションが取れるような形で距離をしっかり縮めていきたいと思います。」
X(Twitter): https://twitter.com/iamlovemonster
Youtube: https://www.youtube.com/@iamlovemonster
植野「NFT・ブロックチェーンをはじめとするWeb3では、Discordでのコミュニケーションが(情報提供などの)主な手段です。」
植野「しかし、Discordはまだ閉じられた世界であり、利用者はコアな方たちだと思っています。渋谷を歩いている大学生や若者が積極的に使っているという印象ではありません。」
植野「ですので、Discordという世界がメインとなっているWeb3のコミュニティを脱する必要があると思い、MegnaというVtuberをデビューさせました。」
植野「あとは、都内で開催されているイベントなどにもDenDekaDenの出展をしています。現実の世界で会話したり、直接意見を聞けるような機会を積極的に作るように意識しています。」
――今のDenDekaDenのファンの皆さんは、NFTが入口ではあれど、DenDekaDenというIPに少なからず親近感を持っている。そのファンが愛しているコンテンツを世に広げていくための取り組みをされているという印象を受けました。
植野「キャラクターを生み出して届けることだけがIPの創出かというと、それは違うかなと思っています。より多くの人に届けて、より多くの人に愛されることが必要です。ファンがつくことで価値が生まれ、そこで初めて『IP』と呼べると思っています。」
植野「現在、数万人のファンの方たちに支えてもらっている状態ですが、やはりもっと大きく育てなければいけない、NFTという枠を飛び越えなければいけないと考えています。」
――数万人のファンを獲得しているのは大きく成功している印象です。
植野「ファンの数についての考え方は、前職であるゲーム業界からの経験に基づいています。デジタルプロダクト推進室には、ゲーム業界から転職してきた人が多く、運営の会議をしていても、ソーシャルゲームで培ってきた経験ややり方が現れます。」
植野「例えばブロックチェーンでは、ミント(NFTを新たに発行すること)したNFTを3万人が買ってくれた場合『1個1000円で売れたので3000万円の売り上げになりました。』という結果が出ますが、ソーシャルゲームではその3万人以外も大切な要素になってきます。」
植野「ソーシャルゲームの課金率は凡そ10%以下ですが、90%の課金をしないお客様も非常に重要だからです。彼らがいるからこそ、10%のユーザーは課金する目的を見い出している部分もあります。無課金層をおざなりにしてしまうと、プロジェクト全体が衰退してしまうのです。」
植野「無課金ユーザーがいないと、課金ユーザーの承認欲求を満たせない部分もあります。また、不思議なもので無課金ユーザーが全員辞めたら課金ユーザーだけが残るかというとそうではなく、そこから課金率が10%になっていく世界です。」
植野「課金ユーザーにも、100万円課金してくれる方もいれば、100円だけ課金する方もいらっしゃいます。ですが、100円の方たちも大切にし、次は1000円を課金してもらえるようにすることも考えなければいけないのがソシャゲの運営です。」
植野「そういった形で、『目に見えて支えてくれている人たちだけではなく、見えない大勢のファンも大切にする。』その姿勢でやってきたので、NFTの購入者以外も見据えていかなければいけないと思っています。」
――目に見える形でなくてもファンを大事にするという姿勢と、新しいものを提供するだけではなくユーザーと向き合ってプロジェクトを運営していくという感覚は、コンテンツを成長させていく上で重要な要素だと感じました。
新しいIPコンテンツを届ける挑戦
――Web3を使ってIPを作るチャレンジをしている中で、ブロックチェーンの良さなどの実感についてはいかがでしょうか?
植野「ファンの方たちと一緒に作っていく部分だと思っています。従来はゲームもアニメも、世界観やキャラクターなど全てを作ってから届けることがIP作りでした。」
植野「Web3では、ファンやホルダーの方たちへは作りこまれた世界観やキャラクター象をお届けしておりませんでした。それこそ初期にはキャラクターの絵すらなく、おみくじや卵のようなものしか届けられていない状態から始まりました。」
植野「ファンの人達の声を聞きながら、どのようにキャラクターを目立たせるか、どのような世界にしていくかといったことを一緒に作り上げていくことで、コアなファンが生まれやすいと思います。」
植野「直接コミュニケーションをとって丁寧に取り組むことができている分、従来の『作りましたが失敗しました、次のIPを作ろう』といった形にはなりづらく、こうしてお客様と一緒に作り上げられる環境は非常に良いものだと思ってます。」
――集まってくれた人と一緒に物を作っていけるのは、ブロックチェーン・NFTの良いところだと思います。
植野「ただ、先程も言った通りDiscordなどのコミュニティだけにとどまらず、外に出る必要も感じています。」
植野「NFTが冬の時代であるがゆえに、新規のDenDekaDenに参入したくてウォレットを作成し、1枚買ってみようという人はなかなか出てきません。」
植野「『NFTだから難しそう』と先入観で避けることなく、『このプロジェクトに入ってみたいからチケットを買おう』と気軽に参入できるよう、全体の敷居を下げる施策を考えてコミュニティを大きくしていきたいです。」
――DenDekaDenのプロジェクトを発足するにあたって、どのような形からスタートしたのでしょうか?
植野「NFTという言葉が出てきた3、4年前から、様々な会社から連絡をいただけるようになりました。最近は減りましたが、当初は『NFTでなにかを作って売ったら儲かりますよ。』というのが多かったです。ですが、瞬発的な売上作りというのは念頭になかったため、断っていました。」
植野「ブロックチェーンやNFTは唯一無二のものを発行する技術として優位性があるのにも関わらず『儲かりますよ』という話しか来ないので、何か良い活用の仕方はないのかなと思っていました。」
植野「その時STRATAさんの代表の方と偶然会ってお話しする機会があり、私たちの考え方に非常に共感していただきました。」
植野「彼らも5年後10年後、あるいはさらに先の未来に対して多くの人に届けられるものを作りたいという思いを持っていらっしゃいます。」
植野「STRATAさんがブロックチェーンの技術面を、私たちはキャラクター作りなどのIP面を担当することで立ち上がったのが『DenDekaDen』になります。」
引用:株式会社MMT様のプレスリリースより
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000113079.html
――利益の追求だけではないNFT・ブロックチェーン技術の有益な活用という目的から入り、IP作成の目線で始めたということなのですね。
――今後もWeb3のIPプロジェクトとしてコミュニティを運営していく上で、うえでファンと一緒にどのように進めていきたいと思われますでしょうか?
植野「ファンの方に関しては、こちらから選ぶ権限もないので当たり前ですが、DenDekaDenを愛してくれるだけでも嬉しいです。ただ、長期目線で待っていてくれればありがたいなと思います。」
植野「すぐに長編アニメや映画やテレビシリーズを制作できるわけではありません。時間をかけて育てていくものだと思っていますので、じっくり一緒についてきてくれるとありがたいです。」
――「東映アニメーション」が運営してるからこその安心感も、ホルダーさんにあると思います。
植野「もちろん『東映アニメーション』の名前を使っているので、いつかはアニメーションをやらなければという気持ちはあります。ですが、ファンがついておらず盛り上がっていないのであれば、テレビアニメにする予算を取れません。」
植野「アニメ化を目指すには、NFTという狭い界隈を超えて国内外含め様々な形で知名度を上げて、基盤を支えられるところまで伸ばす必要があると思います。」
植野「DenDekaDenに関しては、先程言ったようにMegnaちゃんを活用し、より多くの人にプロジェクトを届けるフェーズに入ります。」
植野「今年の1月から6月頃までは、NFT界隈の中でも特に積極的にNFTを購入している層に向けてリーチをかけることに注力していました。」
植野「ここは成功したと思っていて、6月以降はNFT界隈での知名度をさらに上げることを目標にしており、現在イベントなども対応しています。」
植野「10月頃からは、NFTに興味がない人、もしくはNFTという単語ぐらいしか知らない人にもDenDekaDenを届けたいと考え取り組んでいます。」
植野「『東映アニメーション』というネームバリューも生かし、従来とは違う新しい物の作り方に取り組んでいるんだということが少しでも伝わると嬉しいなと思います。」
――ありがとうございます。DenDekaDenについて深く掘り下げたお話が伺えたと思います。
――本日はお時間を頂きありがとうございました。
後編:大手アニメーション会社がゲーム開発に注力する理由
https://gamemo.confidence-media.jp/1895/
関連リンク
Den Deka Den 公式Webサイト:https://www.dendekaden.com/ja
公式X:https://twitter.com/dendekaden
公式Discord:https://discord.com/invite/dendekaden