イマーシブクラウド
VRを用いたイマーシブ体験を提供するために2019年に設立。
現在はVRマーダーミステリーを公演形式で展開中。
3ヶ月に一本のペースで新作オリジナルシナリオを発表し続けてい
最新作は北海道に実在するバーガーショップ「
公式サイト:https://www.immersivecloud.info/
イマーシブクラウド代表 おひげ様
学生時代の演劇経験からVRアバターでの身体表現に興味を持つ。
アナログ、デジタルを問わず、
X(旧Twitter):https://twitter.com/imai_ohige
マーダーミステリーとは?
マーダーミステリーとは、物語を体験しながら推理を行うゲームです。
物語上で発生した事件に対して、参加プレイヤーは登場人物の一人となり、キャラクターごとに定められた目的の達成を目指します。
情報収集や他プレイヤーとの議論を通じて真実に近づきながら、プレイヤー同士でオリジナルの物語展開を創り出せる点が何よりの魅力です。
VRマダミスが、今までにない物語体験を生み出す
――本日はよろしくお願いします。
――まず、イマーシブクラウド様の立ち上げ経緯についてお伺いしたいです。
おひげ様(以下、おひげ)「まず前提として、イマーシブクラウドは『イマーシブなものを伝える』ための団体です。立ち上げの経緯は大きく二つの文脈によります。」
おひげ「その文脈とは、芝居とマーダーミステリーです。」
素人でも気軽に、VRを通じた芝居体験を
――「イマーシブなものを伝える」という目的と芝居との関係性について教えてください。
おひげ「アバター文化と演劇文化は、自己表現であるという点でとても似ているんです。」
おひげ「私は学生時代芝居をしていて、その時から『芝居とはコミュニケーションである』という視点を持っていました。」
おひげ「芝居の面白い点は、登場人物の感情を第三者に伝えるべく、役者が動作や台詞を通して感情をデフォルメして表現している点です。」
おひげ「一方でVRの文脈で広がっているアバター文化は、『自分のなりたい姿』をデフォルメして表現しているものだと、私自身のVR体験から感じています。」
おひげ「つまり、ある特定の姿を表現する形式であるという点で、アバターを用いることと芝居することは類似しているんです。」
――アバターの場合身体も大きく変化させられたりするため、そういった点では独自の感覚が生まれるのでしょうか。
おひげ「はい。芝居で衣装を変えても、生まれ持った体格や性別を変えることはできません。ですがVRでなら、現実の身体に縛られない表現ができます。」
おひげ「既存の芝居との差異はまさにそこです。VR上では芝居とは違った表現が可能であり、それによって芝居とはまた違う形のコミュニケーションを生み出せると感じました。」
――芝居やアバターを通して、表現することがコミュニケーションである、ということでしょうか?
おひげ「アバターを使うことも芝居をすることも、突き詰めれば第三者に何かを表現することです。そういう意味では、コミュニケーションとは『伝える』ことであると思います。」
おひげ「そしてVR、特にVRマーダーミステリーでは、芝居とも既存のマーダーミステリーとも異なる、新しいコミュニケーションの形が生まれると私は考えているのです。」
VRマーダーミステリー|誰でも楽しめる、芝居と同等の物語体験
――VR空間上でマダミスを行うことで、既存のマダミスやVR体験と比べてどのような変化が生まれるのでしょうか?
おひげ「即興劇に限りなく近い体験をすることができます。」
おひげ「マダミスとは、自分が担当する登場人物の立場に立ち、物語を進めていくゲームです。互いに目的達成のために暗躍し合うので、同じゲームでも参加者ごとに全く異なる物語が展開されます。」
おひげ「その中で自分の秘密が暴露されたり、衝撃的な事実が露見した場合、当然プレイヤーは驚きますよね。そして本来の登場人物も当然、そのような事態に直面したら驚きます。」
おひげ「本当の感情のやり取りとは、その瞬間に感じたものをそのまま伝えることです。役者は稽古をして台詞を覚えることでその感情を内在化します。」
おひげ「そうして本当の感情のやり取りと遜色のない感情を第三者に向けて伝えていくのが役者の矜持です。」
おひげ「つまりマダミスにおいて、登場人物とプレイヤーの感情がリンクした瞬間だけ、限りなく本物に近い感情が生まれ、他人に伝えられるんです。」
――マダミスの即興劇としての側面が、演劇に類似した体験を可能にしているということですね。
――とはいえ、即興劇にも一定の作法やルールがあるように思われます。
おひげ「もちろん、本来の即興劇ではそう上手くはいきません。マダミスと演劇が決定的に違う部分は、第三者がいない点なのです。」
おひげ「役者が稽古をして技量を高めるのは、第三者に感情や物語を届けるためです。一方でマダミスはその場にいる人たち、つまり当事者のみで物語が展開されています。」
おひげ「第三者に見せる必要の無い環境で、プレイヤーは自分たちの物語だけに集中することができます。マダミスでは血のにじむような努力を通じて型や作法を習得する必要が無いのです。」
おひげ「誰の目も気にする必要が無い環境で、素人でも純度の高い演劇体験ができる。演劇の根底にあるコミュニケーションを、マダミスを通じて体験できるんです。」
おひげ「それがマダミスの魅力であり、VRマダミスであればそうした魅力を更に引き立てることができると感じ、イマーシブクラウドを立ち上げました。」
――演劇をされていたおひげ様の経験と、マダミスというゲーム媒体が持つ演劇的な側面を掛け合わせて生まれたものが、VRマダミスなのですね。
VRマーダーミステリーの魅力とは?
――先日、イマーシブクラウド様は新作マーダーミステリー『バーガーミステリー~惨劇レシピと積層の狂気~』をリリースされました。本作の特徴や魅力と共に、VRマダミスの魅力についてより詳しく伺いたいと思います。
VR×マダミス=圧倒的な没入体験
おひげ「VRマーダーミステリー最大の魅力は、VRが持つ没入性とマダミスが持つ没入性が掛け合わさって、より高いレベルの没入体験が生まれていることです。」
――VRがもたらす没入体験とマダミスによりもたらされる没入体験は異なるものなのですか?
おひげ「はい。前提として、没入には四つの種類があると言われています。戦術的没入と戦略的没入、物語的没入、そして空間的没入です。」
おひげ「戦術的没入はいわゆる『ゾーン』と呼ばれるような、自身の能力を総動員して何かをしている没入体験です。」
おひげ「戦略的没入は色々な選択肢がある中で最適なものを導き出すために生じる没入体験です。カードゲームや戦略シミュレーションゲームなどの没入体験がこれにあたります。」
おひげ「物語的没入は文字通り物語の中に入ったような没入体験であり、空間的没入は物理的な現実感によりもたらされる没入体験です。」
おひげ「これらの没入体験が掛け合わされることでより高度な没入感が生まれるのです。」
おひげ「VRマダミスでは、VR特有の空間的没入とマダミスの持つ戦略的没入、物語的没入が掛け合わさり、非常に高レベルな没入体験を実現しています。」
おひげ「例えば『バーガーミステリー』では北海道のハンバーガーショップ"クラフターズキャンプ"とコラボしており、実在の店舗が再現された舞台でマダミスを楽しむことができます。」
――まさに、VRならではの没入体験ですね。
おひげ「はい。プレイヤーは物語の登場人物として、店舗を探索しながら自身の目的達成を目指すことになります。」
おひげ「死体のある部屋を探索しながら事件の手がかりを探したり、他の部屋を探索して隠された証拠品を探したりと、まるで本当に事件に直面したかのような体験ができるのです。」
――従来のマダミスの探索パートは、カードを引いて証拠品を集め、得た情報を基に目的達成を目指すのが一般的ですよね。それをよりリアリティのある形にできるのはVRマダミスの強みだと思います。
おひげ「そうですね。マダミスのリアルイベントでそうした試みを見ることはありますが、規模が非常に大きくなってしまいますし、参加人数も限られてしまいます。」
おひげ「それがVRマダミスでは非現実的なアセットも簡単に用意できます。サーバーの制約が無い限り、同時に何人もプレイすることも可能です。」
現実を超えた多様なギミックを実装可能
おひげ「二つ目の魅力は、技術力次第でいくらでも自由にギミックを搭載できる点です。」
おひげ「例えば本作では、シナリオの途中でハンバーガーを作ります。」
おひげ「本作の物語は、業績が低迷しており、起死回生を狙ってバーガーコンテストの優勝を目指すハンバーガー店を舞台にしています。」
おひげ「ところが、バーガーコンテストの前日に店長が殺されてしまい、そこから物語が始まります。」
おひげ「登場キャラクターは全員がバーガーショップの店員であり、店長の死の真相を追いつつバーガーコンテストに優勝し店を存続させなければいけません。」
――事件の解決を主軸としつつ、副次的な軸として「バーガーコンテストの優勝」があるわけですね。
おひげ「はい。店長の死と共に失われた秘伝のレシピを探しつつ、皆でハンバーガーを作っていきます。」
おひげ「プレイヤー全員でバーガーを作っていくので、それがコミュニケーションになってゲームの没入感を促進させる役割も果たしてくれます。」
――初対面同士でいきなりマダミスをやるとなると、ゲームの堪能よりも緊張が勝ってしまいそうなので、バーガー作りを通して打ち解けることが出来るのは非常にありがたいです。
おひげ「そうした形で、プレイヤーに届けたい体験に応じて自由にギミックを作るのは、既存のマダミスでは困難でした。」
おひげ「VRでは極端な話、宇宙にも行けるし魔法も使えます。現実から一歩進んだギミックを通して、マダミスの可能性や没入性を更に一段高めることができると私は考えています。」
――例えば、魔法を使ったマダミスであれば、それぞれが使える魔法が事件のギミックや問題解決の手段となりうるわけですね。夢が広がる非常に興味深い取り組みだと思います。
VRマダミスならではの立体的な駆け引き
――VR上でマダミスを行うのであれば、プレイヤー同士の秘密の情報交換である「密談」や、通常の探索においても深読みする要素が多々生まれてきそうです。
おひげ「そうですね。調査パートにおいて、従来のマダミスよりも立体的な駆け引きが楽しめるのもVRマダミスの特徴です。」
おひげ「VRマダミスにおける調査パートは、当然ですが全プレイヤーが同じ舞台で探索を行います。その過程で他のプレイヤーと遭遇したり、不審な動きをしている場面に遭遇することがあります。」
おひげ「相手の行動が視覚的に表現されることで、『なんであの人はあの部屋に行ったんだろう?』といった疑問がより鮮明に浮かび上がるようになります。」
おひげ「自分が隠したい秘密が眠る部屋を探索しているプレイヤーがいれば警戒するでしょうし、そうした疑問から相手の嘘を見破れるかもしれません。」
――視覚的に相手の行動を表示することで、推理のとっかかりを作りやすくなるということですね。
おひげ「その通りです。ただVRマダミスにおいては、視覚だけでなく聴覚も推理を促進させる重要な要素になるんです。」
おひげ「先ほど話に出ていた『密談』をVRマダミスで行う場合、他のプレイヤーに気づかれにくい場所を選びそこで行う必要があります。従来のマダミスのように、『絶対に聞かれない』場所は存在しないのです。」
――となると、うっかり誰かに聞かれてしまったりするわけですね。最後の推理パートになって密談の内容が暴露されたりして、思わぬ展開に転がる可能性があったりするのでしょうか。
おひげ「はい。なので密談を行う場合、後をつけられるリスクを減らすべく、周囲を警戒して道を探す必要があります。それでも聞かれるリスクがあるため、相当に慎重にならないといけません。」
――推理小説やドラマのようですね。私はマダミスが得意ではないのですが、視覚・聴覚で直感的に情報が得られるのは非常にありがたいと感じます。
おひげ「そうですね。ミステリーと名の付くように、マダミスはかなり色々と考え、情報を整理しながら楽しむゲームです。」
おひげ「既存のマダミスではどうしてもテキストベースでのゲームプレイになるため、パズル的な面白さの方が重視されています。」
おひげ「ですが、VRマダミスであれば視覚・聴覚を通じた直感的な要素を基に推理を組み立てることも可能です。」
おひげ「テーブルゲームとしてのマダミスが得意ではないと感じる人も、VRマダミスであればまた違った体験ができると思うので、ぜひ一度体験してみてほしいです。」
VRアバターを通した、より「リアルな」ロールプレイ
――VRマダミスでは、プレイヤーが使用するアバターに制限はあるのでしょうか?
おひげ「基本的に、プレイヤーは各々自由にアバターを使用できます。」
おひげ「一般的なマダミスの場合、キャラクターの外見は変えられません。中にはシルエットで立ち絵が隠され、詳細な外見の情報が存在していない作品もあります。」
おひげ「いわばキャラ解釈をプレイヤーに委ねる形を取っている作品が多いんです。ただ、人によってはキャラクターへの感情移入がうまくできないことがあります。」
おひげ「実際にVRマダミスをプレイするとわかるのですが、自分のアバターを使うと登場人物に感情移入がしやすくなります。」
おひげ「思い入れのあるアバターを使うことで、登場人物自体にも思い入れが生まれ、また自分のアバターがロールプレイの指針にもなるのです。」
――使用しているアバターと登場人物が融合する形で、マダミスの物語を壊すことなく新しいキャラクターを生み出すことができるわけですね。
おひげ「VRマダミスの中には登場人物のアバターを用意し、完全にそのキャラクターになりきれる作品もあります。」
おひげ「そうした作品でも、『こういうキャラならこうすればいいんだ』という形でロールプレイが促進されたりします。VRアバター自体が持っている魅力がマダミスへの感情移入を促進していると言えるかもしれません。」
VRだからこそできる演出を追求する
――VRマダミスを制作される上で、どのようなことを意識されていますか。
おひげ「やはりVRだからこそ可能な演出や表現を追求することは一番意識しています。」
おひげ「先ほども話に出ていたように、VRマダミスの特徴は視覚・聴覚的な表現です。それらを活かしたギミックやトリックを作ることが一番わかりやすく面白いですよね。」
おひげ「例えば小説の叙述トリックのように、プレイヤー間で同じものを見ていたと思っていたが、実は全然違った――というようなギミックを実装したりすると面白いかもしれません。」
――テキストだけでなく、ビジュアルでの表現が可能になったからこそ、言葉を用いない表現で謎を生み出すということですね。
おひげ「はい。とはいえ、今まで誰もやってきたことのない取り組みなので試行錯誤をしている最中です。今後ノウハウが蓄積されていく中でより皆さんが驚くような仕掛けを提供できればと思います。」
「体験を共有する」VRの魅力
――ここからはVRマダミスに限定せず、広くVR全般の魅力をお尋ねしたいと思います。
「体験を共有する」デバイスとしてのVR
――実際にVRエンタメの最前線に立たれている立場として、現状のVR技術についてどのように考えていますか?
おひげ「私はVR技術を『体験を伝えるコミュニケーションツール』だと考えています。」
おひげ「『没入体験』というキーワードは何年も前から注目されており、その代表例としてVRが存在していることに疑う余地はありません。私もお台場で没入型アトラクションを実際に体験して、没入体験やVRの可能性を確信しました。」
おひげ「VRというのは、一見すると映像メディアから正当に進化したデバイスだと思うかもしれません。」
おひげ「実はそれだけではなく、VRは電話から進化したデバイスでもあると私は考えています。映像と電話が進化し、融合することでVRというデバイスが生まれました。」
――映像媒体と電話の違いとはどのような点なのでしょうか?
おひげ「追体験か、体験か、という違いです。」
おひげ「映像媒体はジェスチャーや絵、そして言葉から進化した、『伝える』デバイスです。壁画や小説などから派生した映像媒体を通して、人間は自分には無い体験を追体験しています。」
おひげ「一方で電話は相手からの音声を受け取り、こちらも音声を通じて相手に働きかけることができます。リアルタイムで生まれる変化を体験できる、まさにコミュニケーションです。」
おひげ「この二つの文脈が融合することで、製作者の意図した体験そのものを、全く新しいリアリティを持った状態で伝えることができます。それこそが没入体験であり、『体験を伝える』VR最大の強みです。」
――ある意味でテレビゲームのような、受動的でありつつも能動的な体験を更にブラッシュアップしてユーザーに届けることができるということですね。非常に納得ができます。
何度でも再挑戦できる、新しいフロンティアの中で生きる
――近年ではVR内で「生きている」と表現できるような、プライベートの時間を殆どVRに費やす人が増えていると思います。
――おひげ様自身がそうした方々とコミュニケーションを取られる中で、VRやメタバースは人々にどのような新たな可能性をもたらすと感じますか?
おひげ「VRは、現代のSNSのように現実の多層性を新しい形で拡張してくれるツールだと思います。」
おひげ「私個人が感じていることは、『VRはフロンティアでありつつも、ユートピアではない』ということです。」
おひげ「昔のインターネットもそうでしたが、VRには現実で上手く生きられなかった人の『逃げ場所』としての側面が存在していると思います。」
おひげ「そうした人たちがVR上で自身の経験やスキルを活かして自己実現をするケースは非常に多いですが、実際のところそれは全て現実の自分の経験に基づいた活動です。」
おひげ「そういう意味ではVRは現実の延長線上に存在していると言えます。」
おひげ「それでも、失敗した人間が何度でもやり直せるのはVRが持つ最大の価値です。」
おひげ「現実で失敗してもVR上で失敗しても、IDを新しく作れば割と簡単にリトライできます。現実であれば、全く新しい環境でやり直すのは現実的ではないですよね。」
――「新しい自分になれる」のではなく、「今の自分の新たな可能性を模索できる」、というのが現在のVRやメタバースである、ということですね。
現実世界と仮想世界を超越した、イマーシブな体験を生み出す
――最後に、現在注目されている領域や、今後のコンテンツ展開の方向性についてもお伺いしたいです。
おひげ「最初にお話しましたが、我々は『イマーシブなものを伝える』団体です。現在はVRマダミスに焦点を当てていますが、将来的には幅広く色々な新しいコンテンツを制作していきたいと考えています。」
おひげ「現在は、現実とVRを絡めたコンテンツを作って行きたいと思っています。VRの世界で完結させずに、現実とリンクして物語や体験を生み出していけるような作品が作れたらいいなと思います。」
おひげ「最近はVTuberなどがリアルでイベントを行うケースが増えており、現実とVRの融合というトピックが非常に浸透している時代になりました。」
おひげ「だからこそ、そうした流れにエンタメの文脈を乗せることで、VRの可能性を広げつつ、より多くの人にその魅力を伝えることができるのかなと考えています。」
おひげ「いずれにせよ、今後も多くの人に今までにない体験を届けていきたいと考えています。その第一歩として、ぜひVRマーダーミステリーを楽しんでいただければ幸いです。」
――本日はありがとうございました。