インディーゲーム特化プロジェクト「SACRA GAME MUSIC」始動
――本日はよろしくお願いします。
――まず、SACRA GAME MUSICとはどのようなプロジェクトなのか教えてください。
栁様(以下、栁と表記)「SACRA GAME MUSICは、ゲーム音楽専門の音楽プロジェクトです。アニメソング特化レーベルであるSACRA MUSIC内の新しいプロジェクトという位置付けになります。」
栁「既存のゲーム音楽をサブスク等で届けることを最初の目標として、10月23日には第一弾として人気インディーゲーム『NeverAwake』オリジナル・サウンドトラックの配信を行います。」
栁「9月23日に公開されたティザー映像ではSawa Angstromを起用し、新曲『Xi Huan Ni』を使用しています。」
栁「このような、SACRA MUSICとのタイアップを通してゲームファンと音楽ファンを繋げる新たな試みも積極的に行っていきます。」
栁「スケジュールとしては毎月23日に配信ラインナップ(楽曲)の追加と、来月追加予定作品の予告映像の配信を行う予定です。」
栁「第一弾は『NeverAwake』の1タイトルですが、取り扱うタイトル数は次々と増やしていく予定です。特に11月23日は日本アミューズメント産業協会が制定したゲームの日でもあるので、盛り上げていけるような施策や企画を構想中です。」
――ゲームファンとしては非常に胸が弾むプロジェクトだと思います。
栁「インディーゲーム領域でパブリッシャーをされているPhoenixxさんと共同プロジェクトとして、インディーゲームのサウンド領域での開発支援を行えたらいいなと考えています。」
栁「Phoenixxさんが取り扱うゲームとSACRA MUSICとのタイアップを行ったり、音楽クリエイターのマネジメントや紹介も将来的に行えればと思っております。」
栁「既存のゲーム音楽を取り扱うことから派生して、国内外のゲーム音楽を多面的に盛り上げたいです。第二段階、第三段階としてSACRA MUSICとPhoenixxの得意分野を融合させていく活動を想定しています。」
アニソン×ゲームで日本の音楽の可能性を広げる
――SACRA GAME MUSICを立ち上げた経緯を教えてください。
坂本様(以下、坂本と表記)「インディーゲーム音楽をもっと多様な場面で活用したいと感じたからです。」
坂本「国民的ゲームタイトルの音楽がゲーム以外の場面で活用されているケースはよくあります。そうした取り組みは権利関係が厳しく管理されているために成立しています。」
坂本「しかし、インディーゲーム領域ではそうした取り組みがほとんど行われていない認識です。インディーゲーム開発は少人数・低予算が基本であり、ゲーム音楽をゲーム以外で活用する手段があまり多くありません。」
坂本「僕がPhoenixxを立ち上げてから、そうしたインディーゲームクリエイターの方々からゲーム音楽に関する相談がたくさん寄せられていました。」
坂本「ここ数年でインディーゲームの数・クオリティが上がり、注目度が高まっていたのもあり、そうしたゲーム音楽の活用に関する相談が急増していました。」
坂本「ただPhoenixx社内のゲームクリエイターの支援に手一杯で、音楽クリエイターへ十分な支援が行えていない状況でした。そうした状況で今年の2月に栁さんとお会いする機会があり、相談したことでSACRA GAME MUSIC立ち上げに繋がります。」
――インディーゲーム領域に関わる立場として、ゲーム音楽の現状に問題意識を持たれていたのですね。
――ソニーミュージックの立場として、栁様はなぜSACRA GAME MUSICの立ち上げを決断したのでしょうか?
栁「当時はSACRA MUSICをどう海外展開させるか模索していました。」
栁「SACRA MUSICでは"A-POP(Ani-POP)"として、J-POPをよりアニソンに特化させた形で事業展開しています。日本独自の強みであるアニメ文化に特化することで日本の音楽の魅力を海外に伝えていくことが目的です。」
栁「坂本さんからゲーム音楽に関するお話をいただいたとき、これまでSACRA MUSICが注力してきたアニメ音楽に追加して、ゲーム音楽へのアプローチに可能性を感じました。」
栁「というのも、アニメとゲームは非常に相性が良いからです。ゲーム発のアニメもあれば、アニメ発のゲームもある。海外のアニメイベント等でもゲーム関連コーナーは大きく盛り上がっています。」
栁「アニメ・アニメ音楽だけでなく、ゲームも日本が誇る文化の一つです。"G-POP(GAME-POP)"として"A-POP(Ani-POP)"と一緒に展開していくことで今までにない新しい価値を生み出せると考えています。」
――ビジネス的な意味でも、ゲーム音楽を活用されることは非常に有意義であるということですね。
ゲーム音楽は言葉を超えて、世界へ日本の魅力を届けられる
――坂本様と栁様は、ゲーム音楽の魅力とはどのような部分にあると感じていますか。
栁「まずは、必ずしも言葉を必要としない点です。」
栁「ゲーム音楽はインスト音楽が多く、直感的に楽しむことができます。言葉の壁を越えて世界中の人へ等しく価値を届けることができる珍しい音楽ジャンルです。」
坂本「以前日本のロックバンドの世界展開をプロデュースした際に、日本と海外では様々な壁があることを痛感しました。」
坂本「同じロックでも、言葉や人種、ルーツといった断絶があるために魅力が十分に伝えられなかったんです。」
坂本「一方、ゲームは世界中の人々がプレイしており、そうした断絶が少ない領域です。」
坂本「歌詞が無く感覚的な体験としての側面が強いことも含めて、国を超えて親しまれやすい点が大きな魅力であり強みなのかなと感じています。」
――インストであるからこその魅力だけでなく、ゲームの表現媒体だからこその強みもあるという点は非常に共感できます。
栁「ゲームとの関係性という意味では、ゲーム音楽は目から入ってくる点も魅力です。」
栁「アニメ音楽も同じなのですが、ゲーム音楽は劇中で使用されたシーンと一緒に記憶に残ります。音楽を通じて逆にアニメやゲームのシーンを思い出せたり、当時の感情を思い起こすことができます。」
栁「つまりゲーム音楽は、単体の音楽では届けきれない量の体験や感情を届けることが可能です。世界中でゲーム市場が成長していることも相まって、非常に聞いてもらいやすい音楽だと思います。」
――ゲーム音楽を通して当時の感動を思い出す人は非常に多いと思います。そうしたゲームの魅力は時代を超えた訴求力を持っていると言えるのではないかと思います。
78億人へ向けてゲームを作る時代
――お話を聞いている限り、SACRA GAME MUSICは海外展開を前提としたプロジェクトであるという認識で間違いないでしょうか。
栁「はい。アニメ・ゲーム領域は海外市場でも非常に好意的に受け止められており、海外展開を考えない選択肢は無いと思います。」
栁「コロナ禍も相まって、日本のアニメやゲーム・音楽をインターネット・サブスクリプション(サブスク)上で楽しむ層が急増しました。クランチロールというアニメのサブスクでは日本のアニメは放送一週間以内に現地の言葉で海外で放送されます。」
栁「そうした流れもあってか、昨年今年とドイツのAnimagiC(欧州最大級のアニメイベント)でSACRA MUSICのアーティストが出演した際は満員のステージで迎えられました。」
栁「海外のアニメファンは我々が想像している以上に多い上に、非常に高い熱量を持っています。」
栁「今年のgamescom(欧州最大のゲームイベント)にはSACRA GAME MUSICローンチ発表のため初めて参加しました。印象的だったのは、会場のインディーゲーム専用エリアが活気に満ちていたことです。」
栁「ゲームもアニメ同様、海外で受け入れられる土壌を十分に持っている領域です。海外という言葉に囚われず、全世界78億人を視野に入れるべきだと感じています。」
坂本「先ほども話したようにゲーム音楽は国境を超える魅力を持つジャンルです。」
坂本「ゲームのダウンロード版が普及したことで、そうしたゲーム音楽が一瞬で世界中に広がります。日本の音楽が勝手に世界中に広がっていく、本当にすごい領域なのです。その逆も然りで、海外のゲームが日本でヒットすることもあります。」
坂本「その意味では、ゲーム音楽領域は『ブルーオーシャン』だと認識しています。」
坂本「特にインディーゲームに関しては、海外は日本に負けないくらいの勢いがありつつ開発環境も整備されています。将来的に海外のゲームやクリエイターもPhoenixxとSACRA GAME MUSICを通して支援していきたいです。」
坂本「もちろん、権利関係を慎重にクリアしていく必要はあります。それでも日本の音楽を世界へ、そして世界の音楽を日本へ伝えていく試みは非常に面白く、ビジネスとしてもチャンスだと感じています。」
ゲーム音楽クリエイターが一番輝ける舞台を作る
――ゲーム音楽クリエイターのマネジメント業務について伺いたいと思います。
――具体的にどのようなサポートを行うのでしょうか。
坂本「音楽業界のマネジメントと同様、『G-POPクリエイター』として活動するクリエイターのスケジューリングや仕事内容の調整を行います。」
坂本「今後の展望として、SACRA GAME MUSICではゲーム会社と共同で新作ゲームの音源制作を行いたいと考えています。」
坂本「また、楽曲制作に課題を抱えているインディーゲームクリエイターの支援等も行い、音楽クリエイターの活躍の幅を広げます。」
坂本「そうした領域で活動していただけるクリエイターをマネジメント業務にて支援させていただきます。将来的にSACRA GAME MUSIC独自のイベント等を開催し、クリエイターが最大限輝けるイベントを開催したいです。」
――まさにゲーム音楽クリエイター専用の音楽事務所のような存在ということですね。
――こうした取り組みを行う背景を伺いたいです。
坂本「そもそもSACRA GAME MUSICは『ゲーム音楽クリエイターが輝ける場所を作る』というコンセプトのプロジェクトです。」
坂本「プランナーやプログラマーに比べ、音楽クリエイターは縁の下の力持ち的な存在です。普段日の目をあまり見ない一方で、音楽クリエイターはゲームの世界観を支えるために無くてはならない存在です。」
坂本「私たちが主導で音楽クリエイターの活躍の場を整備していくことで、音楽クリエイターにスポットライトが当たる新しい軸を作ることが目的の一つです。」
――SACRA GAME MUSICとして、単純に音楽クリエイターの魅力を伝えるに留まらず、そうしたクリエイターが活躍する場を整える役割も担っているということですね。
「面白い」ゲームを作るクリエイターを支援
――SACRA GAME MUSICとして、どのようなクリエイターの方に所属してほしいと考えていますか。
坂本「『面白いゲームを作っている』こと以外に特別な条件はありません。」
――面白いゲーム、ですか。
坂本「『良いゲームには良い音楽がある』というのが私たちの考えです。開発規模やジャンルは関係なく、それが『面白い』と感じられる良いゲームであればSACRA GAME MUSICとして積極的に支援していきたいと考えています。」
坂本「ここでの『面白い』は品質の話ではありません。スカウトを担当するA&Rの誰か一人でも『面白い』と感じられるゲームを作っていれば所属する資格があると考えています。」
――万人受けしなくても、誰か一人に強く刺さるゲームでもよいということですね。
――現在、海外のゲーム音楽クリエイターも募集されているのでしょうか。
坂本「もちろん海外の音楽クリエイターの方々にも来ていただきたいです。」
坂本「先ほども触れましたが、海外は国ぐるみでゲーム開発環境を整えています。その影響で日本に負けない品質の作品が生まれ始めているだけでなく、開発全般を担うクリエイターが非常に多いです。」
坂本「加えて、皆日本のゲームが大好きなので日本をリスペクトしたゲームを開発しています。」
坂本「日本のクリエイターとはまた違った性質を持つそうした方々を集めることで、プロジェクトとして幅広い場面で活躍できる体制にしたいと考えています。」
坂本「国内外問わずスムーズに契約を行える体制もまもなく整う予定であり、今後はスピード感を持ってクリエイターの発掘に尽力していく予定です。」
G-POPを通して日本のクリエイティブを進化させる
――SACRA GAME MUSICとしてG-POPを世界に展開することで、どのような未来を実現したいと考えていますか。
栁「G-POPを通して、世界に誇れる日本のコンテンツを増やしていけると考えています。」
栁「例えばSACRA GAME MUSICの今後の方向性として、J-POPアーティストとの積極的なタイアップを構想しています。」
栁「ゲーム音楽として日本の音楽を届けることで、言語の壁を超えてJ-POPの魅力を伝えることが可能です。そうすれば海外に進出する日本の音楽が増加し、J-POP全体の未来が広がります。」
――海外で日本のアニメソングが受け入れられているように、J-POPをゲームとタイアップさせることで、より受け入れられやすい状態を作ることができるということですね。
栁「はい。欧米や東アジアに限らず、南米や東南アジア等世界の様々な地域からゲーム・アニメ関連イベントのオファーが来ています。市場の拡大を日々肌で感じております。」
栁「現在育成中のアーティストが日々の活動の中で海外アーティストからコラボレーションのオファーをもらうケースもあり、活動の幅は今後更に広がっていくことが予測されます。」
――海外でゲーム・アニメ市場がそれほどまでに急成長していることは知りませんでした。背景にはどのような要因があるのでしょうか。
栁「結果論ですが、コロナ禍によりオンライン配信の需要が増加したことが多きな要因だと考えています。」
栁「韓国などではコロナ禍以降日本の音楽の視聴・再生回数が大きく伸びています。日本のアニメ映画がアメリカの外国語映画カテゴリにおいて興行収入1位を獲得したり、昔では考えられない発展を遂げています。」
――経済成長の著しい途上国においても、若年層の多さから日本文化が深く受け入れられていることを肌で感じます。
栁「そうですよね。将来的に海外の優秀なクリエイターの発掘ができれば、国内のクリエイティブのクオリティアップにも繋がります。」
栁「日本のクリエイティブの魅力を広く伝えて、日本全体のエンタメ文化における素晴らしい未来を作る好機になればと思っています。」
――海外展開を行うことは、単に日本のコンテンツを海外に売り込むだけでなく日本特有のクリエイティブの育成にも繋がっているということですね。
SACRA GAME MUSICの挑戦|ゲーム音楽の未来を創る
――最後に、SACRA GAME MUSIC様の今後の展望について伺いたいと思います。
――今後どのような方向性でSACRA GAME MUSICの事業を展開していきたいと考えていますか。
栁「ゲームが好きな方と音楽が好きな方を繋げる形で色々な施策を打っていきたいと思っています。」
栁「作業用BGMをはじめとして、ゲーム音楽は色々な人に寄り添える可能性があると思います。その中で『あ、これゲーム音楽だったんだ』と気づき、そこからゲーム音楽を聴くようになる形が理想ですね。」
栁「そのために、SACRA MUSICとのタイアップなど我々だからこそできる展開もしていく予定です。」
――アニメファンとゲームファンはかなり近い距離にいると思います。SACRA MUSIC様とのタイアップは嬉しく感じるファンが多そうです。
栁「そうですね。Phoenixxさんと組むことでゲームのマネジメントを行うだけでなくSACRA MUSICとコラボが可能であることは今後大きな意味を持っていくと考えています。」
栁「いずれにせよ、ゲーム音楽を今までにない形で広めていくことを重視していきたいですね。」
――Phoenixx様としてはどのようにお考えでしょうか?
坂本「我々としてはまず、インディーゲームクリエイターに本プロジェクトの魅力を伝えていくことが第一だと考えています。」
坂本「SACRA GAME MUSICはクリエイターに如何に還元してサポートするか、という点を徹底して追及したプロジェクトです。クリエイターを大事にするソニーミュージックさんの風土がしっかりと反映されています。」
坂本「ただインディーゲーム市場は大企業との接点が薄く、それが警戒心に繋がっているケースもあると思います。」
坂本「Phoenixxは両者の緩衝材として機能しつつ、ソニーミュージックを通して可能な限り多くのゲーム音楽クリエイターに還元していきたいです。」
――将来的に、SACRA GAME MUSICを通してどのような未来を実現したいですか?
坂本「ゲームの日(11月23日)と連動したイベントや、ゲーム音楽を中心とした音楽フェス等を世界中で開催したいです。有名ゲームではなくて、インディーゲーム音楽のフェスがアニソンフェスと同時に行われるような、そんな未来を作りたいです。」
坂本「そして、SACRA GAME MUSICはそうした未来を実現できる力を持っていると思います。」
坂本「『あなたの音楽をソニーミュージックがしっかりとプロモーションして、広めていきます。一緒に未来を作りましょう!』というメッセージを、様々なインディーゲームクリエイターに伝えていきます。」
――本日はありがとうございました。
SACRA MUSIC
株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ社内のレコードレーベル。
LiSAやAimer、FLOWといったアニメソング領域で活躍するアーティストが多数在籍している。SACRA MUSIC FESとして国内外で独自のイベントを開催しいずれも大きな盛り上がりをみせるなど、世界中にファンが存在し海外進出にも積極的なレーベルである。
2023年8月に欧州最大のゲームイベントgamescom 2023にて株式会社Phoenixxと共同でゲーム専門の新プロジェクト「SACRA GAME MUSIC」をスタート。
株式会社Phoenixx
インディーゲームの販売を専門とするゲームパブリッシャー。
前身はソニー・ミュージックエンターテインメント内のインディーゲームレーベル「UNTIES」であり、2019年に株式会社Phoenixxとして独立した。
インディーゲームクリエイターの支援に力を入れており、マルチプラットフォームでのリリース支援やグローバル展開支援を行う他、クリエイターのマネジメントも実施している。