徹頭徹尾、視線に関する映画だ。
人が人を見つめること、見つめたいと思うことの意味、ひいてはあえて見つめないよう努めることの意味さえもが深く掘り下げられている。
画家がモデルを細かく観察するように、愛も他者を深く観察する。
18世紀のフランスはブルゴーニュの孤島、望まぬ結婚を強いられた貴族の娘エロイーズと、その母親から彼女の見合い用の肖像画の作成を依頼された女性画家マリアンヌ。
画家であることを隠してエロイーズを観察するマリアンヌと、望まぬ結婚に対する怒りと自由への渇望を抑えきれないエロイーズ。
交わることのなかった視線がやがて交わり絡み合うことになっても、別れの時は2人を待ってはくれない。
同性愛など許されない時代の短くも燃え上がる2人の禁断の恋――。
マリアンヌが鋭い観察眼と才能でエロイーズの肖像を描き上げたように、この映画も2人の関係性の機微や変化の細かい全てを捉えて離さない。
まるで映画自体が精緻な技法で描かれた1つの絵画のようだ。
これは逆にいえば、人の心をざわつかせる絵画はどれも全てその絵画なりの「映画」を背負ってるということなのかもしれない。
女性に保守的であることが求められた当時の時代を背景に、女性同士の平等な関係を描きつつ、現代にも通じる普遍的なテーマである女性の強さを見事にスクリーンに焼き付ける。
女性監督セリーヌ・シアマはエロイーズ役の女優アデル・エネルと長年にわたり私生活のパートナー関係にあった。
日常で見つめ続けた彼女をカメラを通して改めて見つめる監督の視線は、一切の無駄がなくただただ繊細で美しい。
そこに映るのは、鳥籠に閉じ込められながらも自らの信念と想いに激しく魂を燃やす1人の誇り高き女性だ。
「あなたは私を見ているけれど、私もあなたを見ているのよ」
秘めた強い情熱をもって鋭い視線で見つめてくるこの映画を、あなたは目を逸らさずに見返すことができるだろうか。
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