フランス映画『エール』のリメイク作『コーダ あいのうた』がアカデミー作品賞に輝いて改めて話題になったが、デンマークのアクション作品『25ミニッツ』のリメイク作である本作のアレンジの振り切れ具合は格別だ。
ラーメンで言う全部乗せのような濃密なアクションを矢継ぎ早にテンポ良く見せるのは、『トランスフォーマー』シリーズのマイケル・ベイ監督。
ベイ監督と言えば、ハリウッドの破壊王の異名を取る。
「マイケル・ベイ」と「Mayhem(破壊行為)」を合わせた造語「ベイヘム」が作られたくらいだ。
とにかく派手な爆発シーンが続き、激しいカーチェイスとクラッシュ、縦横無尽に動き回るかカメラアングル等が特徴的だ。
途中からドラマ重視に傾いていくオリジナル作とは違って、この映画は「ベイヘム」の塊、まさに監督の真骨頂を余すところなく楽しめる。
病気の妻の手術費を用立てるため、犯罪を生業とする兄のダニー(ジェイク・ギレンホール)に頼ってしまった元軍人のウィル(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、成り行きでダニーらがしかける大金を狙った銀行強盗に協力する。
しかし計画が途中から狂い、二人は現場に居合わせた救急車を奪って、搬送中だった瀕死の警察官と女性救命士キャム(エイザ・ゴンザレス)を同乗させたまま、ロサンゼルスの街で警察車両相手に激しいカーチェイスを繰り広げることになる。
とにかく忙しい。
歯切れのいいテンポで目まぐるしく話が進んでいくので、切間なくずっと面白い状態が続くのだが、これはよく考えたら映画としてなかなかに凄いことだ。
ドラマだと一晩で全話完走、小説だと一気読み必至といった感じで物語に没頭できるので、この一部始終を見届けずには終われないと強く思い始める自分に気付いてしまう。
何が何でも逃げ切ろうとする二人の気迫に満ちた逃走劇に加え、救急車の中に人質2人との関係性が物語をさらにスリリングにする。
逃げ切って生き延びることと、撃たれて瀕死の警察官を生きながらえさせること、捜査機関として必ず二人を捕まえてみせるということ。
ざっくり分けただけでも3つもの異なるベクトルが相互に絡み合いながら、ロサンゼルスの街を所狭しとひたすら猛スピードで走り回るのだ。
兄弟愛を保ちながらも神経質な暴力性を振り撒くギレンホール演じるダニーのキャラクターのパンチも効いている。
彼の存在が言わば暴走のエンジンだ。
とすれば根っからの悪人ではないウィルはアクセル、逆境の中でも勇気と機転を効かせて信念を貫こうとする救命士キャムはブレーキに喩えられるかもしれない。
特に等身大の自分と職業人としての信念を併せ持ったキャムのキャラクターは惚れ惚れとするほどかっこよくてこの映画が持つ共感力そのものだろう。
これはある意味で彼女の映画だ。
ただ、暴走車のハンドルを握るのは他の誰でもなく、破壊王マイケル・ベイ。
映画館で幸か不幸か救急車に同乗してしまった観客たちは、滑走路も判然としないマイケル・ベイ版ジェットコースターにただ身を委ねてその興奮と幸福を噛みしめよう。
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