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【レビュー】ウェス・アンダーソン監督が豪華キャストで贈るめくるめく映像体験—『フレンチ・ディスパッチ』


作家性に溢れた独特の映像・演出で唯一無二の世界観を作り上げる映画監督、ウェス・アンダーソン

1996年に長編映画デビューし、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)で映画ファンを熱狂させ、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)では世界中を沸かせてその名を不動のものにした。

そんな天才監督の記念すべき10作目に当たる長編映画が待望の公開を迎える。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊、何とも長いタイトルだ。

試写会で配給の担当者がスラスラと読み上げた時は心の中で思わず拍手してしまったほどだが、この大げさに感じるほど長いタイトルの存在感ですら、映画のキャスティングの豪華さの前では自ずと霞んでしまうだろう。

ウェス作品の常連俳優から今をときめく人気俳優まで、新旧勢揃いのため息モノのスターたちが、3つのストーリーに分かれて、癖しかない憎めないキャラクターたちを演じる。

その1人、ティモシー・シャラメは、撮影現場について「ボヘミアンのサーカス集団みたいな雰囲気だった」と語り、他のキャストも口を揃えて「遊び場」のようだったと語る。

色彩豊かでそれ自体現代アートのようなセットを背景にキャストたちが撮影自体をおおいに楽しんだように、ミュージアムのような空間でコミカルに展開する物語はまるで大人向けの絵本のようだ。

それはカラーからモノクロへ、画角さえも自由自在に変化させながら観る者の五感を絶え間なく刺激し続ける。

もっとも、監督が作り上げた世界観は偶発的なものではなく、監督の考え抜かれた計算によるものだ。

実際、実験的に何度も何度も撮り直しが行われ、豊富に選択可能な素材を蓄えてから編集、音響、効果、色調といった作業が並行して進められたらしく、入念に素材の選別が行われた。

観る者の目に触れ耳に届く映画は、このように監督の幾重ものこだわりのフィルターを通過した選りすぐりの素材の必然的な組み合わせなのだ。


本作で描かれるのは、フランス文化と活字ジャーナリズムに監督が心から捧げる愛。

アートやヌーヴェル・ヴァーグ、美食にアニメ。

3つのストーリーが取り扱うテーマや捧げるオマージュはそれぞれ異なるが、どの物語もとにかく展開が早い。

詰め込みたいものは全て詰め込みたいという監督の想いを背負ったかのように、矢継ぎ早にキャラクターたちが行動して物語が展開していく点は、自分でページをめくる絵本というより、サーカスを見ているような感覚を覚えるかもしれない。

ウェス作品の傾向でもあるが、どの人物もリアルな人間というよりどこか人形のようなディフォルメされた感情表現を行い、そのためどんな場面でもユーモアが付きまとう。

まるで濃密な人生を早送りしたようなテンポで進む物語は、ある時は刺激的で、ある時は感傷的で、総じて魅惑的だ。

そして、物語はいつの間にかカルチャーや人間に対する愛そのものをその内に大きく育んでいき、言いようのない愛おしさに溢れていく。

一度観るだけではなもったいないような、他の何にも代えがたい何とも不思議で愛すべき映像体験。

思い出すだけでも楽しいこの映画、かく言う自分も映画館へ2回目の鑑賞へ向かうことを予定している。

 

『フレンチ・ディスパッチ』あらすじ

物語の舞台は、20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。米国新聞社の支社が発行する雑誌で、アメリカ生まれの名物編集長が集めた一癖も二癖もある才能豊かな記者たちが活躍。国際問題からアート、ファッションから美食に至るまで深く斬り込んだ唯一無二の記事で人気を獲得している。
ところが、編集長が仕事中に心臓まひで急死、彼の遺言によって廃刊が決まる。果たして、何が飛び出すか分からない編集長の追悼号にして最終号の、思いがけないほどおかしく、思いがけないほど泣ける、その全貌とは──?

■監督・脚本:ウェス・アンダーソン
■キャスト:ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、フランシス・マクドーマンド ほか
■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

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