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【レビュー】人間の矛盾した幸福感をあぶり出すドイツ発ラブ・ロマンス―『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』


少しお堅い学者の女性と優しくて理想的な男性アンドロイドの近未来的ラブ・ストーリーと聞いて、正直なところ「摩擦や衝突をコメディとシリアスの両面から描いた後に訪れる感動的なハッピーエンド?」みたいな予想を観る前から勝手にしてしまった。

この予測は良い意味で見事に裏切られることになる。

これはドイツ映画、しかも2022年度アカデミー賞国際長編映画賞ドイツ代表にも選出された作品だ。

そこはやはりハリウッド映画などにありがちなラブコメとは話が変わってくる。

もっとも、美しい女性型AIに青年が魅了かつ翻弄される『エクス・マキナ』のようなSF感・サスペンス要素があるわけでもない。

理想的な女性型音声AIに本気で恋をした男の悲喜劇を描いた『her/世界でひとつの彼女』のように物語の派手なアップダウンがウリなわけでもない。

本作は、主人公とAIアンドロイドとの関係を軸に据えながら、多くの現代人が抱える孤独や不安の問題に焦点を当てる。

他方で、他人を必要とせずますます便利になっていく現代のコンピュータ環境の功罪への指摘も忘れない。

主人公の女性学者が古代の楔形文字についての研究をしながら、最先端技術により開発されたアンドロイドとの同居生活を送る、という設定は考えてみるとなかなか面白い。

過去の歴史の産物である難解な古代文字を長時間かけて解読し解釈する作業。

それは未来の何かに直結するような類のものではないが、まさに人間的な営みの一つであることは否定できない。

一方で、人間にとっての最適解をいつも導き出すAIはその人間の満足度を将来に向けて確実に高めるが、それに伴う人間特有の摩擦や衝突の欠如は逆にどこかその人間を虚しい気持ちにさせたりもする。

今の世の中、スマホやPCで文字を打つ際は絶えず予測変換の言葉が表示され、ネットで買い物をしようとするとレコメンド商品が、SNSを開けばレコメンド広告がいつでもすぐに表示される。

そんな便利な世の中を迎えた現代人は、確かに以前より一人でも孤独や生活の支障を感じにくくなったかもしれない。

しかし、それでも他人という自分より面倒な相手を求めて、その存在により孤独や不安を埋めたいという欲求はなくならないだろう。

自分にとって好都合な相手を望みながら、どこかで自分に不都合な摩擦や努力も楽しみたい。

おそらく人類がある程度の高度な文化を持って以来一貫して抱えてきただろうこの贅沢な矛盾。

本作は、そんな矛盾を、仕事に充実感を感じながらも孤独に対する不安を捨てきれない現代女性の心情の変化を通して、次第に浮き彫りにしていく。

主人公は、特に何かをこじらせすぎたわけでもなく、ある意味どこにでもいそうな、十分に思慮深くて親しみの持てるキャラクターだ。

そのためか、主人公が感じる漠然とした不安や理想の相手に惹かれてしまう純粋な気持ちは、高いリアリティと共感力を伴って観る者の心に受け入れられるはずだ。

AIアンドロイドの恋人という設定こそSF要素があるものの、「自分にとって完璧な恋人」と置き換えてもこの映画のテーマ性は失われない。

主人公とアンドロイドとのやり取りも可笑しかったりハッとさせられたりと、誰にでも楽しめるラブ・ロマンス作品だ。

そして、この映画が与える哲学的示唆は多くの人の心に染み渡るだろう。

 

© 2021, LETTERBOX FILMPRODUKTION, SÜDWESTRUNDFUNK

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