starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

納得できる獣医療とは何か 長寿化するペットと家族を支える動物病院の模索



ペットの寿命が延び、獣医療の選択肢も広がっている。


一方で、治療法が増えるほど、飼い主は「どこまで治療するのか」「費用をどう考えるのか」「その治療がその子にとって本当に適しているのか」といった判断を求められる場面も増えている。


愛知県岡崎市の「ぶんペットクリニック」では、飼い主との対話やチーム医療を重視しながら、こうした課題に向き合っているという。


高度化する獣医療と、飼い主やペットそれぞれの生活をどう結びつけるのか。「納得できる獣医療」のあり方について、院長の吉川文貴氏に聞いた。


長寿化で増える「治療を選ぶ」という負担


一般社団法人ペットフード協会の「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」によると、犬全体の平均寿命は14.90歳、猫全体では15.92歳となっている。


ペットが長く生きるようになれば、それに伴って高齢期の病気や慢性疾患に向き合う機会も増える。獣医療の高度化も進み、腫瘍や循環器疾患など、より専門的な治療を選べる場面が増えてきた。選択肢が増えること自体は飼い主にとってプラスだが、その一方で、どの治療を選ぶのかという新たな悩みも生まれる。


治療費だけでなく、通院回数や投薬、入院の必要性など、日常生活への影響も考える必要がある。さらに、年齢や性格によっては、検査や治療そのものが動物に大きな負担となることもある。


ぶんペットクリニックで重視しているのが、こうした選択を飼い主だけに委ねないことだという。


吉川氏は、「獣医学的な根拠に基づいて説明し、飼い主が納得して治療を選べるまで対話することを大切にしている」と話す。高度な治療を提示するだけでなく、動物の状態、性格、飼い主の生活や経済面なども含めて治療方針を考える。獣医療では、医学的に可能な治療と、その家族にとって現実的な治療が必ずしも一致するとは限らない。だからこそ、「できる治療」だけでなく「どの治療を選ぶか」を一緒に考える姿勢が重要になる。


一方で、緊急性の高い病気などでは、十分な時間をかけて話し合うことが難しい場面もある。


飼い主が精神的に動揺している状況で、複数の選択肢や費用をどう伝えるかは、獣医療全体が抱える難しさの一つだろう。



猫の通院ストレスをどう減らすか


治療の質を考えるうえでは、医療技術だけでなく、動物病院そのものの環境も重要になる。特に猫は環境の変化や音、においなどに敏感で、通院そのものがストレスになる場合もある。


ぶんペットクリニックでは、国際的な認定制度である「キャットフレンドリークリニック」の認定を取得している。これはInternational Society of Feline Medicine(ISFM)が運営する制度で、猫の特性に配慮した診療環境や対応などについて基準を設けているものだ。


同院によれば、犬と猫の待合スペースを分けたり、診察室の光や音に配慮したりするほか、診察時のハンドリングにも工夫をしているという。必要以上に動物を拘束せず、検査についても必要性を見極めながら行うことで、診療時の負担をできるだけ減らす考えだ。


ただし、病院側が環境を整えれば、すべての猫のストレスがなくなるわけではない。移動用キャリーに入ること自体を嫌がる猫もいれば、車での移動や知らない場所に行くことを苦手とするケースもある。


そのため、病院だけでなく、自宅でキャリーに慣らすなど、飼い主側の協力も必要になる。


「猫にやさしい病院」をつくることは、設備だけでは完結しない。


病院と飼い主の双方が、動物のストレスをどう減らすかを考える必要がある。




1人の獣医師だけに頼らない「チーム医療」


獣医療の専門性が高まるなか、1人の獣医師がすべての領域を同じ水準でカバーすることは難しくなっている。そこで同院では、獣医師やスタッフが知識や情報を共有しながら診療にあたる「チーム医療」を重視しているという。


吉川氏によれば、個人の経験だけで判断するのではなく、必要に応じてスタッフ同士で意見を出し合いながら診療方針を考えている。


動物病院では、診察だけでなく、検査、入院管理、投薬、飼い主への説明など、複数のスタッフが関わる。それぞれが動物の変化に気づき、情報を共有できれば、診療の判断材料も増える。


一方、チーム医療を機能させるには、スタッフ間での情報共有や教育も欠かせない。知識や経験に差がある中で、どのように診療方針を共有するのか。人材を育てながら一定の医療水準を維持することも、動物病院経営では重要な課題となる。


病院に来ていない時間をどう支えるか


動物が病院にいる時間は、生活全体から見ればごく一部だ。日々の食事や運動、体重の変化、排泄の状態など、病気の兆候は家庭で現れることが多い。そのため、病気になってから治療するだけでなく、普段の生活から健康状態を把握することも重要になる。


ぶんペットクリニックでは、オンラインの健康管理ツールなどを取り入れながら、病院外での健康管理にも取り組んでいるという。体重の記録や給餌量、カロリー計算などを日常的に管理することで、飼い主自身が小さな変化に気づきやすくする狙いがある。吉川氏は、動物病院を「病気になったときだけ行く場所」ではなく、日常的な相談ができる場所にしていきたいと話す。将来的には、地域イベントなどを通じて、飼い主同士が交流できる機会もつくっていきたいという。


ただし、オンラインツールを導入しただけで健康管理が続くとは限らない。記録する手間もあれば、デジタル機器を使うことが得意ではない飼い主もいる。病院側にも、蓄積された情報を誰が確認し、どのように診療へ生かすのかという運用上の課題がある。便利な仕組みを増やすこと以上に、飼い主が無理なく続けられる方法にできるかが重要になりそうだ。


「最善の治療」と「納得できる治療」は同じなのか


獣医療が高度化すれば、選べる治療は今後も増えていくだろう。しかし、選択肢が多いほど、飼い主が悩む場面も増える。医学的にはより高度な治療が可能でも、高齢の動物に大きな負担がかかることもある。経済的な事情から、すべての選択肢を選べない場合もある。


そうしたときに重要になるのは、治療法を一方的に提示することではなく、飼い主が何を大切にしているのかを確認することだ。ぶんペットクリニックが掲げる「納得できる獣医療」も、必ずしも最も高度な治療を選ぶという意味ではない。動物の状態や家族の生活、治療に伴う負担などを踏まえたうえで、それぞれが納得できる選択を探すという考え方だ。


長寿化によって、ペットと暮らす時間が延びたからこそ、動物病院に求められる役割も変わりつつある。病気を治療する場所から、飼い主とともに「どう暮らしていくか」を考える場所へ。治療技術だけでは測れない動物病院の役割が、これまで以上に問われることになりそうだ。






【取材協力】
株式会社ぶんペットクリニック
院長 吉川文貴
https://bun-pc.com/


    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2026
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.