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なぜ「見えているのに」病気が進むのか デジタル時代の眼と“受診控え”の課題



パソコンやスマートフォンを見る時間が長くなり、眼の疲れや乾燥を感じる人も少なくない。


一方、眼の病気のなかには、自覚症状が乏しいまま進行するものもある。症状がないからこそ、受診のきっかけを持ちにくいという難しさもある。


大阪府高槻市の「なかつぼ眼科」では、予約方法や院内環境、患者への説明などを工夫しながら、受診時の負担を減らす取り組みを進めている。


眼の健康を守るうえで、医療機関はどうすれば「通いやすい場所」になれるのか。院長の中坪弥生氏に話を聞いた。



2200万人ともいわれるドライアイ


ドライアイ研究会によると、日本のドライアイ患者は2200万人ともいわれている。背景には、高齢化に加え、エアコンの使用、パソコンやスマートフォンを見る時間の増加、コンタクトレンズ装用など複数の要因があるとされる。


とくにデジタル機器を長時間使う生活では、眼の乾燥や疲れを意識する場面も増えやすい。


ただ、より注意したいのは「症状がないから大丈夫」とは限らないことだ。


代表的なのが緑内障である。


日本眼科学会によると、岐阜県多治見市で行われた大規模な疫学調査では、40歳以上の緑内障有病率は約5%だった。つまり20人に1人の割合になる。緑内障は初期には自覚症状が乏しいことが多く、本人が気づかないまま進行する場合がある。そのため、症状が出てから受診するだけではなく、定期的に眼の状態を確認する意味も大きい。


一方で、働き盛りや子育て世代にとって、症状がない状態で医療機関へ足を運ぶことは簡単ではない。仕事や家庭を優先するなかで、受診を後回しにしてしまう人もいる。「何かあったら行く場所」になりがちな眼科へ、症状がなくても足を運んでもらうにはどうすればいいのか。


地域の眼科医院にとって、受診のハードルをどう下げるかも一つの課題になる。



「待ち時間」をどう減らすか



病院やクリニックへ行く際、患者にとって負担になりやすいものの一つが待ち時間だ。


厚生労働省の受療行動調査でも、外来患者の満足度を調べる項目として待ち時間が継続的に取り上げられている。長時間待つほど不満が高まる傾向も確認されている。


なかつぼ眼科では、院内での予約とWEB予約を組み合わせながら、既存患者と初診患者の双方が受診しやすい運用を考えているという。


中坪氏は、診療の質を保ちながら、患者が院内で過ごす時間をできるだけ負担に感じない仕組みづくりを意識していると話す。


院内環境にも工夫を加えている。待合室や検査室にはピンクやオレンジなどの暖色を取り入れ、一般的な医療機関に対して抱きやすい緊張感を和らげることを意識したという。診察室には大型モニターを設置している。


眼底写真や検査結果を患者と一緒に見ながら説明することで、「今、自分の眼がどのような状態なのか」を視覚的に共有するためだ。眼科では、眼圧や視野、眼底など、患者自身では状態を実感しにくい検査も多い。数字だけを説明されるより、画像を見ながら説明を受けたほうが理解しやすい場面もある。


中坪氏は、専門用語だけで説明するのではなく、患者自身が状態を理解できる形にすることを重視しているという。もっとも、予約システムや内装を整えるだけで、患者の不安がなくなるわけではない。医療機関への印象を最終的に左右するのは、医師やスタッフとのやり取りでもある。


「自分の仕事だけ知っている」では回らない


なかつぼ眼科では、開院前のスタッフ研修にも特徴があった。看護師、視能訓練士、受付事務など、職種ごとに自分の担当業務だけを学ぶのではなく、受付から検査まで一連の業務を全員が経験したという。


一般的な医療機関では、それぞれの専門職が担当業務を持っている。もちろん専門性は欠かせない。


一方で、自分以外のスタッフが何をしているのかを知らなければ、患者が院内でどのような流れをたどっているのかも見えにくい。中坪氏によれば、全体の業務を学んだことで、スタッフ同士が互いの仕事を理解しやすくなり、急な欠員などがあった場合にも状況を把握しやすくなったという。


患者側から見ても、受付、検査、診察が別々に動いているのではなく、一連の流れとして機能することが重要になる。ただし、業務を横断的に理解することと、誰でもすべての専門業務を代替できることは同じではない。医療では資格や専門性が求められる業務もある。そのため、職種間の理解を深めつつ、それぞれの専門性をどう生かすかというバランスが必要になる。


「レジリエンス」を組織にどう生かすか


中坪氏がスタッフとの関係で重視しているものの一つが、問題を抱え込まないことだという。自身も医療現場でさまざまな経験をしてきたなかで、困難から立ち直る「レジリエンス」や、人とのつながりの重要性を感じてきたと話す。院内でも、問題点や改善案があればスタッフ間で共有し、必要に応じて運用を見直すようにしているという。


医療現場では、患者の状況も日々異なる。予定通りに診療が進まないこともあれば、急な対応が必要になることもある。そのため、決められた業務をこなすだけでなく、現場で起きた問題を共有し、修正していくことが必要になる。


一方で、こうした職場環境を維持するには、院長個人の考え方だけに依存しない仕組みも必要だ。スタッフが増えたり入れ替わったりしても、情報共有や教育を継続できるか。患者への対応と同様、組織づくりも一度完成すれば終わりというものではない。


症状がないときに眼科へ行けるか


眼科医療の難しさの一つは、本人が不自由を感じていない段階で受診する必要がある病気が存在することだ。


緑内障のように、初期には気づきにくい疾患もある。


一方で、生活者からすれば「見えているのに病院へ行く」という行動には、きっかけが必要になる。だからこそ、医療機関側には診断や治療の技術だけでなく、受診しやすさや説明のわかりやすさも求められる。なかつぼ眼科が進める予約方法の工夫や院内環境の整備、検査結果の可視化、スタッフ研修も、そうした受診時の負担を減らすための取り組みと位置づけられる。


もちろん、こうした工夫だけで受診控えそのものを解消できるわけではない。定期的な眼科受診の必要性をどう伝えるか、生活者自身が眼の健康に関心を持つきっかけをどう増やすかという課題も残る。デジタル機器を見る時間が増え、眼を酷使しやすい生活になった現在。


「見えにくくなってから受診する」だけではなく、自覚症状がない段階で眼の状態を知るという考え方も、今後さらに重要になりそうだ。





【取材協力】
なかつぼ眼科
院長 中坪 弥生
https://nakatsubo.jp/


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