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「酸っぱくなりにくいキムチ」はどう生まれた? 地方食品メーカーが挑む技術開発と販路づくり



原材料価格の上昇や物流コスト、人手不足など、食品製造を取り巻く環境は厳しさを増している。


とりわけ中小規模の食品メーカーにとっては、大手企業と同じ価格競争を続けるのではなく、自社ならではの商品や販路をどうつくるかが重要になる。


福岡県福岡市を拠点とする株式会社八恵堂は、キムチの製造に真空調理や急速冷凍などの技術を取り入れながら、商品開発を進めている。


さらに、プロスポーツチームとの連携やLINEを活用した顧客接点づくりなど、製造以外の取り組みにも力を入れているという。同社の事例から、地方の食品メーカーが商品開発と販売をどう組み合わせているのかを見ていく。



「酸っぱくなりにくい」キムチをどうつくるのか


八恵堂が展開する主力商品の一つが「和キムチ」だ。


同社によれば、ヤンニョムには3種類の鰹節や紫岩塩、黒ニンニクなど、複数の素材を組み合わせているという。製造工程では、真空調理とマイナス30度での急速冷凍を組み合わせた独自の製法を採用している。


キムチは発酵食品のため、保存している間にも味が変化する。特に発酵が進むことで酸味が強くなることは、消費者の好みが分かれるポイントでもある。


八恵堂では、この味の変化を抑えながら商品としての品質を維持するため、製造工程を工夫しているという。同社は、この製法について特許を取得しているとしている。また、菌に関する専門家との共同研究も行い、製造工程や原材料について検討を重ねているという。


一方で、こうした技術を導入すれば、それだけ製造コストも増える。


専用設備の導入や維持、素材の調達、研究開発にかかる費用を、最終的な商品価格にどこまで反映できるのか。独自技術があることと、その商品が継続的に売れることは必ずしも同じではない。技術的な差別化を、消費者が感じる価値へどうつなげるかが重要になる。



「高付加価値食品」は価格競争から抜け出せるか


中小メーカーが大手と価格だけで競争することには限界がある。そこで一つの方法になるのが、原材料や製法、開発背景などによって商品の違いを明確にすることだ。八恵堂では、複数の素材を組み合わせた味づくりや製造方法を商品の特徴として打ち出している。


「和キムチ」は「OMOTENASHI Selection」の受賞実績もあるという。


もっとも、こうした受賞や技術的な特徴が、そのまま継続購入につながるとは限らない。食品の場合、最終的に消費者が判断するのは味や価格、購入しやすさなどだ。


特に原材料費が上昇する局面では、品質を維持するために価格を上げるのか、利益率を下げるのかという難しい判断も必要になる。素材や製法にこだわるほど原価が上がりやすい一方、高価格帯の商品として市場に受け入れられるかどうかは消費者次第だ。


「良いものを作れば売れる」という単純な構図ではないところに、地方食品メーカーの難しさがある。


アビスパ福岡との連携は何を生むのか


同社では、製造以外にも顧客との接点を広げる取り組みを進めている。


その一つが、プロサッカークラブ「アビスパ福岡」との連携だ。同社によれば、オフィシャル・パートナーとしてコラボレーション企画を実施し、2025年シーズンには選手のスペシャルカードやタトゥーシールを封入した数量限定の商品も販売したという。


地域のスポーツチームと食品メーカーが組むことで、普段その商品を購入しない層に知ってもらうきっかけにはなり得る。


一方、こうした企画は期間限定になりやすく、その後の継続購入につなげられるかが重要になる。


話題性のあるコラボレーションを実施して終わるのではなく、その接点から自社ブランドや商品そのものに興味を持ってもらえるかが問われる。地域企業にとって、スポーツチームとの連携は認知を広げる一つの手段だが、そこから通常商品の販売へどうつなげるかまで設計する必要がある。


LINEは「販売チャネル」になり得るか


八恵堂では、公式LINEのリニューアルにも取り組んでいるという。リッチメニューにクーポンを設置するほか、レシピサイトや問い合わせ窓口、定期便のマイページなどへ直接アクセスできるようにしている。


食品メーカーにとって、商品を一度購入した消費者と継続的につながることは重要だ。


スーパーなどの店頭販売では、誰が購入したのかをメーカー側が把握することは難しい。


一方、自社ECやLINEなどのデジタル接点を持てば、新商品やキャンペーンの情報を直接届けることができる。ただし、LINEを開設すれば自動的に売上が伸びるわけではない。配信頻度が高すぎればブロックされる可能性もあり、クーポンに頼りすぎれば値引きが常態化する。


デジタル化では、ツールを導入することよりも、それを誰が継続的に運用し、顧客との関係をどう維持するかが重要になる。中小企業ほど、こうした運用を担う人材や時間を確保することが課題になりやすい。




地方食品メーカーは何で差別化するのか



食品市場では、大手メーカーだけでなく、地域の小規模事業者やD2Cブランドなど、多くの商品が競争している。その中で地方企業が生き残るためには、単に「地域の商品」であることだけでは十分ではない。


味、製法、原材料、価格、ブランド、販売方法など、どこで他の商品との違いをつくるかを考える必要がある。八恵堂の場合は、製造技術による商品開発と、スポーツチームとの連携やLINEなどを使った販路づくりを組み合わせようとしている。


ただし、設備投資や研究開発、販促にはそれぞれコストがかかる。技術開発に力を入れすぎれば投資回収に時間がかかり、販促に予算を使いすぎれば利益を圧迫する可能性もある。地方の中小食品メーカーにとって重要なのは、新しい取り組みを増やすこと自体ではなく、それぞれを継続的な収益へどうつなげるかだ。


「酸っぱくなりにくい」という商品の特徴も、スポーツチームとのコラボも、LINEによる顧客接点も、そのための手段の一つにすぎない。


技術、商品、販路をどのようにつなぎ、継続して選ばれるブランドをつくれるのか。八恵堂の取り組みは、地域食品メーカーが差別化を図る一つの事例といえそうだ。





【取材協力】
株式会社八恵堂
代表取締役 久留島さやか
https://www.hakkeido.co.jp/


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