政府や企業がリスキリングを掲げるなか、社会人の「学び直し」への関心が高まっている。一方、働きながら学ぶ時間や費用をどう確保するのか、学び直した経験をその後の仕事にどうつなげるのかなど、実践にはさまざまなハードルがある。
年齢もその一つだ。若手社員を対象とした研修やキャリア支援に比べ、中高年になってから新たな分野を学び直すことには、心理的にも制度的にも難しさが伴う。
そうしたなか、破産や家族の介護などを経験しながら、70歳で大学院に進学した人物がいる。タカギ&アソシエイツ代表のたかぎこういち氏だ。自身の経験を手掛かりに、中高年のキャリア再構築と学び直しについて聞いた。
なぜ日本社会は「失敗」に不寛容なのか――昭和の成功体験という障壁
昭和の高度経済成長期は、失敗する方が難しい時代であった。しかし、1990年代以降の社会構造や通信技術の変化により、過去の成功体験はむしろ学び直しの邪魔になる局面が増えている。同氏は、失敗を「上手く行かない方法を見つけた」と捉えるエジソンのような前向きな視点が必要だと指摘する。
また、人口減少社会において、余剰人材を社会人教育に向けることが国全体の生産性向上に寄与すると位置づけている。一方で、社会人向けの学びの場や機会の提供は依然として少なく、持続的な再教育の仕組みや制度設計における課題は山積しているのが実情だ。
70歳での大学院進学と再起――環境を変えることの意義

同氏自身、大きな困難に直面した後、環境と人間関係を刷新するために香港へ渡った経験を持つ。当面の生活費を確保するための18ヶ月間は、選択肢がない中で猛烈に働き、短期間で多店舗展開を進めたという。
その後の現地パートナーとの対立などの経験も、次の事業展開への糧となったと同氏は説明する。人生において無駄な経験はなく、少しでも継続することがキャリア再構築の糸口となるという見方もある。もっとも、すべての人材が国境を越えた劇的な環境変化に耐えうるわけではなく、個人の適性やリスク許容度に依存する側面は否めない。
人生100年時代のキャリア構築――個人の挑戦と制度のギャップ

同氏は30歳での大学入学、63歳での出版、そして70歳での大学院入学と、学習とキャリア再構築を繰り返している。介護と学業の両立を経て73歳で修了したこの経緯について、同氏は『自身のキャリアを再考する相談者にとっての先行事例の一つでありたい』と話す。
日本は起業数が少なくイノベーションが生まれにくいとされるが、同氏は社会保障制度の充実を背景に、最低限の生活は保障されていると指摘する。失敗を過度に恐れず、何度でも挑戦できる土壌はすでに存在するという主張だ。ただし、個人の意識変容だけでなく、企業側の採用基準や中高年の活用方針が抜本的に変わらなければ、真の意味での「学び直せる社会」の持続性には不確実性が残る。
人生には何度でも再建のチャンスが訪れると同氏は語る。充実した社会保険制度などのインフラをいかに活用し、一人ひとりが自らの可能性に気づくことができるかが問われている。失敗を「次へのステップ」として許容する社会への転換は、今後の産官学の具体的な連携次第で輪郭が見えてくることになりそうだ。
【取材協力】
タカギ&アソシエイツ
代表 たかぎこういち
http://www.takagui.net/
