国内の化粧品市場では、成分や使用感だけでなく、どこで、どのように開発された商品なのかという背景も消費者に伝えられるようになっている。
そうしたなか、地域資源や大学の研究成果を活用した「地域発コスメ」も各地で生まれている。一方で、地域性を打ち出すだけで継続的な事業になるとは限らない。原料の調達や研究開発、販路の確保など、商品化した後にもさまざまな課題がある。
青森県を拠点とする株式会社イチカワ化粧品も、大学や地域との連携を取り入れた商品開発を進めている。同社代表の市川道恵氏に、地域発ブランドを続けるうえでの考え方と課題について聞いた。
地域素材を使うだけでは差別化にならない

地域由来の素材を化粧品に活用する取り組みは珍しくなくなった。農産物や植物、食品加工の副産物などを原料として利用し、商品の特徴として打ち出す事例も増えている。
イチカワ化粧品では、弘前大学が開発に関わった技術によって抽出されたプロテオグリカンを配合した「BLUE WING」ブランドを展開しているという。プロテオグリカンは人体にも存在する成分で、化粧品分野では保湿などを目的とした成分として用いられている。同社では、こうした地域の研究成果を商品開発に取り入れてきた。
また、産学官連携による研究を経て、日焼け止め「カタクリ UV プロテクト」の開発にも取り組んでいる。

市川氏は、単に「青森産」という地域性を訴求するだけではなく、大学などが持つ研究成果と組み合わせることが重要だと話す。
ただし、地域素材を商品化できたとしても、それだけで事業として定着するわけではない。原料を安定して確保できるのか、研究開発を継続できるのか、さらに一定の販売量を維持できるのかまで考える必要がある。
消費者の声をどこまで商品開発に反映するか
化粧品は、同じ商品でも年齢や肌質、使用環境によって感じ方が異なりやすい。
市川氏によれば、同社には30代から70代まで幅広い年代の顧客がおり、保湿感や使用感などについて寄せられた意見を商品改善の参考にしているという。消費者の声を拾うことは、商品と市場とのずれを把握するうえでは重要だ。一方で、個々の感想をそのまま製品の性能評価とみなすことはできない。
特に化粧品の場合、「しっとりする」「使いやすい」といった使用感には個人差がある。幅広い利用者の要望を取り入れようとすれば、商品コンセプトそのものが曖昧になる可能性もある。どの意見を改善に反映し、どこからは商品の特徴として維持するのか。顧客との距離が近い地域発ブランドほど、その判断が問われる場面も増えそうだ。
産学官連携は商品化した後が難しい
大学の研究成果や地域資源を企業が商品化する産学官連携は、地域産業を生み出す手法の一つとして各地で取り組まれている。
企業にとっては、自社だけでは持ちにくい研究設備や専門知識にアクセスできる可能性がある。大学側にとっても、研究成果を社会で活用する機会になる。
しかし、研究成果が商品になったからといって、そのまま継続的なビジネスになるとは限らない。
研究段階では成立していた技術でも、量産時のコストや品質管理、原料供給などで課題が生じるケースがある。さらに化粧品の場合、既存ブランドが多い市場の中で認知を広げ、継続購入につなげる必要もある。産学官連携の成果を単発の商品開発で終わらせないためには、研究開発だけでなく、その後の製造、販売、マーケティングまで含めた事業設計が欠かせない。
「地域発」を持続可能な事業にできるか
地方発の商品には、地域の素材や技術、研究機関とのつながりを商品価値として打ち出せる強みがある。
一方で、地域性そのものが長期的な競争力になるとは限らない。
消費者が繰り返し購入する理由が商品の品質や価格、使いやすさにあるのか、それとも地域ストーリーにあるのかを見極める必要がある。
また、事業規模が拡大すれば、原料調達や製造体制も変わる。地域内で完結していた仕組みをどこまで維持できるかという問題も出てくる。イチカワ化粧品の取り組みは、地域資源と大学の研究成果を組み合わせた商品開発の一例だ。こうした地域発ブランドが今後も定着していくためには、「地域だから買う」だけではなく、「商品として選ばれ続ける」理由をつくれるかが重要になる。
産学官連携による商品化を、地域経済の継続的なビジネスへどう結びつけるのか。地域発コスメの次の課題は、開発そのものよりも、その後の市場づくりにあるのかもしれない。

【取材協力】
株式会社イチカワ化粧品
https://ichikawa-cosme.co.jp/)
代表 市川道恵
