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女性の鼠径ヘルニアって?治療の注意点や特徴


⿏径ヘルニアという病気は、あまり聞き慣れないかもしれませんが、いわゆる「脱腸」のこと。実は年間の手術数は⾍垂炎(盲腸)の数を越えるのだそうです。今回は、20年以上にわたり鼠径ヘルニア手術に携わってきた東京外科クリニック院長・大橋直樹さんに、⿏径ヘルニアの原因や特徴について話を伺いました。

女性にも発症する鼠径ヘルニア

一般的に、鼠径ヘルニアになりやすいのは女性よりも男性です。しかし、女性の体にも起こる可能性があります。
生涯で鼠径ヘルニア手術を受ける割合は、ある研究によると男性30%、女性3%となっているそうです。この数字の是非はともかく、いずれにしても女性の方が少ない傾向にあることは間違いないと思います。数にすると、日本全国で年間約2万人の女性が鼠径ヘルニアの手術を受けています。

全体として外鼠径ヘルニアが多いのですが、50代以降の女性では、内鼠径ヘルニアや大腿ヘルニアなど他の鼠径ヘルニアの発症も見られるようになります。特に大腿ヘルニアは高齢女性に多いとされ、嵌頓症状を起こし緊急手術となるケースがあります。

もともと鼠径部は胎児の時に、腹腔内にある精巣が陰嚢の中に下っていくための通り道でした。陰嚢に収まった後には、鼠径部に存在していた通り道のトンネルは自然に閉鎖されるよう遺伝的にプログラムされているものです。しかし、何らかのきっかけでそれが開いてしまうことがあります。もともと鼠径部の組織の構造が弱くなりやすい体質的な要素もあると思います。そういった要素が合わさって、鼠径ヘルニアという病気を引き起こす可能性が示唆されます。

男女とも、人体の基本構造は最初のうちは共通なので、鼠径部のトンネルが開いてしまう現象は女性でもあり得ます。ただし、先に述べた通り、具体的なシステムとして運用されている男性の方がヘルニアを発症しやすいと考えれば、辻褄は合うと思います。

子宮内膜症は、どこに発生するにしても、女性特有の病気です。そして子宮以外に内膜組織が増殖していくものが子宮内膜症と総称されていますが、先に述べた鼠径部のトンネルを通って、子宮内膜組織が増殖する場合、鼠径部子宮内膜症という病気が成立することになります。

女性の鼠径ヘルニアの特徴

・鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアが同時期に存在することがある
・大腿ヘルニアは女性の方が男性よりも発症頻度が高い

また、鼠径ヘルニアと間違われやすい、あるいは併存するために個別の配慮が必要なものがあります。このような病気があることも、女性の鼠径ヘルニアの特徴です。
・子宮円靭帯静脈瘤(子宮円索静脈瘤)
妊娠中に初めて発症した「ふくらみ」や「しこり」は、鼠径ヘルニアとは限りません。鼠径ヘルニアと症状が非常に似ていますが、治療方法は異なります。
症状を正しく診断する必要があります。また、ときに内部の血液が固まると痛みを伴うことがあります。多くの場合は出産後に自然治癒し、手術による治療はほとんどありません。

・ヌック管水腫、ヌック管嚢腫
若い女性に多く見られるヌック管嚢腫があります。
ヌック管水腫、ヌック管嚢腫は、お母さんのお腹で成長する際に通常ならば自然に引っ込んでしまう腹膜鞘状突起という部分が鼠径部に飛び出したまま誕生します。
鼠径部に入り込んだヌック管の内部に腹水が溜まってしまっている状態です。

治療はこれを摘出すること。組織などが大きく欠損しヘルニアになるリスクが高い場合はその修復も行うこと。そもそもヌックとヘルニア同時に併存している症例もあります。
多くの医療機関でヌック管の病名が言われていますが、安易につけるべき病名ではないと考えています。
通常のヘルニア嚢に腹水が溜まっているだけで、あればそれをヌックとは言いません。術中にのみ確定診断がつくのでその場合は通常通りの鼠径ヘルニア手術を行いますし、ヌックもしくは疑わしい組織を術中に発見した際には切除します。やり残しがないかどうかよく確認する見識が執刀医には求められます。私のクリニックではいずれにしても腹腔鏡手術が可能です。

・鼠径部子宮内膜症
若年女性の鼠径部に発生する有痛性腫瘤。多くは鼠径ヘルニアが併存しますが、腫瘤を見落とし、摘出を怠ると手術をしても症状が改善しないので、常に注意をして診療にあたっております。
明らかな硬結がある場合は摘出手術が可能ですが、月経前になると痛くなるといったケースでは手術を安易に行うわけにもいかず、婦人科的薬物療法(Sequential療法といいます)を提案することもあります。

治療しないでいるとどうなるか

病気が進行して大きくなったり、痛みや違和感を伴ったりする場合があります。進行したヘルニアの手術の難易度は高くなる可能性があります。女性の大腿ヘルニアは体表の診察だけでは診断することが難しいことも多くあります。特に大腿ヘルニアは緊急手術になる場合もあるため、鼠径部のふくらみを感じたら診察を受けることをおすすめします。

最後に

普段聞くことのない病名から不安な気持ちになっておられる方もいらっしゃると思いますが、治療することができる病気ですのでご安心ください。手術の時期決定は最終的には患者様のお気持ち・状況次第ではありますが、当院では日帰りで苦痛の少ない治療を提供しています。まずはお気軽にご相談ください。

医療法人社団博施会理事長 大橋 直樹
(日本外科学会認定外科専門医)
http://www.tokyogeka.com/

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