政府の新方針とその背景
2023年6月18日、政府は携帯電話契約時の本人確認に関して、新たな方針を打ち出した。対面契約の際には、マイナンバーカードなどのICチップ読み取りを義務付けること、非対面契約では運転免許証の画像送信を廃止し、原則としてマイナンバーカードに一本化する方針が示された。この決定は、携帯電話の不正契約や特殊詐欺の防止を目的としており、今年1月から4月までにSNSを利用した投資詐欺の被害が2508件、総被害額が約334億3000万円に達したことから、対策が求められているようだ。
しかし、この方針に対してSNS上では「マイナンバーカードは任意のはずなのに」「これではほとんど強制では」という批判が相次いだ。識者の中には「運転免許証のICチップでも代替可能」という見解を示す者もおり、なぜマイナンバーカードに一本化する必要があるのかという疑問が広がっている。
デジタル庁の見解
メディアの取材記事によると、デジタル庁の担当者は「非対面での携帯電話契約における本人確認をマイナンバーのICチップに一本化することは考えていない」と回答しているようだ。ICチップでの本人確認は推進するが、マイナンバーカードだけに限定する予定はないとのこと。また、「政府側の伝え方が悪かったことで、一部のメディアがミスリードしてしまった側面がある」と述べ、これから具体的な内容を検討し、国民が安心できるシステムを作ると説明しているようだ。
この発言からも、デジタル庁としてはマイナンバーカードの強制を意図していないことはわかるが、やはり政府としても再度わかりやすい形で説明することが求められる。
住所不定者は携帯を持てない?通信困窮者を救う携帯会社「誰でもスマホ」を運営者としての見解
弊社、株式会社アーラリンクが提供する携帯電話サービス「誰でもスマホ」は、通信困窮者を対象にしたサービス。今回の新たな義務化による影響について、以下のように考えています。
住所不定者の携帯契約
現行の携帯電話不正利用防止法により、携帯電話の契約には本人確認が義務付けられています。そのため、住所不定者は支援団体などで登録できる住所を得ることで、本人確認書類を作成し契約が可能となっています。新たな義務化により対面販売での本人確認がマイナンバーカードに一本化される場合でも、同様の対応が必要となります。
新たな本人確認方法の義務化
対面販売ではマイナンバーカードが必要となるため、「誰でもスマホ」の対面販売においても、このカードの取得が求められます。(※1)住所不定者については、支援団体の協力を得てマイナンバーカードを取得してもらい契約を進めますが、カードの取得を拒否する方々については契約が難しくなる可能性があります。
(※1)2024年6月20日現在は、運転免許証などの本人確認書類でも契約はできます。新ルールを施行したタイミングで改めてお知らせをいたします。
通信困窮者への影響
新たな義務化により、通信困窮者に対する行政および支援団体の相談対応の負担増が懸念されます。しかし、マイナンバーカードを持つことで行政サービスの利便性が向上する点も考慮されています。犯罪防止の目的には賛同しますが、オンライン契約においてカードリーダーなどが必要となることが想定されるため、手続きが一層困難になる可能性があります。
アーラリンク社の対応方針
弊社(アーラリンク)は、「誰でもスマホ」を提供する企業として、以下の方針で対応することを表明しました。
- 支援団体との連携強化: 支援団体と連携し、通信困窮者にとって最適な契約方法を提供。
- オンライン契約サポート: オンライン契約におけるサポート体制の充実を図る。
- 行政との協力: 地方自治体や社会福祉協議会と連携し、通信困窮者の負担を軽減するための対策を講じる。
- 犯罪防止対策の強化: 犯罪防止に向けた取り組みを強化し、安心して利用できるサービスの提供に努める。
携帯電話契約の本人確認に関する新たな義務化は、犯罪防止の観点から重要な施策ではあるが、マイナンバーカードによる確認には国民からの反発も強い現状がある。政府とデジタル庁は、国民が納得し安心できる形でのシステム構築が求められ、一方、通信困窮者への影響を最小限に抑えるために、支援団体や企業との連携も不可欠となります。
執筆 高橋 翼
株式会社アーラリンク代表取締役/一般社団法人リスタート代表理事
1985年埼玉県生まれ。通信事業の将来性と貧困救済の必要性を感じ2013年アーラリンク創業。2019年に社会的困窮者を対象とし個々の社会復帰と自立を目指した支援を行う一般社団法人リスタートを設立。地方自治体や支援団体と連携し、携帯電話を持てず社会に参加できない「通信困窮者」支援に取り組む。