「チームを乗せていく」 金本阪神の『超変革』までの道のり(前編)
選手たちを乗せていく…。この言葉は意味深い。
1番・高山、2番・横田、3番・ヘイグ。なかでも、新人の高山俊(22)は、金本阪神のスローガンである『超変革』の象徴とも言われている。横田との「1・2番コンビ」の活躍は2011年以来となるオープン戦首位の原動力ともなった。その勢いを開幕カードに持ち込んだわけだが、ヘイグを3番に置いた開幕戦の新打線は、捕手の岡崎太一(32)を含めれば、「4人が新戦力」となる。
開幕戦を観戦したプロ野球解説者の1人がこう言う。
「高山、横田、ヘイグに対し、セ5球団はまだデータを取りきれていません。選手としての特徴は分かっていますが、得意なコースや苦手コースはどこなのか、どの種類の変化球が苦手で、どういう配球で苦手なボールを投げられたら対応できないのかなど、調べ上げるのはこれからです。オープン戦終盤がとくにそうでしたが、意図的に色々なボールを投げ、どんな対応をするのかを確かめています。彼らの真価が問われるのは交流戦以降かな」
彼らの勢いが止まるときもあるかもしれない。しかし、阪神が「変わった」と不安も確信できたのは開幕戦の1回、5回の攻撃だろう。
1回裏、先頭の高山が出塁する。2番・横田慎太郎(20)はヒッティングに出た。去年までの阪神だったら、手堅くバントで進塁させていた。結果は投手ゴロだったが、横田は一塁まで全力疾走し、併殺プレーを防いだ。秋季キャンプから「走る」をテーマにし、犠打や凡打での打者走者の手抜き走塁は「絶対に許さない」とする金本イズムである。
また、5回裏は投手のメッセンジャー(34)に盗塁のサインを出した。調べてみたところ、阪神が投手に盗塁をさせたのは35年ぶり(成功)。このメッセンジャーについて、金本知憲監督と腹心・矢野燿大作戦兼バッテリーコーチ(47)は“意見交換”していたという。
春季キャンプ前だった。矢野コーチが解説者時代に見た印象として、
「投内連携プレーで全力疾走しない。もう助っ人ではなく、主力なんだから(本人に)言ってやろうかと…」
と言った。金本監督も頷き、さらにこう続けた。
「オレさ、ピッチャーにも盗塁のサインを出そうかと思っている」
投手の盗塁と聞き、矢野コーチは無言で聞き返した。
「藤浪(晋太郎)あたりは喜んで走ってくれると思うんだけど?」
金本監督がそう言うと、矢野コーチは反論しなかった。
「セ・リーグの投手は打席に立ちます。バントのサインが出て、ボールを転がすと、一塁まで全力で走る投手はいないんじゃないかな。守っている側からすれば、簡単に一塁送球して、アウトカウントが1つ稼げるんだから、楽なもんですよ」(前出・プロ野球解説者)
投手の全力疾走は守備側のチームにプレッシャーを与えるようだが、リスクもともなう。一塁ベースカバーに入る二塁手と接触すれば怪我を負う。その怪我が重症となれば、ローテーション全体に影響が出る。しかし、金本監督はリスクよりも攻めることを選んだ。
“手抜き走塁”の典型例だったメッセンジャーがトラ投手陣の先陣を切って、盗塁を決めて見せた。中日守備陣が乱れる間に三塁まで走っている。
「5回裏は7番・西岡が出塁すると、8番の岡崎にエンドランのサインを出しました。下位打線にも犠打ではなく、『攻める』攻撃をさせました。エンドランは決まるとベンチは凄く盛り上がるんです」(前出・同)
「乗せていくことが大事」と言った金本監督の狙いは、そんな戦う姿勢を植え付けることにある。それだけなら、単なる『変革』だが、積極的に攻めることが当たり前だというところまでチームを変えなければ、『超変革』にはならない。乗せていくことで『変革』の先までチームを進化させる。開幕初戦を勝ち星で飾れなかったが、新生・金本阪神は確実に『超変革』へと歩み始めた。
【記事提供:リアルライブ】
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