追悼・水木しげる先生が遺した言葉「なまけものになりなさい」に隠されたテーマとは?
戦後すぐに紙芝居画家キャリアをスタートし1958年に貸本漫画家としてデビュー。画業50年を超えた近年でもビッグコミック誌にて「91歳の新連載」と銘打ちエッセイ漫画『わたしの日々』(2015年5月より休載)を連載するなど精力的な活動を続けていた。
漫画執筆以外の仕事でも子供向けの「妖怪図鑑」の執筆ほかイベント・テレビ出演や講演活動、自伝の執筆などその活動は多岐に渡り、まさに「漫画界の妖怪」の名に相応しい巨星であった。
とくに「妖怪図鑑」の執筆については、すでに「過去の文化」「民俗学の対象」となっていた妖怪を現代に蘇らせ子供に限らず大人の世代にも妖怪の姿を広く浸透させるなど、その功績は計り知れない。
オカルト研究家としてテレビや雑誌で活躍する作家の山口敏太郎(49)もそのひとり。「自分の活動の原点は水木しげるにあった」と語り、故人を偲んでる。
山口敏太郎氏は小学生の頃から熱烈な水木ファンであり地元・徳島県で開催された水木しげるサイン会に参加していた。サイン会では質問コーナーもあり、当時10歳の山口少年は手をあげ「水木先生、妖怪研究家になるにはどうしたらよいのでしょうか?」と質問したという。
すると、水木氏は間髪いれず「なまけることです」と答えたという。
「なまけものになりなさい」とは水木氏の人生訓として広く知られている言葉である。シンプルな言葉の裏には「若い頃にがむしゃらに働きある程度の貯蓄をしたら存分になまけなさい」というテーマが込められているという。また、水木氏は「他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし」とも 語っており、働き過ぎな現代人に対しユーモラスな妖怪を用いて表現し続けた作家であった。
山口氏は「あの日から40年が経過した今、考えてみると現代人特有の感覚ではなく、昔の日本人のようなゆったりした感覚で生きないと『妖怪アンテナ』が作動しないといった意味だったのでしょう。本当に言葉に深みのある御方でした」と語っている。
10歳だった山口少年はおよそ20年後、学研主催のミステリー大賞にて優秀作品賞を受賞する。テーマはもちろん子供の頃から大好きだった「妖怪」であった。
受賞を皮切りに作家デビューした山口敏太郎氏は水木しげるの図版を借りたお礼のため水木プロを訪問。憧れだった水木氏と再会した。その際に水木氏は大人になった山口氏に対し「(山口君は)まだ半妖怪だね」と語りかけたという。
「できれば水木先生にもう一度お会いして『ようやく一人前の妖怪になったね』と言って欲しかった。でも、亡くなる直前まで働いていた水木先生から見れば『まだ怠けるには早いよ』と言われたかもしれませんね(笑)できれば水木先生以上に長生きして子供たちに夢を与えられ続けたらと思います」
山口氏はほかにも水木しげる氏の「金言」について「成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない」「人生をいじくり回しては いけない。慌てずじっくりやりなさい」「けんかはよせ 腹がへるぞ」
などを揚げていた。それらの言葉にはリタイヤせずに93歳まで日本で働き続けたひとりの漫画家およびビジネスマンとしての姿、戦中戦後の厳しい時代をくぐり抜け、傷ついてしまった自分への理想の姿も反映されていたのかもしれない。
水木しげるの93年間の人生および残された作品から現代人が学ぶ点はあまりに多い。
【記事提供:リアルライブ】
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