【不朽の名作】国内外のクリエイターに大きな影響を与えた『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』
今年6月、新作の『攻殻機動隊 新劇場版』が劇場公開され、話題となった攻殻機動隊シリーズ。そのブルーレイディスクが今月末に発売されるということで、今回はそのシリーズ化のきっかけとなった、1995年公開の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を紹介する。
本作は士郎正宗氏の漫画『攻殻機動隊』を原作としたアニメ映画で、監督には最近では、『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』の総監督などを務めている、押井守氏が抜擢された。この作品は、まだインターネットが世間全体としてはあまり普及していなかった時代に、ネットワークへの接続が日常になった近未来を描いた作品として、国内外のクリエイターに大きな影響を与えた、エポックメーキングな作品となっている。有名なところで言うと、ハリウッド映画『マトリックス』の監督であるウォシャウスキー兄弟も、この作品にインスパイヤされた人物だ。
楽しみ方としては、主人公の草薙素子が、脳と脊髄の一部を除く、ほぼ全身サイボーグ化(作中では義体化)した人間であるということを念頭においておくと良いだろう。本作は、内務省直属の攻性公安警察組織「公安9課」(通称 攻殻機動隊)の活躍を描くSF作品ではあるが、大枠は、「生命とはなにか?」「死とはなにか?」という、人類の普遍的なテーマを問うものとなっている。この、大真面目に論議すれば、哲学や宗教めいて難解になってしまうテーマを、サイボーグである主人公・素子と、電脳空間で生まれた生命体だと主張する人形使いを対比させることで、わかりやすくしていることが、本作の特徴だ。
元々人間である素子は、サイボーグ化が進んだ体に、自分のゴースト(作中では魂というより、自我という扱いに近い)が本当にあるのか、疑問に思っている。自分の本体はとうの昔に死んでいて、そのコピーではないかと疑っているのに対し、本来は電脳空間の情報体にすぎない人形使いが確固たる自我を持っている。この辺りのいびつな世界観が、この作品を斬新なものとしている。
また登場人物も、相棒で同じくほぼ全身義体のバトー、公安9課課長・荒巻大輔、刑事上がりで、ほぼ生身のトグサと、主要キャラクターは素子を含めても4名しかおらず、雑多な情報を徹底的にカットして、シンプルに結末に向かうという構成だ。これは限られた尺の中で話を作らなければいけない劇場作品に合っており、観る側は予備情報なしでも劇中の展開についていけるように配慮されている。それでも、あえて難解なセリフにしている場面もあるにはあるのだが、エンタメ性と、制作者側のメッセージ性が上手いバランスで保たれており、考えるのが苦痛なレベルにはなっていない。
演出面でも、まだインターネットサービスが始まったばかりの作品でありながら、今でも、本作の近未来表現に新しさを感じるほどよくできている。以前に監督の押井氏は、「まず、インターネットを知らないでやってましたからね」と本作の制作中の話を語っていたが、知らなかったことで、変な端末描写などが入らなかったことが、良い方向に働いたのかもしれない。もちろん、原作者である士郎氏の発想の斬新さも、素晴らしいのだろうが。作中のキャラの多くは、脳みそそのものを電脳化し、ネットへの接続を首の端子を介してやるため、この描写を古く感じるようになるのは、まだまだ先の話だろう。
さらに、この脳を電子化している影響で、人間の記憶を上書きすることも可能となっており、作中でも記憶を改ざんされて、人形使いの命じるまま動く人間なども登場する。ネットやサイボーグ技術の発展の影響で、個人を特定する自我が希薄になっているという演出が、この脳みそを電子化しただけという、わかりやすい構造のおかげで、他の専門用語の入り混じった、難解なセリフを理解できなくとも、すんなりと入ってくる。
アクション面では、銃撃のシーンにかなりのこだわりを感じる。人形使いに操られたテロリストが、サブマシンガンで強壮弾を固め撃ちするシーンでは、ぐっと足場を固め、腰を降ろして反動に備えているなど、描写が細かい。作中の強壮弾は現実にある強装弾とは意味が若干違うようで、対サイボーグや装甲板用の徹甲弾のようなものとなっている。その威力の凄まじさを、このワンシーンだけで、特にセリフの説明もなしに表現している。また、銃火器ごとによってマズルフラッシュの演出が違うのにも注目だ。
さらに、ラストの多脚戦車との対決では、序盤のガラスの屋根落としから始まり、戦車の細やかな動き、雨水の表現や、銃撃戦のカット割りなど、全てが視覚的に楽しませる要素満載のシーンとなっている。
実はこの作品には、2008年に公開の押井氏の映画『スカイ・クロラ』上映記念として新規カットを追加した、リニューアル版『攻殻機動隊2.0』というのが存在しているが、最初はオリジナル版を観ることをオススメする。なぜかというと、人形使いの声がオリジナル版では男性声優の家弓家正だったのが、2.0では女性声優の榊原良子になっているからだ。これはもう好みの問題なのだろうが、最終的に素子は人形使いと融合して、人間でありながら、電脳空間(ネット)でも、強力に個を保てる上位的な存在になるのだが、その段階で「性別すらも捨ててしまった」感が強調されている気がするからだ。
原作では、最終的に素子は男性義体になって公安9課を去るシーンでそれを表現しているが、映画では、少女型の義体となっているので、ここで融合する相手の人形使いが、女性の声優だと、「女であること」だけは捨てていない状態になってしまう。
(斎藤雅道)
【記事提供:リアルライブ】
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