
「あの高市総理でも、『鬼門』を避けられなかったとは」。10月5日の臨時国会召集を前に、先月17日に発足したばかりの第2次高市改造内閣の閣僚に関してスキャンダル報道が飛び出したことをめぐり、永田町で関係者を取材した際に聞いた言葉だ。初入閣した簗和生(やな・かずお)農相(47)が、選挙で自身を支援しなかった地元自治体の道路予算を「大幅にカットした」という発言を、大臣就任前ではあるが身内の会合でしていたと、一部週刊誌に報じられた。
過去にも、さまざまな問題で時の政権に大きな影響を与え、「鬼門」と言われ続けたのが、農相ポストだった。「アンケート」まで使って、内閣の顔ぶれをじっくり選ぶ機会となった今回の改造で、自信満々で顔ぶれを披露した高市首相にとっては、国会の本格論戦を前に、出ばなをくじかれたような流れになった。
簗氏は報道を受けた10月2日の閣議後会見で、大臣就任前の「1議員」としての行動だったとして、大臣会見で説明をすることを拒んだが、そんな理屈がまかり通るはずもなく、夕方に「1議員」としての会見開催に追い込まれた。その場で、国交省に道路予算をカットするよう自ら働きかけたことは否定しつつ、「(会合で)『大幅に道路予算をカットした』というような言い方はしたのか」との問いに、「音声を確認したわけではないが、そのような形で音声が出ているということであれば、そういう発言をしたんだと思います」と事実上発言を認めた。 会見では「誤解」というフレーズが何度も登場したが、前出の関係者は「音声を聞く限り、誤解する内容ではない」。簗氏が「確認していない」とした音声はSNSでも拡散され、認めざるを得ない形になったようにも感じた。
簗氏は、自民党で「農水族」といわれるベテラン議員が歴任した農林部会長も務め、農林水産の政策通と評される。最近の日本の農政は、「令和のコメ騒動」に生産者も消費者も翻弄(ほんろう)され、今年は顕著な異常気象でさまざまな作物への影響も懸念される。高市首相に近く信頼があついことでも知られ、待ったなしの農政の推進役に「期待をこめて抜擢(ばってき)された」(関係者)との見方が強い。
ただ、政界を取材してきて、この約20年だけを振り返ってみても、農相に就任した議員にさまざまな形で問題が指摘され、時の政権を揺さぶることもあった。
第1次安倍政権では、2007年5月から9月の約4カ月で、事務所費など「政治とカネ」の問題で3人が交代。政権の体力を奪い支持率も低下し、参院選にも敗れ、その後安倍晋三首相(当時)は退陣に追い込まれた。歴代最長の長期政権となった第2次安倍政権でも、「政治とカネ」による農相交代劇が起き、その時リリーフしたのは、今回の内閣改造で再任されなかった林芳正前総務相だった。
直近でも、東京電力福島第一原発から海洋放出された処理水を「汚染水」と発言し、再任されなかった岸田政権の農相もいた。顕著な混乱が起きた石破政権では、地元会合で「コメは買ったことがない」「支援者の方々がたくさんくださるので家の食品庫に売るほどある」と発言した江藤拓氏が更迭され、小泉進次郎氏に交代。高市政権では、石破政権で小泉氏が進めようとしたコメ増産方針を、従来の「需要に応じた生産」に戻し、農水省出身の鈴木憲和氏が就任したが、大量に放出した備蓄米の買い戻しをめぐり首相方針とは異なったとされ、内閣改造では再任されず、その後を継いだのが簗氏だった。
にもかかわらず、国会での本格稼働前に、議員時代の今回の発言が表面化。やっぱり、農相ポストは政権にとっての「鬼門」なのか。そんな「ジンクス」をはからずも示す形となってしまった。
関係者によると、簗氏の農相起用には、高市首相のこだわりが感じられるという。旧安倍派出身で、同派裏金事件では1746万円の不記載があり、党から役職停止6カ月の処分を受けていても、首相は起用に踏み切った。裏金問題で名前が取り沙汰された議員では、今回簗氏と関芳弘文科相の2人が入閣。永田町関係者は「『1強』の高市首相にしかできないことだが、この2人にもし何か問題があれば、『裏金議員』の部分がプラスされて批判をされることも分かっていたはずだ」。ただ、周囲が案じた状況になっても現状では、簗氏の進退に発展するような動きはみられないという。
第1次高市政権では、女性問題が報じられた松本洋平文科相が批判にさらされたが、高市首相は最後まで交代させなかった。ただ今回は、個人のスキャンダルとは違い、道路予算という地元住民の暮らしに踏み込んだ形での問題。ある関係者は「簗大臣の説明の仕方がよくない。『逃げ腰』みたいなイメージだ。『一議員』では話せても大臣としては話せないという理屈だと、話す必要性があるたび『一議員』に戻らないといけない。それで臨時国会を乗り切れるのか」と苦言を呈する。
今日10月4日は、「高市1強」時代の幕開けとなった自民党総裁選の勝利から1年の節目。自民が圧勝した2月の衆院選以降、与党に押されっぱなしの野党も、臨時国会での農相追及を予告し、荒れる可能性がある。「鬼門」をくぐり抜けるのか、足を取られてしまうのか。高市首相の1強政治の本質も問われる局面になってきた。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)
