
芸道50年を迎えた演歌歌手細川たかし(75)が、日刊スポーツなどスポーツ新聞の合同インタビューに応じた。50年を振り返り、変わったこと、変わらないこと、弟子のことなどを語った。【取材・構成=川田和博】
◇ ◇ ◇
-芸道50年ということですが、やり続けられた原動力とか秘訣(ひけつ)は? 細川 年に70カ所くらいの地方公演をやっているので、その公演できちっと歌っている。それが非常に大事なのかな。お客さんの前で真剣に声を出す。もうそれが原動力ですよね。お客さんの前で歌うってことが大切。人間だらけたらダメですよ!
-振り返ってみて、一番の思い出は?
細川 さすが新聞社、良い質問だね。でも微妙だよ(笑い)
-書ける話にしてください!
細川 (スタッフに)何かない?(笑い) 何も変わっていないんだよね。変わったことをするとバテる。普通に生きている方がバテない。矢沢永吉を見てごらん。ずっと同じパターンでしょう。要するに、同じパターンをやり続けられるかどうかっていう話。ここ数年は「イヨマンテの夜」「北緯五十度」「望郷じょんがら」をコンサートで必ず歌うんです。これがめっちゃハードなのね。だから、ずっとこれをやり遂げられるのかって話。音を下げずにね。永ちゃんも下げてないよね。
-50年ずっと続けきて、衰えを感じたことは?
細川 酒飲んだ時、弱くなったかなって(笑い)。前みたいなバカ飲みはできなくなった。頭がグラグラして次の日覚えてないような、そこまで飲めなくなった。酔えるけど、そこまで行かないね。あれ、なんだろうね?
-そっちではなく…。歌での衰えは一切感じていない?
細川 うん。むしろ、70歳過ぎてから、少しパワー出たかなって。3大テノールを聞いてから「イヨマンテの夜」をずっとステージで歌っているわけ。カンツォーネっぽくね。それが非常にプラスになってるってことは事実ですね。テレビではそんなに歌いませんけど。
-何歳まで歌いたいとか目標は?
細川 それは、みんな一緒じゃないですか? どこまで行けるかって、楽しみですよね。大谷翔平も今31歳で、二刀流がどこまで行けるのかは未知の世界ですよね。細川たかしも、これからどこまで行くんだろうって。どこまでいって、声が少し落ちてきてやめるのか。それは挑戦ですよね。楽しみです。毎日毎日、1年1年が。
-衰えないためにしていることはありますか?
細川 全部の歌を半音上げてるんだよね。音が落ちるのは簡単なんだけど、上げておけばね。とりあえず5年たって落ちたとしても、原調に戻るわけですから。だから、半音上げで歌っている。声はどうしても衰えます。これは間違いない。その落ちる度合いをどのぐらいまで引っ張れるかだよね。
-この50年間でやめようとか、諦めかけたことはないですか?
細川 それはない。ずっと歌ってるんだもん。若い時のほうが衰えないし。
-毎日歌うことが楽しいから、ここまで来られた?
細川 そういうことですね。
-今までに心が折れそうになったこともない?
細川 ないですね。ただ、60歳ぐらいから決めていることは、歌う仕事の前には絶対飲まないってこと。地方へ行くと、大体2日間の公演なんです。だから、前の日は飲めない。歌います。飲めない。歌います。飲みますで、これを2日分飲む。そんな感じ。もう今はずっとそのスタンスですね。
-逆に変わったことはありますか?
細川 お客さんの聞き方かな。今、見に来てくれるお客さんは非常に歌が好き。デビュー当時は、出ればキャーキャーだった。氷川きよしじゃないけど、キャーキャー言われて、誰も歌を聞いてないようなパターンで、本人を見られればいいみたいな感じだった。でもここ20年くらいかな。カラオケがブームになってからは、シーンと聞きますね。これが困るのね(笑い) こっちが調子悪いとごまかせない。頑張れとかヤジっている時はごまかしがつくけど、シーンと聞かれるとごまかせない。だから、体調をきちっと整えて出向かわないと勝てない。そこだけですよ、変わってきたのは。お客さんで変わってきた。毎日酒飲んでるんじゃなくて飲まないという、こっちもやっぱりその“リスク”を背負わないとダメですよね。
-お酒を飲まないことを“リスク”って言いましたね(笑い)
細川 飲みたいのを飲まないのは大変ですよ(笑い)。でも、明日のためと思ってね。飲んで翌日声が出ないほうが、ストレスがたまる。そっちのほうが悔しい。明日歌わなきゃいけないって考えなかったのは若い時。そのころは自分も若かったし、お客さんも細川たかしを見に来ていたから。でも今は、お客さんがもうそういう感じじゃないんです。これはやっぱりカラオケの影響で、みんなが歌っているという証拠ですよね。(続く)
