
「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」代表の女性が、同会の顧問を務めていた馬奈木厳太郎弁護士(49)から性的関係を迫るなどのセクハラをされたとして、23年3月2日付けで同弁護士を相手に、1100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした件について、女性の代理人弁護士は27日までに和解が成立したと公表した。
佐藤倫子弁護士は、Xに文書を投稿し「俳優の知乃氏が東京地裁に提起した馬奈木厳太郎弁護士に対する損害賠償請求訴訟が、和解により終了しましたので、知乃代理人ら(太田啓子、嶋﨑量、佐藤倫子)よりご報告させていただきます」と報告。「舞台俳優として活動する知乃さんは、馬奈木厳太郎弁護士から、意に反する性的関係を強要されたとして2023年3月に東京地裁に提訴していました」と説明した上で「先頃、馬奈木弁護士が知乃さんに対し、<1>本件に関し、知乃さんの言動を誤解し、知乃さんの真意に反して性的関係を持ったことを認め、謝罪すること、<2>本件の解決金を支払い義務があることを内容とする和解が成立し、訴訟が終結しました」と、馬奈木弁護士が知乃氏の真意に反して性的関係を持ったことを認めたと明らかにした。
そして「当時、知乃さんは、『演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会(『なくす会』)』の代表として活動する中で、馬奈木弁護士に訴訟等を依頼する立場にあり、馬奈木弁護士は、演劇や映画界におけるハラスメント問題に取り組むことで知られていました」と知乃氏と馬奈木弁護士の当時の関係性を改めて説明。「人間関係に乗じたハラスメントに苦しむ方々は少なくありません。知乃さんは、自身の闘いがそのような方々を少しでも励まし、尊厳を守るための行動を応援することを願って声を上げました。声を上げることは意味があるという知乃さんのメッセージが少しでも多くの方に届くことを願います」とした。
また「本件は、弁護士含む法律家にも、他人事ではない教訓を残し、業界のありようを問う性質のものと考えています」とも指摘。「大変憂慮すべきことですが、大阪地検元検事正による部下の女性に対する準強制性交等被告事件や、大分県の女性弁護士が、雇用弁護士からの性的関係強要に苦しみ自死した事件(民事訴訟で遺族が勝訴)など、法律家を加害者とする深刻なハラスメント事案が複数報じられています」と法曹界でも性的なハラスメント事案が頻発しているとした。その上で「たとえ法律家としての能力を高く評価されているとしても、ハラスメント加害が黙認されてよいはずがありません。本当の意味で市民のために働く法律家であるために、性差別、性暴力に対する法律家全体の認識を更にアップデートし、性差別や性暴力を生む構造について深い知見を身につけることの必要性を強調したいと思います」と訴えた。
知乃氏は、提訴した際に発表した声明文の中で「第二東京弁護士会に馬奈木氏の除名や、生涯弁護士として活動しないということを求めたいと思います」とした。そして「演劇界には暴力とレイプが蔓延しています。そんな業界だからこそ馬奈木氏が私への加害から一年の間、ハラスメント講習を実施することができたのだと思います。文化庁や行政など公的な補助金が出ている多くの劇団が馬奈木氏のハラスメント講習を、お墨付きとして公演を打っています。ハラスメントが人権の問題だとわからず、ジェンダーアップデートを異様なまでに拒み、レイプしやすい土壌を確保する。演劇界は最低最悪の業界です」と、演劇業界の実情を憂慮していた。
一方、馬奈木弁護士は、セクハラを認め、謝罪する文書を23年3月1日のブログに公表した。
「昨年末、その方から私の所属弁護士会に対して、私の懲戒処分を求める懲戒請求書が提出されました。その懲戒請求書を読み、私は初めてその方が私との関係を全く望んでいなかったこと、精神的苦痛を感じ困惑を覚えながら、弁護士という私の肩書や私との年齢差、人間関係への配慮から強く抗議できず、私の言動に苦しんでいたことを知りました」
「私は、その方とは数年来の知り合いであり、事件の依頼を受ける前からプライベートでも頻繁に連絡を取り合い、食事なども共にする間柄でした。私は、そのような関係を続けるうちに、私自身が既婚でありながら、その方に対して好意を抱いてしまいました。そして、私は、その方も私に対して好意を寄せていると思い込み、身体に触れたり、身体の部位に言及したメッセージを送ったり、性的関係を誘うメッセージを送ったりしました」
「その方からはこれらを拒むメッセージや言葉を受け取っていたのですが、私はそのメッセージや言葉を真摯に受けとめず、自らの都合のよい方向に解釈し、性的関係を誘う言動を続け、依頼を受けていた裁判の対応にまで言及して、その方を追い込み苦しめてしまいました。私は、依頼者と代理人という関係にあるなかで、性的関係を迫る言動を続け、その方を苦しめる状況を作り出しているということを認識できていませんでした」
馬奈木弁護士は「ハラスメント講習の講師や、ハラスメント問題に関する取材を受けるといった資格がありませんので、今後はこれらの活動を一切行いません」とし、専門家による診断やカウンセリングも受けるとし、謝罪した。
馬奈木弁護士は、東京電力福島第1原発事故の避難住民らによる集団訴訟の原告側代理人を務めた。また、20年6月に映画の配給や映画館などの経営を行う「アップリンク」代表からハラスメントを受けたとして、元従業員が東京地裁に同氏と同社に対して損害賠償などを請求する訴訟を起こした際も、原告の代理人を務めていた。