
<情報最前線:エンタメ 舞台>
大竹しのぶ(67)が、昭和を代表する作家有吉佐和子の名作舞台「華岡青洲の妻」(東京・新橋演舞場、8月1~17日)に主演する。
世界で初めて全身麻酔による外科手術を成功させた華岡青洲をめぐる妻・加恵と母・於継の嫁・しゅうとめのし烈な争いを描き、1967年の初演以来、数多くの名優が挑んできた。先日行われた取材会で加恵役の大竹は「すばらしい作品に参加できてうれしい」と意気込んでいた。【林尚之】
■姑役希望だった
取材会では、加恵役の大竹、青洲役の田中哲司(59)、於継役の波乃久里子(79)が登壇したが、当初、大竹本人が演じるつもりの役は於継だったという。
「年齢的に考えて、お母さんの於継でやりたいと言っていたんです。でも、『(制作側は)加恵で』と言ってきて、私は於継で、いや加恵でという押し問答が2カ月くらい続きました。青洲が28歳で、加恵さんなんて、言えない年ですから。でも、於継役は波乃さんにお願いすることになったと聞いて、マロンちゃん(久里子)と一緒にお芝居ができるならと思い、お客さまにはちょっと目をつぶってもらって、私が加恵をやらせていただくことになりました」
■小学生ドラマで
「華岡青洲の妻」は舞台では加恵に初代水谷八重子、八千草薫、坂東玉三郎、十朱幸代、於継に杉村春子、山田五十鈴、淡島千景、青洲に17代目中村勘三郎、平幹二朗、12代目市川團十郎、中村吉右衛門という名優たちが演じてきた。映画やテレビドラマにもなっていて、大竹は舞台を見ていないものの、小学生の時にドラマを見ていたという。加恵に南田洋子、於継に初代八重子、青洲に岡田英次という配役だった。
「夜10時からの遅い時間だったんですが、母が見ているので、私も一緒にドキドキしながら見ていました。お母さん(於継)の怖さに夜眠れなくなりながら、毎週楽しく見ていました。和歌山弁はすごく美しく、音やニュアンスも柔らかいんですけど、表面的には柔らかい物言いなのに心の中ではまったく違うことを考えているのが、この作品の面白さでもあるのかなと。お客さまにとっても。そこが笑える怖さでもあるし、滑稽だと感じるのではないでしょうか」
4月には、舞台となった和歌山県紀の川市などを訪れ、青洲たちの墓や青洲ゆかりの当時をしのぶ建物などを見学した。
「地域の方は今も『青洲先生』って本当に尊敬していらっしゃる。お墓の大きさも、青洲のお墓はすごく大きいんですけど、加恵はその半分くらいで、そのまた半分くらいが於継さんなんです。この時代、女は外に出られなかったということなんだなと感じました」
■7月京都&福岡
初演以来、有吉作品で最も上演頻度が多い作品だが、その理由を演出の斎藤雅文氏は「この作品は嫁姑問題がクローズアップされるけれど、日本の家族制度が持つ宿命的な問題を深いところで描いている。青洲をはさんで嫁としゅうとめがいろいろな思いを抱くという普遍的なところをとらえつつ、エンターテインメントにもなっている。予備知識なしに見ても、笑えたり、ゾッとしたり、喜怒哀楽が書き込まれている点で普遍的な作品だと思います」と説明する。
大竹は有吉作品では「三婆」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」の新橋演舞場公演にも主演しているが、「華岡青洲の妻」は初めての出演となる。
「日本の戯曲の面白さを伝えていかなくてはならないし、お客さまに喜んでもらえる舞台を作り上げたい。こんなに面白い戯曲なら、何度でもやってみたいし、いつかは於継にも挑戦したいと思います」
演舞場公演の前に、京都・南座(7月10~23日)、福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール(7月26、27日)で上演される。
■1966年、小説で発表 杉村春子の代表作
「華岡青洲の妻」は1966年に小説として発表された。翌67年に芸術座で山田五十鈴の於継、司葉子の加恵、田村高廣の青洲で上演され、70年には文学座が杉村春子の於継、小川真由美の加恵、北村和夫の青洲で上演した。その後、杉村の於継で、加恵は初代水谷八重子、池内淳子、太地喜和子、坂東玉三郎、青洲は17代目中村勘三郎、12代目市川團十郎、中村吉右衛門が演じて長い間上演され、「女の一生」と並ぶ杉村の代表作ともなった。波乃は杉村の於継で、娘の小陸を演じており、今回初挑戦となる於継役については「杉村さんの素晴らしい於継を見ているので、胃潰瘍になるぐらいに怖い役です。死ぬ気で頑張ります」。
文学座では杉村の死後の98年に吉野佳子の於継で上演され、00年、01年に全国公演を行った。その後は上演が途絶えていたが、今年10月に24年ぶりに「華岡青洲の妻」を東京・新宿の紀伊国屋サザンシアター(10月26日~11月3日)で上演する。於継に小野洋子、加恵に吉野実紗、青洲に釆澤靖起が決まっており、演出は鵜山仁氏が初めて担当する。東京公演後に九州でも巡演の予定。
◆「華岡青洲の妻」 江戸時代後期の紀州で医業にいそしむ華岡家。当主の青洲は京都に修業に出ていて、留守を預かる母・於継と嫁・加恵は人もうらやむほど仲のいい嫁としゅうとめだった。しかし、青洲が帰ってくると様子が一変。於継は加恵を無視して青洲の世話を焼き、2人の間に目に見えない争いが起きる。そして、青洲が麻酔薬完成のための人体実験を行おうとした時に、2人はそろって名乗り出る。大竹、田中、波乃のほかに、田畑智子、長谷川稀世、曽我廼家文童らが出演する。