
俳優山口祥行(53)が主演する映画「田村悠人」(辻裕之監督)が6月6日に公開される。2013年(平25)から現在までシリーズ68作がリリースされているオリジナルビデオ「日本統一」のスピンオフ作品だ。山口演じる侠和会本部長の田村悠人が、敵にさらわれた盟友の侠和会若頭の氷室蓮司(本宮泰風=53)を救い出すため、単身で敵のアジトに乗り込む。コンプライアンス(法令順守)無視のド派手なアクションで敵を倒しまくる。こわもての山口の、心優しい素顔をのぞいてみた。【小谷野俊哉】
★殺したり殺されたり
仲間の氷室蓮司を救いに行く田村悠人。次から次へと現れる敵にやられ、反撃して50人くらい殺しまくる。地上波ではできない、映画ならではの痛快なエンタメバイオレンス。
「『日本統一』シリーズっていうのを、プロデューサー陣が『スター・ウォーズ』やら『アベンジャーズ』みたいな構成の作りをしている。ハリウッドと規模は違うけど、今回は僕の順番かっていうところですね。『日本統一』に限らず、いろいろな作品で殺したり、殺されたりしてるので、その違和感はないですね」
本宮とは10代の頃に出会った。本宮が俳優になる前だった。
「その時のことは、言えないですね…(笑い)。初めて会った泰風はデビルマンみたいでした。泰風のグループと僕の学校が仲良しだったんですよ。そういう感じで仲良くなった感じです」
同じ役者の道を歩いて来た。「日本統一」シリーズではダブル主演の共演者であり、プロデューサー、脚本家も務める。
「あの世に行っても、一緒にいたいような感じですね。俺は頭がいいから、この人とはけんかしないんですよ。ただ、たまに挑戦する時は、ありました。すぐ負けるから、やっぱりやらない方がよかったなって反省ですよ」
★本宮家でよくゴロゴロ
時間があるときは本宮の家に行く。
「よく行って、ゴロゴロしてますよ。そうすると、奥さんやらお母さんやらがコーヒー持ってきてくれたり、お菓子を出してくれたりする。僕は横になってるだけですよ。僕は泰風の子供とも、犬とも仲がいいですから、もう家族の一員みたいなもんです。でも最近は、俺が泰風の家に行くと(俳優の)勝矢が先にいる時があるんですよ。リビングで横になってるんですよ、あの100キロ超えてるのが。で、『あー、先輩が来るのを待ってました』って言うんですよ(笑い)」
★ギャバンになりたくて
2021年(令3)に82歳で亡くなった俳優千葉真一さんが主宰したジャパンアクションクラブ(JAC)の養成所に、84年(昭59)に13歳で入所。82~83年にテレビ朝日系で放送されたJAC出身の大葉健二(70)主演の特撮ヒーロードラマ「宇宙刑事ギャバン」に魅了された。
「宇宙刑事ギャバンになりたかった、中の人になりたかったんです。中学生の時に何も知らず、JACの養成所に入りました。大葉健二さんしか知らなかった。そうしたら千葉真一さんがいるし、真田広之さんも。ガキだったんで、養成所は楽しかったです」
★「ヘビ次」顔合わせで洗礼
86年8月にTBSで放送されたドラマ「十五少年漂流記~忘れられない夏休み」で主演デビュー。
「何も考えてないですよ。でも、その前に映画の『クレイジーボーイズ』(88年公開)っていうのを撮ってるんですよね。その撮影で、小沢仁志さん(62)と出会ってるんですよ。小沢さんも若くて、まだ20代。今よりも、ちょっとカッコイいいというか。まだスッとしていて“仕上がる前”だったんですよ。いい声をしてました。今はねぇ、もう何言ってるかわかんないですよ(笑い)。顔だって、空手家の拳みたいな顔してますよね」
小沢は「日本統一」シリーズで3代目侠和会の会長。40年近くたっても、そばにいる。小沢との初顔合わせでは洗礼を受けた。
「初日にアクションシーンだったんですよ。小沢さんとタイマンのシーンで、バチバチやられましたよ。初めて会って、すごく高圧的に来るの。俺はJAC出身だから殺陣師が偉いと思ってるのに、小沢さんは全然言うこと聞かないんですよ。バチバチにやられました」
小沢は既に映画「ビー・バップ・ハイスクール」のヘビ次役で知られていた。
「その現場に行く前に地元で『今日、ヘビ次に会うから』って言ってたんですよ。撮影終わって地元に帰って『あいつ、怖えよ』って言ってましたよ。この頃は昔と比べると、おじさんになって円くなりました。見た目は怖いけど、実際は優しいって役になってきましたから」
90年(平2)にニューヨークに語学留学。
「当時の事務所の女社長に『あんた、二枚目なのか三枚目なのか分からないから英語くらい勉強しなさいよ』って言われてね。時代の景気が良かった。でも、若いからすぐにお金使っちゃうわけですよ。それで、お金がなくなって帰って来た。だから10カ月程度。英語は生活できる程度はしゃべれるようになったけど、帰ってきたら忘れちゃうんですよ」
★食べるためアルバイト
「日本統一」シリーズが始まったのが13年。それまでは食べるために、いろいろアルバイトをした。
「今だって食べていけません、使っちゃうから(笑い)。六本木ヒルズの基礎工事や、ディズニーシーの駐車場の工事もやりました。玉掛け、アーク溶接……資格を持ってないと現場に行けないからね」
それでも役者を辞めることはなかった。
「役者って職業はまどろっこしいですね。本当に40歳になっても50歳になっても、やってるやつは青臭いこと言いますからね」
「日本統一」シリーズが始まって13年がたった。
「俺たちの成長記録みたいな、年を取っていく様を見せている。これから60歳とかになっていくんで、もうアクションやらなくていいかなと思ってます。そういう意味も込めて、やらなくていいやっていうくらいやろうぜって。もう後は、棺おけが見えてるんでね」
殺しても死なない田村悠人を、殺しても死なない山口祥行が演じている。
▼本宮泰風(53)
10代の頃に初めて会った時は、陽気なお兄ちゃんでした。(笑い)。今でも撮影がない時は僕の家に来て、うちの妻は僕じゃなくて『山ちゃん、何食べたい』って聞きます。本当に家族というか、子供みたいですけど(笑い)。僕にとっては、なくてはならない存在。もう、40年近くですからね。プロデューサーとしても、俳優としてもやりやすい。いつも申し訳ない気持ちになるぐらい楽というか、気を使わないでいい。本当にこの先も大事にしたいし、一緒に続けていけたらいいなと思っています。
◆山口祥行(やまぐち・よしゆき)
1971年(昭46)8月6日、東京都生まれ。84年ジャパンアクションクラブ養成所入所。86年TBS「十五少年漂流記~忘れられない夏休み」で主演デビュー。90年米ニューヨークへ語学留学。03~05年、映画「新 影の軍団」シリーズ。06~07年テレビ朝日系「仮面ライダーカブト」。13年、本宮泰風とダブル主演の「日本統一」シリーズ開始。24年映画「ぴっぱらん!!」主演。25年NHK大河「べらぼう」。178センチ。血液型AB。