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女優小林綾子(52)が芸能界で本格デビューして45年を迎えた。人とのつながりを大切にする姿勢を持ち続け、教えを請うた先輩たちへの感謝を忘れない。舞台「花嫁~娘からの花束~」(6月1~24日、東京・三越劇場ほか)の演出を手がける石井ふく子さんとも40年以上一緒に仕事をしてきた。先輩たちとの思い出や、プライベートで大切にしているつながりも語った。【小林千穂】
★10歳で「おしん」
習い事のつもりで児童劇団に入り、1980年(昭55)に「仮面ライダー」でテレビに初出演した。今年、芸能生活45年という節目を迎えた。
「45年と聞くと、自分でもびっくりしますね。子供のころは役者になるとは思ってなかったですし、小学校の先生になりたいと思っていたんです。今の子役さんたちが、こんな役者になりたい、歌手になりたいという思いを持っているのとはちょっと違うパターンですね。でも、こうやって長い間続けられたのは、本当に、たずさわって支えてくださった方々のおかげだと思います」
NHK連続テレビ小説「おしん」(83年)に出会ったのは、10歳の時だった。役柄と小林本人が同一視されるほど注目され、作品がブームになった。大人の役者へと順調に歩みを進めたが、大学に進学し、本当に自分がやりたいことを考えたこともあった。しかし、もともと表現することが好きだった。子供向け番組「ロボコン」に登場するロビンちゃんがチュチュを着ているのを見てバレエを始め、発表会も大好きだった。
「ずっと子供のころから続けてきたことや、皆さんとのつながりも大事にしたかったんです。やっぱり、演じることや表現することが、すごく好きだと自分でも分かっていたので、こちらの道に進むのがいいのかなと、大学卒業後に役者の道を本格的にスタートするという形にさせてもらったんです」
★間が大事なのよ
役者への覚悟を決めた作品は、在学中に出演した初の舞台「流水橋」(92年)だった。芸術座で、森光子さん、山岡久乃さんらと共演した。
「芝居っていうものはこういうことかと、初めて分かったんです。それまではテレビなどで、もらった台本をいかにナチュラルに演じるかというだけだったんです。でも舞台は、ステージに立ったらすべてが自分の責任で、目の前にお客さまがいるプレッシャーや、反応でお芝居どんどん変わっていきます。とにかく間(ま)が大事なのよって山岡さんに教わりました。頭の中では分かっていても、自分でやってみようと思うと全然できないのが分かるんです。私の芝居って、今まで何やってきたのかなと思いました」
山岡さんにさまざまなことを教わり、その後も舞台出演で多くの先輩にいろんなアドバイスをもらった。
「山岡さんには、客席の一番端っこの端の方まで全部声が通るように話しなさいと言われました。声を張るんじゃなくて、細くても通る声でしゃべれるようにならないとだめよ、ってすごく教えてくださいました。役者を職業にするのであれば、舞台の仕事は続けていかなければいけないと感じました。十朱幸代さん、松村達雄さんも、芝居を上達させていくには舞台をやるしかない、うまくなりたいんだったら舞台をやりなさいってことはすごくおっしゃってました」
やわらかでありながら、1音1音が最後まで聞き取れるせりふ回しは、舞台で学んだものかと納得した。
「今もまだ、すべてができているとは思わないですが、お芝居には終わりがないですし、やればやるだけ学ぶこともたくさんあると思うので、限りなく先輩方のお芝居のような雰囲気に近づけるようにはしたいなと思っています」
★思い入れが違う
舞台「花嫁」との最初の出会いは、12年にドラマ版に出演した時だ。向田邦子さん作で、主人公は夫を亡くして七回忌を済ませた還暦過ぎの女性。縁談が持ち込まれ、家族が一喜一憂する物語。小林はドラマ版で長女を演じ、その後の舞台では次女を演じ、今回再び次女を演じる。
「向田さんの作品は心のひだが描かれていて、特に家族の話になるととても共感できるところがいっぱいあるんです。私の役どころは、しっかり者だけど、なかなか素直になれないところがある人。久本(雅美)さんが演じるお母さんとどうやって親子関係を築いていくのか、石井先生の演出でどんなふうに家族が出来上がっていくのか楽しみですね」
同じ役を演じる難しさもある。
「知っている部分があるので安心なところもあるんですけど、年を重ねてきて、どういう風に演じれば、より向田さんの伝えたい思いが表現できるのかと、もう1回考えなおして演じたいと思っています」
石井さんとの縁は40年以上になる。「おしん」後の民放ドラマ初出演が、石井さんが手がけたTBS系東芝日曜劇場「二人づれの道」だった。
「そこからずっと気にかけていただいて、大事にしてもらって、ドラマや舞台やいろんなことでお世話になって本当に感謝ですね。今、先生は98歳。大尊敬してますし、みんなの憧れ、希望だと思います。98歳で現役でお仕事ができるなんて、本当に希望だと思っています。何としても先生の演出してくださる『花嫁』をいい形で成功させたいですし、ちょっと今までとは思い入れ違うかもしれないです」
★人との間に「心」
石井さんの尊敬する部分を聞くと、ふんわりとした笑顔になった。
「先生って本当にみんなにとても優しくて、心配りをされて気遣いをしてくださいます。私が子供のころから今も全然変わってないんですよね。いつも人の気持ちを大事にしてくださって、演出の時は気持ちを大事にしなさい、ということをおっしゃいます。形ではなく、心から、気持ちでそう思って演じなさいと言われます。『“人間”っていう言葉があるでしょう。人との間に何があると思う? そこには心があるのよ』って」
心や気持ちと同じように、日本らしい文化も大事にしている。和物で風情のある作品が似合う。
「和のものは日本の文化や歴史を伝えるためにもすごく大事なので、ずっと続けたい思いは強いです」
最近出演したミュージカル「SUNNY」や、純烈公演では、歌い踊る姿が新鮮だった。
「子供のころはミュージカルが大好きで憧れでした。バレエをしていたので、歌ったり踊ったりするのも大好き。機会があればどんな形でも参加したいです」
芝居に対する向上心、やりたいことは尽きない。
◆小林綾子(こばやし・あやこ)1972年(昭47)8月11日、東京都生まれ。東映児童演劇研修所に入所し、80年にTBS系「仮面ライダー」でテレビデビュー。83年「おしん」出演。TBS系「渡る世間は鬼ばかり」には98年の第4シリーズから出演。98~09年、藤田まことさん主演のフジテレビ系「剣客商売」では主人公の妻を演じる。映画は「ホタル」「いのちの停車場」「破戒」など。ドラマ、映画、舞台出演作は多数。趣味、特技は登山(山の日アンバサダー)、茶道(表千家講師)、ソーシャルダンス、日舞。
■社交ダンス&登山が好き
体を動かすのが好きだ。「20代後半からは定期的に社交ダンスは続けています。ホテルでデモンストレーションとかしますよ。ラテンダンスを踊っています」と話した。また、子供のころから登山好きで、東京近郊、アルプスとさまざまな山に登る。最近ではSNSに高尾山へ行った様子を投稿した。「高校時代の恩師が、毎年春と秋に植物観察会をやってくださるんです。裏高尾に入っていくとスミレがたくさんあって、1つ1つ説明してくださるんです。毎回楽しみにしているんですよ」と話してくれた。プライベートでのつながりはほかにも。「高校時代の器械体操部の仲間がすごく仲が良く、お花見をしたり、一緒に山に行ったりします」。つながりを大切にできる小林の人間的な魅力が垣間見えた。
■石井さん「私の財産の1人」
83年のドラマをきっかけに、「渡る世間は鬼ばかり」や舞台などで長年、小林を見てきた石井さんは、小林の魅力を「変わらないのよ」と話す。「たいていは、若いころから変わっていくじゃない。でも綾子ちゃんは心が変わっていかないの。素直なの。芝居も素直に役に取り込んでいく。それが私はとてもすてきだと思います。だから私はずっと仕事してる。私の財産の1人です」とした。「花嫁」での、母を思う次女役について「家族を思っているところをいろいろと演じてもらえるかな」と期待を寄せた。
◆「花嫁~娘からの花束~」 作家向田邦子さんが石井ふく子さんの依頼により執筆し、77年にドラマ放送。キャストを変え、ドラマ、舞台と繰り返し放送、上演されてきた。今回は久本雅美が主人公を演じ、羽場裕一、小林綾子、丹羽貞仁、上脇結衣、瀬戸摩純、石原舞子らが出演。東京・三越劇場のほか、富山、石川、福島、岩手、宮城で公演。