
皆既日食の日、麻薬密売組織に追われた美貌のダンサーが逃げ込んだ老朽アパートは魔界とつながっていた。
ホラーの枠組みを超えて、異色作を連発するスペインのジャウマ・バラゲロ監督の新作「VENUS ヴィーナス」(5月9日公開)は、スピーディーな展開で先を読ませない。
マドリードのナイトクラブで働くダンサーのルシアは、オーナーのボスが隠し持っていた大量のドラッグを盗み出す。逃げ込んだのは姉のロシオが幼い娘アルバと暮らすヴィーナスと呼ばれるアパートだった。
老朽化した建物では怪異現象が頻発し、めいっ子のアルバはそれを引き起こす「何者」かと交信していた。ルシアは姉がスクラップしていたアパートにまつわる新聞記事を目にしてぞっとさせられる。
完全武装したボスの配下が迫る中、日食のその日は、建物に潜む人知を超えたパワーがよみがえる特別な日でもあった-。
ルシアにふんするのが、Netflixのドラマシリーズ「エリート」で注目されたエステル・エクスポシトで、ボロボロになっても血まみれになっても、その美しさが際立っている。けっこうな頻度で語られる「美人だな」のセリフもすんなり入ってくる。
ルシアの夢や幻想を交えながら、怪異現象の全体像を終盤までうまい具合に隠し続けるバラゲロ監督の手腕に改めてうなる。周囲のキャラクターも職人技的に作り込まれている。アパートの住人たちが漂わせる微妙な違和感や、ボスの配下たちの嫌みな個性も効いている。
過去のハリウッド作品で見たことがあるようなシーンも少なくないが、その組み合わせ方が巧みだ。終盤の畳みかけには何度も意表を突かれ、予想外の幕切れに思わず拍手したくなった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)