ドナルド・トランプ氏は昨年10月14日のSNSにこう書き込んでいる。
「『アプレンティス』は安っぽく屈辱的。政治的に不快な悪意に満ちた中傷だ。米国史上もっとも偉大な政治運動を傷つけるため、大統領選直前に公開された」
映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」(17日公開)のことだ。20代の頃の初々しさやその後の変貌ぶりにスポットを当て、トランプ氏にとっては見せたくなかった「素顔」を浮き彫りにしている。
幕開けはニューヨークの高級クラブ。政財界の実力者の社交の場だ。つてをたどって潜り込んだ若きトランプ氏は、他のテーブルに座る著名人の解説をしながら、連れの女性に名門クラブに入れる自分の「大物ぶり」をアピールして、うんざりさせている。
そんな姿を面白く思ったのか、政財界を裏で操る大物弁護士ロイ・コーンが彼に声をかける。実は父親が経営する不動産会社が政府に訴えられて破産寸前に追い込まれていたトランプ氏は、渡りに船で彼の力を借りることにする。
タイトルの「アプレンティス」は見習いの意で、自己顕示欲だけは一人前だったトランプ氏がコーン弁護士に師事して、不動産王に成り上がっていく過程を追っている。
アプレンティスは、トランプ氏が司会をして「You,re Fired!!(お前はクビだ)」の決めゼリフで知られたリアリティー番組のタイトルでもある。政治ジャーナリストのガブリエル・シャーマン氏が脚本を書き、「聖地には蜘蛛が巣を張る」で知られるアリ・アッバシ監督がメガホンを取ったこの作品にはそんな皮肉が込められている。
コーン氏に伝授された「勝つための3つのルール」を題目のように唱え、操り人形のように動くトランプ氏。大統領選で繰り返された決めゼリフのほとんどが、実はこの頃に刷り込まれた「教え」そのものだったことも明らかになる。
コーン氏がエイズ(後天性免疫不全症候群)に罹り、しだいに影響力を失っていくと、トランプ氏の冷酷さが頭をもたげてくる。かかりつけ医に「そばにいるだけでエイズはうつるのか?」とさりげなく聞き、接触を避けるようになる。このかかりつけ医は整形外科が本業で、薄くなった頭髪への対策や腹部の脂肪吸引がもっぱらの通院理由だ。外見ばかりを気にするトランプ氏は当時のイヴァナ夫人にも豊胸手術を受けさせる。
「嫌な部分」をじわじわと描写され、確かにトランプ氏は不快だろう。演じたのは最近では「ダム・マネー ウォール街を狙え!」が印象的だったセバスチャン・スタン。頭髪からエラの感じまでそっくりに寄せている。コーン役は「ジェントルメン」のジェレミー・ストロング。こちらも影の権力者のすごみをにじませている。日本での公開が大統領就任の時期に重なったのもなんとも皮肉だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)