2025年度NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(日曜午後8時)が今日5日から始まる。主演を務めるのは、若くして多くの話題作に出演してきた横浜流星(28)。NHK作品初出演にして初主演という抜てきに恐縮しつつ、これまで通り目の前の仕事に全力で取り組む。今年は日本でラジオ放送が始まって100年。NHKも記念作として臨む大仕事への思いを聞いた。【松尾幸之介】
★演じるより生きる
1700年代の江戸の街で数多くの浮世絵師、作家を世に送り出した出版人、蔦屋重三郎(蔦重)の半生を描く。主人公役として1年間駆け抜ける。
「1年間、役に向き合えることはぜいたくで幸せなことです。この幸せをかみしめながらやっていきたいと思っています。自分が実際に生きていない時代のお話なので、正直に言うと想像の中で生きるしかない。(脚本の)森下(佳子)先生が作った世界の中での蔦重として一生懸命演じていきます」
江戸の時代を生きる。役に没頭することは、10代の頃からやみつきになっている。高校時代に戦隊ドラマを経験して演技の楽しさを感じ、この世界で生きていくことを決めた。
「知らないことを知れることが喜びで、それぞれの作品をやるにあたって、自分とは違うひとつの人生を歩めることで自分の中の価値観や考え方も全て変わるので。その人物として生きている時は思ってもない感情になりますし、それは昔から幸せなことだと思っていますし、変わりません。自分の中では演じるというより、生きるということを大切にしています」
★凄く良い時代かな
少し体感した“江戸”の風情はどうだったのか。
「良い時代だと思います。不自由ではあるけど、今みたいに情報が錯綜(さくそう)していないし、全員それぞれに自由はないけど、思いを持っていて交流を大切にしている。情報が多い中で自分を持てずに流されてしまう人って意外と多いと思いますけど、そこは彼らにはなくて、強い意志を持っている。それでいて戦もないですし、だからこそ蔦重として言うのであれば、すごく良い時代かなと思います。現代とそう離れていないので、ドラマを見てくださっている方にも近く感じられる世界になっていると思います」
苦労していることもある。時代独特の所作や言葉遣い。そして意外にも“朝”だという。
「ひとつひとつの所作は本当に難しい。今回の作品では、こてこてな方言ではないですけど、言葉のニュアンスだったり、全てが難しいというか。蔦重としてしっかり言うことを大事にしています。監督からは『基本、明るく』と言われているんですけど、自分、朝が弱くて(笑い)。自分の中でこれぐらいかなとやっているんですけど、そこが一番の課題です。何とか朝が強くなって、明るくできればと思っているんですけど。徐々に上がっていくのかな。そこは言われているので意識しています」
★渡辺謙から助言
大河ドラマゆえ、共演者も豪華だ。田沼意次役の渡辺謙(65)とは別作品で共演しており、食事の席で多くのアドバイスを受けたという。
「ちょうど今の自分と同い年くらいの頃に大河で主演をされていたそうで『全力で真っすぐやれば大丈夫』と言われました。その言葉を信じて生きていますし、現場でもお芝居やたたずまいを見て学んでいます。個人の役作りでは同じ題材を扱っている作品を見たり、蔦重が実際に生まれ育った場所に行って空気を感じたり、資料を見たり。以前、阿部寛さんが映画でこの役をやられていたので、いろいろお話を聞いたり。『流星らしく極めてくれ』と一言、言われました。その言葉にいろいろと込められていると思うので、そうしたことを取り入れつつ森下先生の世界で生きることが大事ですし、その上で自分にしか生きられない蔦重を出せたらと思っています」
派手な合戦もなければ、歴史的に広く知られた人物でもない。それでもNHKが放送100周年記念作として送り出すメモリアル大河だ。演出を担ったNHK大原拓氏も「この大河は初めてのことばかり。この時代を扱うことも初めて、吉原が舞台となることも初めて。キャストやスタッフも常に挑戦という形で撮影に挑んでおります」と明かしており、その雰囲気は横浜も強く感じている。
「挑戦だと感じる部分は…全てですね。自分が今まで触れてこなかった世界観やキャラクター、僕はNHK作品に出演するのも初めてです。だからこそ壁が高いので、それをしっかり乗り越えられるように全力でやっています」
★明日死んでもいい
空手に没頭し、演技の道を自ら切り開いた10代の青年は、今や映画やドラマに引っ張りだこの売れっ子俳優へと成長した。今作の前後でも多くの作品が公開。多忙な日々を送るが、弱音は吐かない。
「僕は先のことはあまり考えていなくて、今やるべきこと、目の前にあることを大事にしています。何なら明日死んでもいいと思っているので。毎日毎分毎秒で選択をして、その結果が今につながっている。明日のことはわからないし、今後5年、10年先はわからないし、今この瞬間を全力で生きています。今も忙しいですけど、充実していますよ。芝居が好きなので」
100年先まで語り継がれる、魂の生きた“べらぼう”な作品にする。
▼「べらぼう」脚本の森下佳子氏
蔦重について書かれている本や絵を見ると、パワフルで頭が良くて、そうして成り上がっていきつつも周囲にとても愛されていた人物でした。私は個人的にそうした人に憧れていて、そこに横浜さんがぴったりハマったということに感動してしまい、好きになりすぎてしまうのではないかという今、危険な状態にいます(笑い)。初めてこの話をいただいた時に、スタッフの中で誰よりも頑張ろうと思っていたんですよ。でも、みんながもっと頑張っているという姿を見て、私ももっと頑張ろうと思っていますので、1年間応援よろしくお願いいたします。
◆横浜流星(よこはま・りゅうせい)
1996年(平8)9月16日生まれ、横浜市出身。モデルをへて、13年のドラマ「リアル鬼ごっこ THE ORIGIN」で俳優デビュー。14年「烈車戦隊トッキュウジャー」など出演。19年、TBS系ドラマ「初めて恋をした日に読む話」でブレーク。20年エランドール賞新人賞、23年第46回日本アカデミー賞優秀助演男優賞など受賞。最近も主演映画「正体」などが公開。空手は中学時代に世界大会優勝経験も。
◆「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」出演者
主演の横浜流星をはじめ、渡辺謙、里見浩太朗、石坂浩二、安田顕、かたせ梨乃、片岡愛之助、安達祐実、小芝風花、生田斗真、市原隼人ら豪華俳優陣が集結。語りは綾瀬はるかが務める。