<第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)>
初主演映画「九十歳。何がめでたい」で毒舌小説家をチャーミングに演じた草笛光子(91)が、日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞37回の歴史で、史上最高齢の主演女優賞に輝いた。
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「どの撮影現場に行っても最高齢ですからね。嫌になっちゃうわ。年齢を重ねるにつれて人の手を借りることも多くなったし。でも、そんな皆さまのおかげで『最高齢受賞』。本当にありがたいと思っています」
取材でも、ユーモラスな語り、持ち前の明るさがその場をポッと温かくする。草笛は作品中でも、モデルとなった作家・佐藤愛子さん(101)の、口調はきついが、憎めない人柄を浮き彫りにした。誰にもまねのできない独特の空気感だった。
「私は佐藤先生のように背筋の伸びたきちんとした人間ではないですけど、原作に感じたあの面白いテンポを再現できるように心がけました。結局、周りからは『いい意味で、いつもの草笛さんですね』と言われてしまいましたけど」
2カ月に及んだ撮影を1日も休まずに完走した。
「目の前のことに追われ、気付いたら終わってた。メークを自分でしたので、コスプレシーンはちょっと大変でしたけど」
女優生活74年。映画初主演とは信じられない。その存在感はあまりに大きい。
「映画では市川崑監督と出会い、横溝正史シリーズ(76年~)で、役作りの面白さを実感しました。舞台では『ラ・マンチャの男』(69年)かしら。ブロードウェーで見て衝撃を受け、(デビュー19年目になって)女優人生がもう1度、動き出した気がします」と振り返った。
デビュー間もない頃には理不尽な思いもした。
「母がマネジャーをしていたのですが、2人で泣いたこともありました。『私たちはきれいに生きましょう。人を押しのけるようなことはやめましょう』という母の言葉は、今でも私の指針になっています」
潔い生き方が、そのまま女優草笛光子のイメージに重なっている。【相原斎】
■主演女優賞・選考経過 「河合優実は空気を作る方」(品田英雄氏)という声や「彼女じゃないと違う作品になった」(寺脇研氏)と江口のりこを推す声と三つどもえ。決選投票で決まった草笛には「今でも主演をはれることが素晴らしい」(河内利江子氏)。
◆草笛光子(くさぶえ・みつこ)1933年(昭8)生まれ、神奈川県出身。50年松竹歌劇団に入団。58年、テレビ草創期の音楽バラエティー「光子の窓」の司会に。60年に作曲家の芥川也寸志氏と結婚も2年で離婚。テレビドラマでは石井ふく子プロデュース、橋田寿賀子脚本作品に多く出演。ミュージカル界のパイオニアであり、「私はシャーリー・ヴァレンタイン」などで芸術選奨を3度受賞。
◆九十歳。何がめでたい 断筆宣言をし、鬱々(うつうつ)と日々を過ごす、90歳の作家・佐藤愛子(草笛)。ある日、中年のさえない編集者・吉川真也(唐沢寿明)が執筆依頼を持ち込む。エッセーは大反響を呼び、愛子の人生は90歳にして大きく変わり始める。
◆主演女優賞の高齢受賞 これまでは1995年(平7)の第8回、「午後の遺言状」で受賞した杉村春子さんの89歳が最高齢。91歳の草笛は2歳上回った。91年の第4回では、85歳の村瀬幸子さんが「八月の狂詩曲」で受賞。22年の第35回では、81歳の倍賞千恵子が「PLAN 75」で受賞した。
昨年「愛にイナズマ」で主演女優賞の松岡茉優(29) おめでとうございます。個人的な話ですが、元々原作を楽しく読んでおり、草笛さんが演じられるとのニュースを踊るように喜んだファンの1人です。映画を拝見して、胸を打たれる一方、演じる身として目のさめる場面が幾度もありました。前進し、ご一緒できるよう励みます。