starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

渡辺えり、不屈70歳へ「懲りずに表現していく」演劇を志し上京52年、続けてこられた原動力は


演出家で女優の渡辺えりが70歳を迎える2025年1月に、「鯨よ!私の手に乗れ」と「りぼん」の2本立てで古稀記念連続公演を行う。彼女は女性演出家の先駆者として、演劇を通じて平和や女性の地位向上を訴求してきたが、未だに世界中で戦争が続き、日本の男女格差は大きいと指摘する。今回の連続公演では、シリアスなテーマながら笑いを交え、力強く生きる女性たちを描く。制作には約40人の仲間が集まり、渡辺の挑戦を応援する。彼女は自身の長年の怒りを原動力に、70歳という節目を迎えても演劇を続ける意欲を見せている。また、舞台芸術とともに、私生活でも「王子さま」のようなパートナーを求める乙女心も明かしている。公演は東京の本多劇場を皮切りに、故郷の山形でも行われる。

古稀記念連続公演への意気込みを語った渡辺えり(撮影・小沢裕)

<情報最前線:エンタメ 舞台>

演出家、女優の渡辺えり(69)が、70歳の節目を迎える来年1月に古稀記念連続公演を行う。人気演目「鯨よ!私の手に乗れ」「りぼん」の2本立ての挑戦となる。演劇を志して上京して以来52年、女性演出家のフロンティアとして闘ってきた。無双の道のりを、ますますパワフルに歩き続けている。【梅田恵子】

   ◇   ◇   ◇   

★シリアスの中に笑いを

「鯨よ!私の手に乗れ」「りぼん」の連続公演を発表した際、「躁(そう)状態の時に無謀な企画を立ててしまった!」とコメントを寄せて話題になった。

「70を前に、あせったんです。演劇を通して、平和や女性の地位向上を訴えてきたのに、ガザ地区やウクライナなど世界中で戦争が起きて、男女格差も日本は世界118位。やってもやっても良くならない。でも、あきらめたくない。80になったらできないと思って、70歳の節目に向け『今しかない』と。あせって、躁状態の時に決めたの」。

渡辺の挑戦に、木野花、室井滋、ラサール石井ら演劇仲間や黒島結菜ら若手まで、約40人の顔ぶれが集まった。気心の知れた制作陣も心強い存在だ。「演劇は人が集まらないと絶対にできない。簡単でもうかる、という合理的なことばかり求められる時代に、これだけの人が賛同してくれてありがたい」と話す。

「鯨よ!私の手に乗れ」は、母親の介護という自身の経験をベースにした作品。介護施設の女性入居者たちがかつて同じ劇団にいたことを知った主人公が、上演されなかった芝居の台本を書き始めていく物語だ。「りぼん」は、幸せな結婚を願う“水色のリボン”の意味をテーマにした反戦のストーリー。どちらも、時代や社会に翻弄(ほんろう)されながらも力強く生きる女性たちの姿を描いている。

テーマはシリアスだが、笑えるシーンも多い。「笑わすシーンがないと嫌なんです。人の笑顔を見るために演劇をやっているので」。陰陽の緩急に加え、現実と幻想、過去と現在が行き来しながら人物像が立ち上がっていく世界観は、渡辺えりワールドの真骨頂でもある。

「『女性脳』の芝居なんですよね。女性って、洗濯機回しながら掃除とか、同時にいろいろやれてマルチなの。喫茶店で散々悪口言って、その人が来たら『待ってたよ~、こっちこっちー』って(笑い)。悪口で発散するだけで、決して殺さない。黙ってバキューン、みたいな頭の固い人には、ウチの芝居はまったく分からないと思う」。

★「怒り」を表現し続ける

振り返れば、演劇を志して18歳で上京して52年になる。きっかけは、高校1年の時に地元・山形で見た舞台「ガラスの動物園」だった。子どものころは人見知りな性格。「繊細すぎて生きるのがつらいローラが初恋の人に勇気をもらうのを見て、演劇の力に感動して。私でもやっていける世界があると思った」。

舞台芸術学院を経て、23歳で劇団3○○(当時は2○○)を旗揚げ。作、演出、出演の3役をこなし、野田秀樹の「夢の遊眠社」、鴻上尚史の「第三舞台」などとともに80年代の小劇場ブームで人気を集めた。「女で作、演出、出演の3役すべてやっているのは私1人だったし、いまだに私1人。旗揚げ当時はうちの劇団員がよそから『よく女の言うこと聞いていられるな』と言われたり」。

続けてこられた原動力を聞くと「怒り」と即答した。「戦争も差別もなくならない。コロナの弊害も大きくて、自転車操業ができない助成金制度になったり、大手がバーッと劇場を取っちゃったりして、演劇の格差社会化もすごい。怒りを、懲りずに表現していくしかないですから」。

70歳に向け、今は原点に返った気持ちという。「52年間よくやったという自分と、まだ何もやっていないという自分。18歳のスタートラインに、70でまた戻っちゃった。周りには厄介だと思います(笑い)」。

■もうひとつの横顔 演劇続けながら抱き続ける乙女心

女性演出家の先駆けとして演劇界で旗を振り続けてきたが、「王子さまに迎えに来てほしい。18歳みたいな乙女心はずっとある」と、もうひとつの横顔も明かす。

95年に劇団3○○の仲間だった俳優土屋良太と結婚し、19年に離婚している。「王子さまみたいな人と日常でいちゃいちゃしたいけど、それがないから残念ですね。伴侶がほしい。王子さまがほしい!」。生涯演劇という思いの一方で「ほっとする時間もほしい。すごい大金持ちと結婚して、その人のお金で外国旅行するみたいな夢も出てきました」と笑う。

「だいたいこの世界、女性が劇作家や演出家を目指そうとするとみんな独身なんですよ。そういう時代が長かった。男性の演出家はどんな人でも結婚して子どもがいるのに、女はどっちかを選ばなくちゃいけない」。独身の女性演出家の名前を次々と挙げ、土井たか子、市川房枝らの時代までさかのぼってヒートアップ。「そういうことに男の人が気付いていないんですよ」。

女性初の弁護士、裁判官になったヒロインの闘いを描き先ごろ大きな反響を集めたNHK連続テレビ小説「虎に翼」にも大いに共感したという。夫を戦争で亡くしたヒロインの後のパートナーとして、大きな支えになった航一さん(岡田将生)にうっとり。「岡田将生みたいな人、いないよねー。ああいう人と結婚したい!」

◆渡辺えり(わたなべ・えり)1955年(昭30)1月5日、山形県生まれ。舞台芸術学院、青俳演出部を経て78年に劇団2○○(にじゅうまる=後に3○○)旗揚げ。97年解散後「オフィス3○○」主宰。「おしん」「あまちゃん」などドラマ出演多数。映画「Shall we ダンス?」で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞。「ゲゲゲのげ 逢魔が時に揺れるブランコ」で岸田国士戯曲賞、「瞼の女 まだ見ぬ海からの手紙」で紀伊國屋演劇賞。10月31日に東京・吉祥寺スターパインズカフェでスペシャルライブを行う。

◆渡辺えり古稀記念連続公演「鯨よ!私の手に乗れ」「りぼん」 作、演出渡辺えり。過去の上演で大きな反響を集めた2作を連続公演。激動の時代に翻弄されながらも力強く生きた女性たちの姿を、近藤達郎音楽監督を中心とした生演奏の音楽演劇として描く。出演は渡辺のほか、木野花、三田和代、黒島結菜、室井滋、宇梶剛士、ラサール石井ら約40人。25年1月8日から同19日まで、東京・本多劇場で。同22日には渡辺の故郷である山形公演(山形市民会館)も行う。

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.