映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』舞台あいさつが16日、ユナイテッド・シネマとしまえんで開かれ
モビルスーツデザインを務めた出渕裕氏、アニメ評論家・藤津亮太氏が登壇した。
1979年に放送されいまだ輝きを放ち続けているロボットアニメ『機動戦士ガンダム』。その放送から40年が経ち、現在、『機動戦士ガンダム40周年プロジェクト』が展開中で、プロジェクト第3弾となる今回は最新の劇場上映システム『4DX』などで楽しめるという趣向。上映された映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』は1988年に上映された作品で、『機動戦士ガンダム』の14年後の世界を描き“逆シャア”との略称でも親しまれている。主人公アムロ・レイと、宿敵シャア・アズナブルが、宇宙を舞台に壮大な戦いを繰り広げ、その決着をドラマティックに描き切って感動を呼んだ。
4DX版では、ド迫力の艦隊戦や、本作のロボットにあたる『モビルスーツ』同士の戦いなどが座席の揺れや閃光とともに表現。アムロやシャアとともに宇宙空間で戦っている臨場感が伝わってくる仕上がり。ちなみにラストシーン周辺は大気圏に突入するかのような“熱さ”も感じられ、一緒にアクシズと呼ばれる小惑星基地を支えているような気分にもなれる。
観客たちとともに作品を体感した出渕氏。出渕氏は本作でモビルスーツデザインを担当しているだけに、「4DXで観る日が来ようとは……という気持ちで体感していました。見方が当時と違いましたね」と、感じ入るものがあったのだとか。
そこでまず、作品の感想を問うと、前日に本作とは別の脚本家の方と話をしていたという出渕氏は、「逆シャアって不思議な作品で、最初観たときはよく分からないなと思うんですけど、もう1回観てみると『あれっ!?』って新しい発見があって、さらにもう1回観ると面白くなってくるんです」と、観れば観るほど味が出る作品だったという。
その味が出るという証拠としてアニメーターの庵野秀明氏をたとえに出し「庵野くんと話していたんですけど、『なんて作品に手を貸してしまったんだ!』と最初は言っていたんです。その後に、あれは見返すといいんだよ!騙されたと思ってと庵野くんに言ったら、次に会った時に『逆シャア最高!』ってなってました。変わり身がすごいなって(笑)」と、エピソードも披露して会場を沸かせた。
その一方で、出渕氏は初見のときのことも話し「試写室で初めて観たときは最悪でしたよ(笑)。精神障害をきたしている少女が主人公で、どう考えてもお前が悪いだろうというものだし……。シャアも『機動戦士Ζガンダム』のときと違うし、といってファーストのときのシャアとも違う成熟したものだし、それでもって昔のこと引きずってるやつだし。チェーン・アギというキャラクターもアムロにくっついて上から目線で言いまくってるし、はっきり言って嫌なヤツしてしか出てこないんです(笑)」と、ズバリ。藤津氏も「大学生のときに観たんですけど、当時ものすごいつまらなくてショックを受けたんです」と、初見はそうだったと語り、出渕氏は「そうですよね」と、共感していた。
演出面ではバッサリとセリフをカットして独特のテンポを生み出したということや、奇跡が起こることへ理由付けしつつ奇跡そのものは言葉では説明しないことが印象的になっていると2人で確認しつつ、出渕氏は「『伝説巨神イデオン』で“イデの力”を連発している反省ではないのか」と、考察を披露することもあった。
そして、4DX版を観た感想として出渕氏は「風が痛い!(笑)」とまずは一言。「宇宙空間だから熱風は伝わらないんじゃと思うんです」と理屈面のことを話しつつ、「コックピットでガタガタする芝居が多いので、それは体感できるのでは」という。
藤津氏は「ほかの作品の4DXも観ていますが、ここまでコックピットが描かれている作品もないので、向いているなと思いましたね。作品の構成も調べたことがあるのですが8分から11分のエピソードが12回建てで、5回戦闘シーンが入るんです。作り手が考えた演出が感じられるところがあって意外に面白いと」と、他作品との比較や作品構成を挙げながら語りつつ、「クエス・パラヤという女の子のキャラクターがツバを吐くシーンで水がかかったら面白いのに」と、ユーモアも交えてコメントした。
トークでは監督した富野由悠季監督のことにも話が及ぶことに。出渕氏は当時、絵コンテを観て生身でキャラクターが宇宙空間に飛び出すシーンに違和感を感じ富野監督に「真空に飛び出したら死にますよね。温度とか放射線とかもまずいんじゃないですかね」と、具申したそうだが、最初は富野監督は「NASAでも口とか押さえておけば大丈夫といわれてるんだよ!お前何も分かってないだろ!」と、にべもなく返されたのだとか。しかし、具申した日の夜になり富野監督が帰り際に出渕氏のもとにやってきて「『さっきのあれ、そんなに気になる?』って聞いてきて、気になりますと言ったら『意地悪(笑)』ってスライドしながら帰るんです(笑)。本当にこの人かわいい人だなって、キュンとしちゃったんです。富野さんってワーってなってるところばかり、切る取って伝えられるけど意外とあの人可愛いいんですよ」と、お茶目な一面を披露して観客たちを和ませていた。
ほかにも本作のタイトルについて当時だからこそできたハチャメチャなエピソードや、アムロとシャアはその後どうなったなどを自由にトーク。そのなかで色味の話をすることもあり、デジタルリマスターで色見本通りに作品の色味を修復すると、当時の作り手が機材が出す色まで計算していた色とは違ったものになるといい「昔見た印象ではもっと青かったんです。(モビルスーツの)ジェガンの色ももうちょっとブルー系だった感じなんですけど、修復するとグリーンな感じになっていて」と、説明しつつ、富野監督が修復されている色味も監修していることが伝えられると「作り手が監修する体制ができているならとは思っていますね」と、話していた。