音楽グループ『サカナクション』山口一郎、舞台制作で知られるネルケプランニングの松田誠代表取締役社長らが21日、東京・永田町の衆議院第二議員会館で開かれたライブ・エンタテインメント議員連盟による『チケット高額転売とネットダフ屋行為の抑制に向けて』の議論に参加した。
ライブ産業などでのダフ屋行為が横行する昨今。転売市場は巨大化の一途を辿っており、その市場規模は600億円ともいわれている。とくにネット上のダフ屋行為は法的規制がない脱法状態となっており、若年層がライブに触れられる機会を奪う悪影響も。
被害はコンサート以外への高額転売も拡大しており、広島カープ、大相撲、宝塚、ブルートレインなどなどにも波及し、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのチケットも標的となることが予想される。
社会的関心も高い事案とあって会場となった会議室には入り切れないほどの議員とメディア関係者が集まった。
サカナクションのライブは転売出品500件以上、累計取引数約1万6000件という状況ということを踏まえつつ山口は、「常々感じているのはいちばん大事なのは支えてくださっているファンのみなさまなんです。そのファンのみなさまが一番被害を受けています。僕達がチケット値段を設定するとき、演出などから細かい価格を決めているんです。その価格の何倍、何十倍でチケットが転売されて、音楽・文化にかかわっていない人たちがそこで利益を得ている。そしてその高くなったチケットを手に入れるために一生懸命働いたお金を使って文化を体験していることになってしまっている。それはミュージシャンとして許せないですし、健全な音楽ファンが健全に音楽に触れるということを取り戻したいと強く思っています。僕はいちミュージシャンなのでできることはこうやって言葉を発することだけですが、みなさまのお力添えでなんとかファンのみなさまを救って頂けたらと思っています」と、現状への心情をぶちまける。
日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事も務める松田氏は、「2.5次元ミュージカルは20代前半の若い方々に人気があってこれが転売のかなり大きな餌食になっているんです。1万円弱のチケットが普通で7、8万円、千秋楽などは40万円から50万円になっています。僕が今まで目にしたもので99万円というものもありました。とんでもないことだと。お芝居は1000人くらいの会場なので、1000枚のチケットを争うことになり、本来正規に買いたいのに買えなくて、転売業者から泣く泣く買うことになってしまう状況があります」と訴える。
さらに、松田氏は『美少女戦士セーラームーン』の舞台は海外からの客層が1割を占めており、インバウンドにも影響が出ることを危惧しつつ、「最近の転売って座席が分かるようになっていて、お客様同士でタレコミがあるんです。『何月何日の公演の何番の座席は転売のお客様なので取り締まってください』という形で、エンターテインメントを楽しむ劇場空間の中で、『あの人は転売なんだ』というお客様同士での疑心が生まれているという問題にもなっています」と、憤った。
コンサートプロモーターズ協会の中西健夫会長からは「転売サイトは一昨年くらいからさもオフィシャルかのように出てきて、そこでチケットが高額でやりとりされています。僕らが一番最初に心を痛めたのが、ある有名バンドが震災復興をするためにライブをしたんですが、その3分の1が転売でした。これはすべての気持ちを踏みにじるというどころではなく、悲しいのを通り越してこういうことが起こっていていいのか」と、訴えた。
そんな現状を打破すべく、昨年8月には朝日新聞や読売新聞に「私たちは音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します」という意見広告を打ち出した。その反響のなかには「それはいいんだけど、風邪を引いて行けなくなった、仕事で行けなくなった、そういうとき無駄にして抱えていなければいけないの?」「それが空席になっちゃうんですか?」「公式のリセールマーケットはないんですか?」という声が挙がったという。それを受けて、今年6月1日から『公式チケットトレードリセール』(略称『チケトレ』)を開始すると発表。
この『チケトレ』については日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本2.5次元ミュージカル協会、コンサートプロモーターズ協会に加盟する法人が取り扱うイベントのチケットが中心で、すでに発券された紙チケット(今後、発券前チケット、電子チケットにも順次範囲を拡大予定)を対象に展開。こちらは公的身分証の画像登録を伴う厳密な個人認証、出品チケットの画像アップロードの義務付け、チケット代金は一旦『チケトレ』事務局が預かり、出品者への支払いはイベントを鑑賞した後でチケット偽造や、不送付トラブルの抑止していくとしている。
その後、意見交換が行われ参加した石破茂衆議院議員は、「いまある既存の法律では対応できないことがたくさんあり、新しい法律を作っていかなければいけない。これから法律的にきちんとつめていかないといけないなと思っています」といい、その法整備のスケジュールへは「なるべく早い方がいいとは思っています。本国会中は難しいかもしれませんが、関係官庁と詰めてなるべく早い実現をと思っています」と、意見を。
同じく参加した山口も、「モラルとして訴えるしかない現状を法規制して、なんとかして形を作っていきたい。そうすることで音楽という文化を守っていけますし、いちばん大事なのはチケットを手にするファンの方たちを守っていける。そういう形をいち早く作っていける素晴らしい第一歩になったのでは」と、手応えを語った。