コロナ禍で絵本をはじめとした児童書の売れ行きが好調だそうです。その影響は、書店のみならず意外なところにも。今年7月には日本マクドナルド株式会社(以下 マクドナルド)が発売する人気シリーズ「ほんのハッピーセット」が2周年を迎え、累計配布数が2,000 万冊を超えたニュースが話題になりました。
マクドナルドの「ほんのハッピーセット」は、オリジナルストーリーの「絵本」と「ミニ図鑑」(小学館図鑑NEOシリーズ)を通年で展開しており、ハッピーセットを注文すると「おもちゃ」、もしくは「ほんのハッピーセット」の絵本かミニ図鑑のいずれかを選ぶことができます。
10月30日からは通算16シリーズ目となる新作絵本が登場し、先日、その発売を記念した、お茶の水女子大学名誉教授 内田伸子氏による「絵本の読み聞かせが親子にもたらす効果についてのセミナー」が開催されました。そこで今回は、内田教授の講演をもとに、子どもの将来に、より良い影響をおよぼす読み聞かせ方法や、子どものタイプ別で絵本を選ぶ方法などを探ります。
絵本の読み聞かせで「非認知スキル」が育まれる
絵本はいつ頃から読み聞かせたら良いのでしょうか。まずは子どもの成長とともに頭の中で起こる変化と脳の関係を簡単にみていきます。
子どもの脳は生後10ヶ月~9歳ごろまでに3回の成長期があります。うち幼児期の生後10ヶ月程度~5歳までにおこる「第一次認知革命」期間には、海馬と扁桃体がネットワークをつくり一緒に働きはじめることによって、「見立て遊び」や「延滞模倣」などをおこなう想像力や、記憶し思い出す力、また、見えない物も存在するという意識「モノの同一性認識」などが始まります。
過去の体験を呼び起こしイメージとして思い描く、精神世界が出現するとともに個性も見られ始める頃で、社会的参照が起こる大切な時期です。
この「第一次認知革命」期間に絵本の読み聞かせをすると、子どもの想像力やコミュニケーション力など「非認知スキル」が育ち、「他者とつきあう能力」、「感情を管理する能力」、「目的を達成する能力」など、IQとは違う、いわゆる “人間力”の部分を育む効果が生まれます。
「物語型」と「図鑑型」とは?
社会的参照とは、例えば、初めて見た犬に驚き「あれは何?」と親を見るなどの問い合わせをする行動のことで、人を介して身の回りの世界を理解できるようになった証ともいえます。
内田教授の観察実験によると、社会的参照をした子ども(8割が女児で2割が男児)が発した言葉のうち、60%が「こんにちは」「バイバイ」といった挨拶言葉や「おいチイね」「きれいね」といった感情表現で、残り40%は名詞やモノの名前だそうです。教授は、この社会的参照をした、人間関係に敏感な傾向があると思われる子ども群を「物語型」と呼んでいます。
一方、対象物に興味津々な態度を示したものの社会的参照をしなかった子ども群は、その発話語彙の95%が名詞であり、残りの5%が「おこった」「いっちゃった」「(救急車を見ながら)ピーポ、ピーポ いってる」といった動詞で、モノの動きや変化、あるいは因果的な成り立ちに関心を持つことから「図鑑型」の子どもと呼んでいます。「物語型」とは反対に、その8割が男児で2割が女児だそうです。
子どもが興味をもつ対象を共有する
内田教授が上記の観察実験を行った幼児らを3歳まで追跡調査した結果、「物語型」の子どもは、おままごとなどの遊びが好きで、絵本ならば生活・物語絵本を好むそう。対して「図鑑型」の子どもは電車の玩具を走らせる、積み木を高く積み上げる、またはドミノ倒しのような変化のある遊びなどを好む傾向があり、科学絵本や図鑑類を好むそうです。
内田教授は「これは、そのお子さんが持っている対人・対物システム、いわゆる気質を反映しており、「ほんのハッピーセット」は、この「絵本型」と「図鑑型」の気質に対応した素晴らしいサービス。物語を読み聞かせたり、一緒に図鑑を眺めて実物を見に行ったりと、親子のコミュニケーションを育んでほしい」とアドバイスします。
ちなみに、女児だから「絵本」、男児だから「図鑑」というのは思い込みで、統計的には2割の割合で「絵本」好きの男児や「図鑑」好きの男子がいます。もちろん、どちらにも興味を示す子どももいるので、きちんと選ばせてあげるのが大切です。
しつけスタイルによる語彙能力への影響
では、「非認知スキル」を育てるために、より良い読み聞かせの仕方やコミュニケーション方法はあるのでしょうか。ママやパパの働きかけ方の違いの何が子どもの能力に影響するのか? 内田先生は親のしつけに以下のような違いがあると説明します。
共有型の親
3つのH(ほめる・はげます・ひろげる)を意識し、子どもに合わせて柔軟に会話をする。先回りして指示をせず、考える余地を与えることで、主体的に探索し自律的に行動できる子どもが育つ。
絵本(図鑑)の読み聞かせにおいては、「子供のペースで読み進め、親も一緒に楽しむ」:保育士やプロのように上手に読めなくても、共感し楽しそうに読むことを心掛けている。「読み聞かせの最中に質問をされても応えない」:答えを自ら考えるように「どうしてだと思う?」と優しく誘導し、例え、その答えが奇想天外でも否定せず肯定する。「子どもの集中を妨げない」:途中で子どもに質問したりせず、また、例え聞いていなさそうでも最後まで読み切る。など。
強制型の親
指示的で情緒的サポートが低く、トップダウン介入する。考える余地を与えないしつけを受けて育った子どもは、主体的に探索せず、親の指示を待ち、顔色を伺うなど緊張しながら他律的行動をするようになる。
絵本(図鑑)の読み聞かせにおいては、「すぐに感想を求める」:読後に「どんなお話しだった?」「ウサギさんは何匹いた?」など、強制的な質問を投げかける。「途中で内容説明をする」:集中力をさまたげ、子どもの自由な発想や考える力を奪う。「親の好みのみで本を選ぶ」:親の好みや価値観を押し付け、興味を示さないと怒る(がっかりする)。など。
子どもにとっての「遊び」とは「自発的な活動」であり、脳(ブローカー野・海馬・扁桃体)が活き活きと働いている状態を示しています。扁桃体が“楽しい!面白い!”と感じると、ワーキングメモリーに情報伝達物質が送られ海馬を活性化し、情報を記憶貯蔵庫にどんどん蓄えるようになります。
反対に扁桃体が緊張や不快を感じると、海馬で失敗例が蘇り他のことが考えられなくなり、叱られながらやった勉強は身に付かない「気分一致効果」にも繋がります。語彙得点が高い子どもは、脳の成長期に「共有型」しつけを受けており、低い子どもは「強制型」のしつけを受けている傾向があるそうで、それはやがて小学校以降の学力などにも影響してきます。
経済格差は学力格差に反映するのか?
では、昨今問題となっている経済格差は、子どもの語彙能力にどれだけ影響するのでしょうか。内田教授は、経済格差が直接的に学力低下をもたらすのではなく、「強制型」なしつけや親子の会話のない家庭環境などが語彙能力の低下、ひいては学力の低下を招くのであり、その原因のひとつとして貧困も関係するのだと説明します。
内田教授が、日韓中越蒙の各国都市部に住み、異なる経済状況の家庭に育つ3、4、5歳児3,000名を対象に個人面接を行い比較追跡研究した「幼児のリテラシー習得に及ぼす文化・社会・経済的要因の影響についての検討」では、読み書き、模写能力においては5歳になると家庭収入による差はなくなるものの、語彙能力の差が顕在化することが分かっており、これは習い事が影響していると考えられます。
学習塾に通う子どもは、習い事をしない子どもに比べ「読み書き」に有意性が見られますが、語彙得点に関しては、音楽や運動などの習い事をしている子どもと受験塾や英語塾などに通う子どもとの間に差がありませんでした。
つまり、この差は人とのコミュニケーションの範囲と頻度によるものであり、例え、大金持ちであっても「強制型」のしつけを受け、親子や周囲の人との豊かな会話やコミュニケーションの機会が少なければ「非認知スキル」は育まれにくい傾向にあるといえます。反対に経済的な余裕がなく、習い事などをさせてなくても、家庭でしっかりとしたフォローができていれば、語彙能力をはじめ「非認知スキル」の差は十分に縮まると考えます。
絵本から社会のルールやモラルを知る
絵本(図鑑)の読み聞かせは子どもの知的好奇心を育むだけでなく、親と子どもが絵や物語、写真の世界を通して、目の前にいない相手やモノの立場や心情、役割などを想像することや、モラルやルールなどの社会の仕組みを楽しみながら一緒に身につけられる良い機会です。
内田教授は、「幼児期は絵本の読み聞かせや図鑑を一緒に楽しむ習慣を、小中学校では読書や家族と会話し団欒(だんらん)する習慣が大切であり、脳を活性化させるためにも朝食をしっかりと摂って、心身ともに豊かな生活を過ごして欲しい」と結びました。
さて、「ほんのハッピーセット」では、2020年10月30日から通算16シリーズ目となる、絵本『かぼちゃスープのおふろ』と、ミニ図鑑『野菜と果物/秋・冬編』が登場。絵本にはパズルが、ミニ図鑑には本文中に貼り付けられるシールがそれぞれ「おまけ」として付きます。
また、マクドナルドの専用ホームページでは、新作の試し読みや2020年12月31日までの期間限定で、今までに発売された絵本10冊が無料公開されているので、興味のある方はお見逃しなく。
詳細は https://www.mcdonalds.co.jp/family/happyset/book/ まで。
- Baby-mo(ベビモ)
Fujisan.co.jpより