その町ならではの定番や楽しみ方を東京の町から拾い集めて行きましょう。今回は【昭和の東京を代表する町・上野】です。
上野の町のお約束といえば、「動物園」「美術館」「博物館」「アメ横」…といろいろありますが、誰でも気軽に昭和を楽しめるスポットは…やはり「寄席」でしょう。
落語はちょっと敷居が高い?テレビやネットで十分!という方もいらっしゃるかもしれませんが、一度も行かないなんてもったいない。寄席には木戸銭に見合うだけの楽しさが詰まっています。
向かったのは上野で160年以上続く鈴本演芸場。昼夜二部制で落語家さんを中心に漫才、手品、曲芸など多彩な芸人さんが、大人から子供まで笑わせてくれます。この日の夜の部でトリをつとめるのは“最も客が呼べる落語家のひとり”春風亭一之輔さん。
<かぶりつきで見られる前列>か<トイレに行きやすいロビー側の席>か迷った末、前から4列目の中央に陣取ります。
鈴本演芸場の昭和的な魅力の一つが“飲食OK”なところ。小さなテーブルにお弁当、お菓子、ビールを並べて落語が楽しめる貴重な寄席なんです。ほとんどのお客さんが売店や自販機で購入しますが、常連の中にはコンビニで買い込んでくる強者もいます。
ちなみに私のお約束は売店で売っている「カステラ」です。(食べる時、ボリボリ音がしないので安心)演目は若手の落語家さんから始まりますが、そこは高座に上がる事を許されたプロ。次々に笑をとっていきます。
そんな演目中のお約束といえば、「携帯電話の着信音」です。誰もが<マナー違反>とわかっているのに、私の経験上では50%以上の確率で誰かの携帯が鳴ります。これが映画や歌舞伎ならムッとして終わりですが、寄席の場合はこれも“お楽しみ”のひとつ。
芸人さんがどんなアドリブで対処するのか?みなさん百戦錬磨なので必ず笑いに昇華させてしまいます。この日も一人の携帯が鳴りましたが、見事な切り返しで微妙な空気が笑いに変わりました。
寄席のお約束といえばもうひとつ。
コンプライアンス、放送コードなどの規制を受けない「自由なネタ」で笑えること。この日、危ない時事ネタで大爆笑をとっていたのは漫才コンビ「ロケット団」でした。
そして、寄席ならではの醍醐味がトリの高座です。まず、演芸場側から「トリの演目中は席を立たないでください」とのアナウンスがあるぐらい別格の扱いです。出番が近づくと、それまで寝ていたお客さんが次々に起き出します。
そして、出囃子が流れる中、噺家さんが颯爽と現れると、「待ってました!」と声がかかり、場の空気が一瞬で変わります。この凄みは、それまでバトンをつないでくれた芸人さんたち抜きでは絶対に伝わりません。座布団の上に座った春風亭一之輔さんは、枕であっという間に客をつかむとスーッと流れるように演目本編へ。
あらすじは「お金が無いクマさんは、隣人から飼い猫が食べ残した鯛をもらい、兄貴分のおごりで酒宴を始めようとする。だが、兄貴分が買い物に行っている間に目の前の酒を全部飲んでしまう」というもの。
意地汚いクマさんの酒に対する執着心を天才的な描写で笑わせていきます。
酒を目の前にして☛「兄貴が来るまで飲むのを待とう」
酒を飲み始めると☛「兄貴の分だけ残しておけばいいや」
酒を飲み干すと☛「兄貴に言い訳しよう」
途中、こぼした酒が畳に染み込んでいく中、1滴でも口に入れようとするくだりは鬼気迫る熱演。爆笑に次ぐ爆笑の中、幕が下りて閉演のお時間。
終演後の追い出し太鼓に送られ寄席を出ると、夜の8時40分を少し過ぎたところ。開演からたっぷり3時間、笑わせてくれた寄席に大満足したものの、次はお腹を満足させなくてはなりません。さーて、何を食べてどこで飲むか…
続きは「平成から令和へ!昭和の町・上野(駅前通り商店街編)」へ。
ひとまずお後がよろしいようで。
【鈴本演芸場】
TEL:03-3834-5906
住所:東京都台東区上野2-7-12
公演時間:【昼の部】12時開場 12時30分開演 16時30分終演予定
【夜の部】17時開場 17時30分開演 20時40分終演予定
料金:一般:2,800円
学生:2,500円(中学生~24才・学生証提示)
小人:1,500円(小学生以上)
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Fujisan.co.jpより