本や書店ってやっぱりいいなぁ。観終わった後に「本は愛の象徴」そんな言葉を思い浮かべた映画が3月9日から公開となる『マイ・ブックショップ』です。
舞台となる1959年のイギリス、小さな海辺の町には書店が一軒もありません。保守的なこの町に第一号となる書店をオープンすべく奮闘する主人公・フローレンス(エモリー・モーティマー)を勇気づけるのは、戦争で亡くなった夫への愛と、眠る前に本を読んでくれた幸福な記憶です。
不敵に微笑む町の女性有力者が夢をはばむ
本が「愛の象徴」なら「欲望の象徴」ともいえるのが芸術センターです。フローレンスの夢をはばむ町の有力者・ガマート婦人(パトリシア・クラークソン)は、フローレンスが書店を開こうと手に入れた古くてボロボロの建物、通称「オールドハウス」を町の芸術センターにしようとあらゆる策略をめぐらせます。
ガマート婦人や一部の町の人々は、自分勝手な欲望や野望のため、ゾッとするほど自然にフローレンスを裏切ります。ともすれば嫌われ役で終わりそうなガマート婦人の傲慢さがかすむほど、フローレンスの常に温厚(終盤で声を荒げるとあるシーンではそのギャップに驚くほど)で決して屈することない強さに惹かれました。
もし自分がフローレンスだったら・・・はたして町を牛耳る女王様にキッパリと「ノー」が言えるでしょうか。フローレンスに好意を抱き応援しようと思えるから、本作は終始穏やかな気持ちで観ることができます。
町一番の情報通、引きこもり読書家を名優ビル・ナイが演じる
フローレンスの強い味方となってくれる人物が二人登場します。一人は、人間不信で40年来の引きこもり、読書好きの老紳士・ブランディッシュ。演じるビル・ナイは映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのデイヴィ・ジョーンズ役としてご存知の方も多いのではないでしょうか。
ブランディッシュは大の読書家で、大の人間嫌い。著者のプロフィール写真がついたブックカバーを次々暖炉の火にくべる様子にはギョッとします。そんな彼が実は町一番の情報通であるというところが本作の大きなポイントの1つです。
「オールドハウス書店」の初めての顧客でもあり、フローレンスには協力的なブランディッシュが彼女への真摯な好意を示すとあるシーンでは「ほぅ・・・」と息をつかせる紳士的な色気があり必見です。
登場人物達の心情や関係を表現する名著作の数々に心ときめく
二人目の味方が、「オールドハウス書店」をお手伝いしてくれる少女・クリスティーン(オナー・ニーフシー)です。算数や理科が好きで本は嫌いだと顔をしかめるクリスティーンですが、書店で働くのは楽しいといつもは仏頂面な口元をほころばせます。
本、そして書店という場所がフローレンスとクリスティーン、年も生まれも異なる二人に強い絆を与えてくれるようです。フローレンスがクリスティーンに、これだけはいつか読んでね、と諭すのが『ジャマイカの烈風』という本です。この作品は二人のつながりを表しています。他にも登場する本は登場人物たちの心情や関係を表現しているそう。本作を見てから、出てくる著作を読んでみるという楽しみ方もできそうです。
書店を開く夢を叶えたフローレンスですが、順風満帆にはいきません。
その姿からは、夢は叶うという希望がある一方で、叶ってからの難しさがあるという現実を突きつけられる気がします。しかし、夫との夢がフローレンスのゆるぎない夢になったように、思いは人から人へと伝わり、誰かが叶える新たな夢を作っていくのでしょう。
観終わった後は少しの物悲しさ、それ以上に心にぽっと明かりを灯すような温かなメッセージを受け取りました。
映画『マイ・ブックショップ』は3月9日より公開です。
© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.
《作品データ》
映画『マイ・ブックショップ』
監督&脚本:イザベル・コイシェ 出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン
原作:「ブックショップ」ペネロピ・フィッツジェラルド著(ハーパーコリンズ・ジャパン刊)
2017|イギリス=スペイン=ドイツ|英語|カラー|112分|シネスコ|5.1ch|DCP 原題:The Bookshop
- SCREEN(スクリーン) 最新号:4月号 (2019年02月21日発売)
Fujisan.co.jpより