みなさまご存知のとおり、日本の絵本は海外で高い評価を得ております。
最近では、人気作家の作品は出版されるとだいたい、中国語、韓国語、ベトナム語などに翻訳されアジア圏を中心に海外でも出版されております。また、絵が大人好みの人気作家の展覧会は続々、海外で開催されております。
世界最大といわれる「ボローニャ国際絵本原画展」でも、数多くの日本人作家が受賞、毎回大きな注目を集めております。
去年は、「魔女の宅急便」の原作者としても有名な絵本作家の角野栄子さまが、児童文学のノーベル賞と言われる「国際アンデルセン賞」も受賞されております。日本は今や、世界中から注目を集める絵本先進国なのでございます。
そんななか先日、こんなニュースがございました。
「世界的な絵本イラストレーションのコンクールで日本人が初受賞!」
なにかと申しますと、ナミアイランドの主催で、2年に1度開かれている、世界的な絵本イラストレーションのコンクール「ナミコンクール」で、田中清代さまの新刊絵本「くろいの」が、日本人で初めてのパープルアイランド賞を受賞したのでございます。こちらの「ナミコンクール」、参加国数ではボローニャ国際絵本原画展を上回っております。応募数ではボローニャに次ぐ規模の大きな賞でございます。
「くろいの」(作:田中 清代 出版社:偕成社)
日本人初受賞に輝いた田中清代さまは、1995年にボローニャ国際絵本原画展ユニセフ賞を受賞、翌年には同展入選を果たしておられます。
田中さまは、銅版画家でもあり、数ある絵本の中で特に有名な「トマトさん」は、銅版画でございます。実は、今回の「くろいの」は、その「トマトさん」以来の銅版画でございます。
「トマトさん」は、銅版画で刷ったものに絵具で色をつけていたのですが、どうしても、銅版画で白黒の絵本が作りたかったのだとか。ところが!64ページというページ数、絵の枚数もさることながら、グラデションをだすために細かい線を銅板に削っていくのですが、どのくらいの灰色になったか、刷って確認しながらの作業になるのだとか。とてつもない作業でございます。
ご本人も途中、くじけそうになったそうでございます。が、モノクロ絵本にたいするこだわり、思入れがまさり、4年もの歳月を費やして、この作品が誕生したのでございます。
物語も素敵でございます。その不思議な世界観が大人好みでございます。
女の子がいつも通る道で正体不明の黒い生き物「くろいの」に遭遇。その後、塀の上、バス停など、いろんなところで見かけるように。そこで、女の子は思い切って、その「くろいの」に声をかけます。すると、くろいのは、女の子を自分の家に招待してくれるのですが、そこには…。というお話でございます。
不思議な世界観とモノクロの銅版画が見事にマッチしております。ほんわかとして、大人が癒されること間違いナッシングなアートな大人絵本でございます。
バレンタインデーなど、大人へのプレゼントにも最適でございます。「この前、日本人で初めて受賞したんだって」「銅版画が素敵なの。4年もかけて描いたんだって」と、蘊蓄を披露しながら是非プレゼントしてくださいませ。
(文:絵本トレンドライター N田N昌)
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Fujisan.co.jpより