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村上春樹 司馬遼太郎作品の翻訳家が制作の裏側を語る!国際文芸フェスティバルTOKYO


国内外の文芸作品の魅力をさまざまな視点と切り口で紹介するイベント、第1回「国際文芸フェスティバルTOKYO」が開催中です。

期間中は「ことばの魅力と彩りを街に」をスローガンに、書店、作家、編集者、デザイナーなど出版の舞台裏を支える人と読者との交流を通して、国内外の出版・文学に関するさまざまな情報を発信しています。

なかには、明治の文豪ゆかりの地とグルメを堪能する、明治150年記念「明治の文豪の魅力再発見バスツアー&講談トーク」や、「白樺派」を題材に、土地と文学に想いをはせる「土地とアートと白樺派-グルメの楽園・山梨の美味」などの体験型イベントもあり、文学に触れ楽しむためのさまざまなアプローチが試みられました。

編集部は、22日に開催された国際イベント「国境・言語を超えるブンガクとは?」に参加。村上春樹の海外進出のきっかけを作った伝説の編集者エルマー・ルーク氏、『羊をめぐる冒険』など一連の初期作品の英訳を手がけた翻訳者、アルフレッド・バーンバウム氏、そして、俵万智の『サラダ記念日』をはじめ、司馬遼太郎の『坂の上の雲』など幅広い翻訳を手掛ける、ジュリエット・ウインターズ・カーペンター氏ら3人が登壇し、それぞれの視点で日本文学の魅力と翻訳について語りました。

写真 左から)アルフレッド・バーンバウム氏 ジュリエット・ウインターズ・カーペンター氏 エルマー・ルーク氏。(通訳者をはさみ)進行役を務めた芥川賞作家でフランス文学者の小野正嗣氏。

良い翻訳本とは? 日本語と英語ロジックの違い

小野さんは自身の短編小説を外国語に翻訳してもらった際、編集部から「いらない部分をカットして」と改編されたことを例に挙げ、良い翻訳とは何かと質問しました。

エルマーさんは「読者がきちんと反応できるストーリー」「著者の意図したことが伝わること」の2点を挙げ「当り前だと思われるけれどこの作業が大変。なぜならば言語が変わることでロジックが変わってしまうから」と、いかに内容の本質を掴み、読者が違和感なく読めるように訳するかが大切と答えました。

ジュリエットさんは「大きな改変は良くあることだ」と前置きしたうえで「忠実に訳する=原文のまま」ではない。英語でも日本語と同じように文が流れなければならないため、段落、節などのparagraphが変わることもある。また、形容詞表現の多い日本文をそのまま訳すと、抑揚がなく繰り返しが多い文章になってしまう。それらをカットすることで文章が開放されると、日本文と英文の違いを説明。

ジュリエットさんのエピソードを受けエルマーさんは、日本文で多く使われる“変(strange)”について「何がストレンジなのか?…異なるのか、普通でないのか、馬鹿げているのか、受け入れがたいのか?」ただ、言葉を繰り返すのではなく“strange”が示す、より深い意味を見つけて訳するのが自分達の仕事だと話しました。

アルフレッドさんは、「元の文章が透けてみえる翻訳は良くない翻訳。なかには、それを狙っている訳者もいるが、アメリカ人は日本語のニオイのするものは読まない。けれど、日本人は日本語としてオカシナ表現だと思っても(こういった原文に違いない)と解釈する傾向がある」と国民性の違いを不思議がりました。

翻訳家と作家とのやり取りは必要?

作家と翻訳家は、どのような関係なのでしょうか? 密に連絡を取り合い、ひとつの翻訳本を創りあげるパートナーのような存在なのでしょうか。

エルマーさんは、翻訳者はできる限り作家に会うべきではなく、理解できず翻訳が不確実だと思ったとしても、翻訳者の感覚を信じて表現するべきだと言います。

アルフレッドさんは、翻訳に理解のある作家か否かで違うと思うと述べ「自身も翻訳を手掛ける村上春樹さんは自由にさせてくれたが、多くの作家は理解ができないと思う。もちろん、大幅に替える時は相談するが、翻訳書はオリジナルではないのだから、その翻訳書なりに良く、楽しく、感慨深いものしてゆくのが使命だ」と話します。

一方、水村美苗さんの『私小説 from left to right』を翻訳中であるジュリエットさんは、本来は作家に会わないし意見を聞くこともないが、英語に精通した水村さんとは共同作業のように翻訳をすすめており、「名前のない登場人物に英訳では名前(あだな)をつけた。こんな大胆なことは一緒に作業していないとできない」と、私小説だからという点もあるが、水村さんとの関係は特別だと明かしました。

超ロングセラー 司馬遼太郎の世界を翻訳する難しさ

アルフレッドさんは、時代小説でない限り日本の風景があまり前面に出てこないような表現を心がけており「その方がアメリカの読者に歓迎される」と話します。

『龍馬がゆく』を翻訳中のジュリエットさんは「司馬さんの作品は、歴史小説ということになっているが、外国人が考えるような歴史小説と違う。こんなに作家が顔を出す歴史小説はない」と話し、司馬作品のなかに度々登場する「余談だが」という有名な言葉に、ロジックが難しくなるので、あまり「余談」しないでほしい…と冗談まじりにクレームを入れ、会場の笑いを誘いました。

また、方言訳は不可能に近く、龍馬が「ほにほに」(本当に)と土佐弁で話したところ相手に通じなかったというシーンでは、“HONI-HONI”と書いたうえで、相手に方言を理解されなかったと書き添え、芸者のお元が龍馬に長崎言葉で「旨口して」と問うシーンでは「Kiss Me」として、その後に「umakuti」の意味を長く説明する必要があり苦労したそうです。

方言に限らず、翻訳するうえでセリフによるキャラクターの書き分けは難しいもの。味のある英語にしてみるなど工夫をこらしながら、読者に想像してもらえるように書く。そのキャラクターが、どれだけ丁寧な性格なのか?どれだけ躊躇しているか?“ニオイ”のある文章にすることが大切であると、エルマーさんは指摘しました。

日本語の好きなところは?翻訳家になろうと思った理由

「ぽかぽかと温かくなると、梅の花が咲きます」という一文。ジュリエットさんが16歳の時に覚えた日本語です。“ぽかぽか”とは、なんだろうと思い日本語の不思議な面白さに惹かれたそうです。

ジュリエットさんと日本文学の出会いは高校生のとき。フランス語の先生から第2外国語として勧められたことから始まります。翌年、論文を書くためのテーマを探していたところ、先生から「日本文学について書いたらどうか?」と勧められ、高校の図書館にあった日本人作家(川端康成、谷崎潤一郎、夏目漱石、三島由紀夫)と出会いました。

とくに、夏目漱石が素晴らしいと感じ2冊目を読んだところ、同じ作者と思えないほど内容に差があり、翻訳が違うことでこんなにも違うのかと驚いたそうです。その後、谷崎潤一郎の翻訳者で有名な、エドワード・G・サイデンステッカーの『蓼喰ふ虫』を手にとったところ(これが日本語の小説だったのか?)と思うほどの素晴らしい内容に感動し、翻訳家になる決心をしたそうです。

ジュリエットさんのエピソードに対し、アルフレッドさんも「日本語の発音が好き」と話し「特に自然表現の言葉が多く擬態語が多い。また、友好的に曖昧さを利用し、人間関係の微妙な距離感などを表現するのに適している」と賛同。

さらに、ジュリエットさんは「日本語では自分を褒めず謙遜が当たり前。「してもらう」「していただく」これらは感謝の気持ちがないと出てこない」と、日本人独特の奥ゆかしさのようなものに感じ入ると話しました。

最近の日本人作家の作品は、英訳しやすくなった?

かつてエキゾチックだと評された日本文学は、高度経済成長期、バブルを経てどのように変化したのでしょうか。

エルマーさんは、三島由紀夫の自殺以降もっとも大きな波は村上春樹の登場だったとふりかえり「驚くべきことに、彼が成功したから他の作家もどうか?と、翻訳に挑戦する姿勢がみられた。その後、日本作家の質も大きく変わり、若手を中心に感情で触れることのできる本が増えた」と印象を語りました。

また、最近、アメリカ英語の影響をうけ、日本語の文法が変わってきているのではないかという話題に、アルフレッドさんは「かつての日本文学は主語・述語が曖昧な傾向にあったが、そのあたりがしっかりとしてきた気がする。まるで、すらすらと読める雑誌のような文体で、文の味よりもシーンが浮かぶビジュアル的な表現が多くなった」と、ストーリーにおける場面展開が重要視されてきたことを指摘。

また、村上春樹さんのように文体が英語に近いものは訳しやすい。彼の独特の日本語のリズムは英語に反映させず、自然な英語の口語体「はなしことば」にして訳していると明かし、村上春樹さんに影響を受けた新人も多いのではないかと見解を述べました。

翻訳という視点から日本文学を読み解くと、今まで気が付かなかった言葉の面白さや、文豪たちの意外な一面などを知ることができ、改めて作品を読み返してみたくなります。また、翻訳本はオリジナルの作品とは一線を画すものであり、翻訳家によって命をふきこまれた“新しい一冊”であることを知り、印象がまったく変わりました。

さて、「国際文芸フェスティバルTOKYO」では12月12日に、穂村弘氏、名久井直子氏、花田菜々子氏によるイベント「花束の代わりに、この本を」が、HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE(日比谷コテージ)で催されます。

言葉と本のスペシャリスト3人が、あなたのお悩みにこたえておススメの一冊を紹介してくれる企画です。「本は読みたいけれど、何を選んでよいのか分らない…」「悩みに寄り添ってくれるような本を探している」など思っている方、普段、自身では手に取らないかもしれない、素敵な一冊に巡り合えるかも知れませんね。

詳細は、http://ifltokyo.jp/2018/12/01/657/ まで。

「国際文芸フェスティバルTOKYO

穂村弘×名久井直子×花田菜々子「花束の代わりに、この本を」

■日時:12月12日(水)18:30~20:00 ■会場:HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE

 

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