このところ炭酸水を飲んでいる人をよく見かける。汗ばむくらいの気温が続いているせいと思っていたが、どうやら季節に関係なく、ここ数年で炭酸水の需要が増えているようだ。炭酸水を飲むと、美容や疲労回復に効果があるというが、はたしてどこまでホントなのだろうか。
じつは水よりも炭酸水のほうがポピュラー?
日本に住んでいるとピンとこないかもしれないが、海外では水の代わりに炭酸水を飲むのが一般的だ。レストランに入ると、水にするか炭酸水にするか店員に尋ねられる。それだけ炭酸水は、喉を潤す飲み物として普通に受け入れられているのだ。
こうした背景を踏まえると、最近の炭酸水ブームは、海外のスタンダードが日本に入ってきたと考えることができるのかもしれない。つまり、流行に敏感な人が日本でも炭酸水を日常的に飲むようになり、その流れをメディアが紹介。美容やダイエット、疲労回復などの理由と紐づけて分析し、「炭酸水=体に良いもの」という流れができたということだ。
それっぽい根拠は耳にするけど、ホントのところは……。
では、実際のところ、その効果はどうなのか。ネットには、炭酸水に関連する健康ネタの記事がごまんとあるが、正直、どれも怪しい……。というのも、医師がその効果を疑問視したり、否定したりしているからだ。たとえば、炭酸水に疲労回復効果があるという説は、炭酸水素イオンが疲労の原因物質である乳酸を減少させるという内容だが、現在は、乳酸が疲労の原因ではないとする説が有力で、誤りの可能性が高い。
血行促進の効果についても、飲むことで血中の二酸化炭素の濃度が上がり、血液が酸素を多く運ぼうとするため血行が良くなるというが、その説を推す専門家が見当たらない。
炭酸入り飲料を飲んだマウスの体重が増えたという検証実験もあるが、これはあくまでマウスが対象。対人間の被験者データ数が少なかったり、生活習慣などの要因を加味していないことから、人への関連性はわからないという趣旨の発言を論文作成者がしている。つまり、炭酸水が体に良いか悪いかは、現時点で断言しにくいのだ。
「トクホの炭酸水=劇的効果」は極端すぎる
- 週刊東洋経済 [ちら見版] 2012-08-06 発売号
Fujisan.co.jpより
「炭酸水=健康、美容に良い」とイメージだけで捉えている人がいるなら、まずは落ち着いてその根拠がどこにあるのかを調べたほうがいい。たとえば、炭酸水の一部種類には、特定保健用食品(トクホ)があるが、これも過度に期待しないほうがいい。
というのも、トクホは、定期的に長く摂り続けることで特定の保健の目的が期待できる食品。つまり、ずっとそのトクホ商品を摂取していれば、多少は効果があるという括りだからだ。
イメージ先行で盲目的に飲み続けて、効果が得られないと不満を述べても仕方ない。トクホの食品ラベルに詳しい表記があるので、どんな健康効果が期待できるかは事前にチェックしておいたほうがいいだろう。
それでも無性に炭酸を飲みたくなる理由って?
炭酸水で疲れが取れるかどうかは、はっきりしない。とはいえ、疲れたときに無性に炭酸水を飲みたくなるのはなぜだろうか。これはおそらく飲んだときの爽快感が関係しているのだろう。
極めて恣意的だが、心身共に疲れ果てて気持ちをリセットとしたいとき、勢いよく炭酸を飲んで、プハーっとなる快感はたまらない。仕事後の一杯にも似ているのだろうか。炭酸で満腹感もあり、フーっと一息つける。まさにこうした充足感が「また飲みたい」という衝動の理由なのかもしれない。