野球で最強打者が置かれる打順は四番、次に三番、五番、所謂クリーンナップとされています。しかしメジャーリーグでは二番打者、もしくは三番打者に強打者を配置するのが良いとされる説や理論があります。
二番打者といえば送りバントやエンドランなど小技が利くバッター、三番打者は高打率、長距離打者と伝統的に言われてきました。その役割から強打者には程遠い二番打者に、なぜ軸となるバッターを置くべきなのか?
今回は、変わりゆく打順のイメージ、『二番打者最強論』について紹介します。
序説:セイバーメトリクス
まず説明しておきたいのがセイバーメトリクスについて。野球のデータ、統計でスタンダードなものといえば打率や防御率ですが、データを基にもっと突っ込んだ統計、分析をして作戦を立てる手法をセイバーメトリクスといいます。現在は随分と高度化され難解ですが、初歩的なものは映画『マネーボール』で語られています。抜粋すると打率に重きを置かず出塁率を重視する分析などが代表的です。
またアウトを無条件で献上する送りバントや失敗するリスクがある盗塁は否定(アウトを取られなければ得点機会が増えるため)されていて、これまでの小技の評価が軽視された考え方になっています。
二番に最強打者を置く理由
セイバーメトリクスでは、得点効率を上げるためには一から四番打者が重要とされており一番打者は初回に回るのでとにかく出塁率が高い選手が望まれます。そして二番打者は以降につなげるための出塁率と併殺を取られない走力が重要。三番も要ですが2アウトで回ってくるケースが多く、その局面では得点の機会は低いためやや軽視する研究者がいます。続く四番もやはり重要で、たまったランナーを返す長打力を求められます。
また強打者にはランナーがたまった状態で回すという考え方があるため一番打者より二番打者に好打者を置くことがよいとされています。ならば、やはり四番に最強打者を置くのが正解ではないかと思ってしまいますが、これはアウトカウントがある状態で回ってくることが多いため、期待値が下がります。こういった理由がありアウトを取られず、打者や走者を回す役割を担う二番打者に重要なバッターを置くことが良いとされています。
2017年、理想的な二番打者
近年において二番打者最強論の分かりやすい例示は17年、楽天の上位打線です。
※OPSは出塁率と長打率を足した数字でセイバーメトリクスでは重要な指標のひとつ。
1番……茂木選手/打率.296/17本塁打/47打点/出塁率.370/OPS.867
2番……ペゲーロ選手/打率.281/26本塁打/75打点/出塁率.356/OPS.846
3番……ウィーラー選手/打率.271/31本塁打/82打点/出塁率.342/OPS.835
4番……アマダー選手/打率.237/23本塁打/65打点/出塁率.304/OPS.729
5番……銀次選手/打率.293/3本塁打/60打点/出塁率.362/OPS.728
5人の中では出塁率、OPSともに茂木選手がトップ。そして下記が過去2年のチーム成績。
16年……5位/544得点
17年……3位/585得点
16年もペゲーロ選手はシーズン途中入団ですが5人はレギュラー。翌年、ペゲーロ選手を2番に据えると5割近い長打率で打点を稼ぎ、OPSもクリーンナップを超える水準でチームに貢献。前年にくらべチームは41得点増加、順位も上がっています。
とはいえ数字でみると茂木選手の二番がいいのではないかと思ってしまいますが、やはり出塁率の優先度で一番に。結果的に二番ペゲーロ選手の打点が上がり、チーム得点も上がったと推論できます。
二番に強打者を据えた結果
2006年 ヤクルト3位 669得点(前年4位 591得点)
アダム・リグス選手/打率.294/39本塁打/94打点/出塁率.343/.OPS.901
⇒チーム内で本塁打トップ、打点2位
2000年 日ハム3位 771得点(前年5位 614得点)
小笠原道大選手/打率.329/31本塁打/102打点/出塁率.406/OPS.959
⇒本塁打、打点はチームトップ
データが古いものですが、最強打者が二番にいることで前年にくらべ得点が大幅に増加し、チーム順位も上げています。ちなみに両者ともこのシーズンの犠打の記録は0です。
今シーズン、メジャーのエンゼルスに移籍した大谷翔平選手が先日オープン戦に打者として出場し、二番打者として起用されました。これは二番打者最強論の本場での期待の表れか、試用として二番目の打者として起用なのか? 開幕戦に注目です。