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被災時のキーワードは「共助」VRで学ぶ、被災時の行動と災害弱者の立場


東日本大震災の発生から、今度の3月(2018年)で8年目を迎えます。喉元過ぎれば熱さを忘れる、なんて言葉がありますが、進む復興に反比例して、震災報道は年々減少し、記憶は徐々に風化しつつあるのは否めません。

 

あの日あの時、どんな行動を取ったか、覚えていますか? ちなみに筆者は当時、都内の会社に勤めていて、社内の会議室で取引先と打ち合わせをしているところでした。外回りに行っていた営業の人たちは、交通機関がマヒして帰社できなくなったり、近くのコンビニからは軒並み食料が無くなったり、未曾有の事態に誰もがどうしていいか分からないで右往左往していたような記憶があります。

 

防災グッズを揃えておくことも大事ですが、災害に遭った時にどう行動するのかを考えておくことも大切なのですね。大規模な災害は、いつまた起こるとも分からないし、どんな人にも被災する可能性はあります。あの時、こう動いていたら…と思うことを、具体的に復習できたら少しは安心できるかも…!

 

そこで、大きな災害に遭った時の避難の仕方などを、さまざまな人の立場で研究している、専修大学ネットワーク情報学部 佐藤慶一研究室の代表・山本憲一郎さんにお話をうかがいました。なんと、今流行りのVRで、避難体験ができるプログラムを開発・研究しているのです!

 

防災VR開発の経緯とは?

 

― VRって、すごく今っぽい()ですが、どうして開発をしようと思ったのですか?

 

私たちの研究室は、都市や社会の防災を研究していて、その中でも認知症患者など、大きな災害があった際に、真っ先に”弱者”となってしまいやすい人たちがどうしたらいいのかを研究していました。そして、研究室のメンバーにプログラミングができる学生がいたので、今流行り()VRを組み合わせたら、そういった被災弱者が遭遇する困難を体験してみることができるのでは? と思ったんです。

 

― 認知症の方の目線で、被災が体験できるということですね。

 

認知症とひとくちに言っても、症状にはいろいろな種類があって、日常生活に支障があまりなくても、例えば、道路のタイルの黒い部分が穴に見えてしまって落ちるから進めない、と思っていたり、幻聴・幻覚症状のあるパターンなど、さまざまなんです。

 

そういう人たちにとって災害は、「何が起きているのか?」を理解するのも時間がかかるし、避難しようにも、無理矢理手を引っ張るだけでは返って恐怖になってしまいます。このVRで認知症の方の立場になってみて、ご家族や周りの人が、どうしてあげたらいいのかを考えるきっかけになればと思います。

 

― 困っている人の立場になってみる、という意味でのVRなんでしょうか。

 

はい。他にも、災害が起きた時に、理解できなくて困る人はどんな人を考えた時、外国の方が思い浮かびました。最近は海外から観光で日本にやってくる人も増えていますから、そういう人たちが被災することだって大いに考えられますよね。

 

実際、東日本大震災の時には、そもそも人生で初めて地震を経験する外国の方もいて、ヒヤリング調査をした時には「看板が日本語だらけでとても困った」との声もありました。もちろん日本人だって、どうしたらいいのか困ると思いますが、外国の方は、それに加えて「何が起きたのか?」が分からずパニックになってしまいます。

 

とりあえずインターネットで自国のサイトを見るも、津波の映像があまりにも強烈で、自分が今いる場所が内陸部であっても、この後、津波がやって来るんじゃないかと、ずっと不安だったという人もいました。

 

 

防災VRは、焦る気持ちがよく分かる

 

彼らの開発した防災VRを、実際に筆者も体験してみました。このように、スマートフォンを専用の装置にセットし、イヤホンで音を聞きます。

 

※モデルは学生さん

 

「大型商業施設で大震災に遭遇した」という設定になっており、画面の中では落下物や破損物が散乱している様子が、自分の周り360度に再現されています。また看板には、読めない文字(学生さんたちが自分たちで作った、意味のない文字だそうです)が書かれています。

 

※画像提供は、専修大学ネットワーク情報学部 佐藤慶一研究室

 

今回は外国人の目線で、外に逃げるまでを体験しました。VRの動き自体はまだカクカクとしていて、若干臨場感に欠けるところはありましたが、大勢が一斉に逃げる中、見ているものの指示や意味が分からないのは、取扱説明書ナシで複雑な機械を操作しろと言われているような感じで、焦る気持ちになりました。

 

被災したら、私たちはどうしたらいいの?

 

― これ、ノーマルバージョンがあったら、自分自身もどうやって行動したらいいかシミュレーションできますね。

 

そうですね。実際に被災した時もですけど、まずは「自分の命を守る」ことが大事なので、そのシミュレーションの手伝いになればいいなと思います。助けてあげるのは大切だけど、それで自分が命を落としてしまったら意味がないので、自分を守って、その上で他の人も助ける。私たちは「共助」と呼んでいます。

 

― その「共助」をするには、どうしてあげるのがいいんですか?

 

「そんなこと?」 と思われるかもしれないんですが、寄り添ってあげる姿勢が一番大事だと考えています。具体的には「ゆっくり話すこと」です。「ゆっくり」というのがポイントで、認知症の方、要介護者の方、それから外国人も、理解できないことを「ワーッ!」と言われてしまうと、分からない側としては恐怖を重ねることになってしまいます。

 

― とはいえ、私たちだって訳の分からない災害時は弱者ですよね。

 

もちろんです。でも、それに加えて「情報が受け取れない」というのは、怖さに拍車をかけます。まずは自分たちで分かる情報を得て、落ち着いたら、手伝う、という感じでしょうか。

 

私たちも、どんな人が何に困るのか、話を聞いたり調べたりすることでようやくここまで分かってきたくらいで、相手の立場になって、何が必要になるのかを考えるのは本当に難しかったです。

 

― 開発しているこの防災VRは、今後はどう活用しようと考えていますか?

 

VRのいいところは、自分がその人の立場に立てることです。なので、一般の方はもちろん、災害時の制度や設備を作る人に体験してもらいたいと思います。まずは「知ってもらう」のが大事だと思っていて、この目線があれば出てくる提案がきっとあると思うんです。

 

例えば、看板や災害時マニュアルに外国語が要るとか、マニュアルもどこでもらえるのかをアナウンスする必要があります。認知症の方はご本人だけでなく、家族も困っている場合があるので、「共助」の姿勢で必要なことをヒヤリングしてあげると助かると思います。

 

 

研究室の皆さんは、防災VRをさらに精度を上げた内容にすべく、日々開発に取り組んでいるそうです。

なお、117日から開催される「超福祉展」にも出展予定で、そちらで体験することも可能です。

 

防災VR体験ができるのは…

2017119() 10:0015:00 みずほ銀行渋谷支店

20171111() 11:0017:00 渋谷区ケアコミュニティ 原宿の丘

また、川崎市の介護いきいきフェアにも出展する予定で、こちらは

20171116() 10:3016:00 高津市民館12

です。

 

自分が被災した時のシミュレーションとともに、誰かを手伝うことまで想定していれば、プラスアルファで助けになる何かがあるかもしれませんね。

 

<文・写真 鴨島妙実>

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