2024年に四日市市で開院したひだまり内科クリニックは、内科・循環器内科・血液内科・皮膚科を診療科目とする地域密着型のクリニックだ。院長の伊藤公人氏は、これまでのクリニックの在り方をさらに発展させた新たなクリニック像を描いている。市民の方々が気軽に楽しめるイベントの開催から、地域医療の課題解決策まで、多種多様な創造的な試みの実践を目指している伊藤氏に、その構想を聞いた。
四日市市に根ざし、溶け込みながら、地域医療を紡いでいく
当クリニックは四日市市上海老町にあります。この場所にはもともと、長く診療を続けてこられた診療所がありました。その診療所が院長の高齢化と後継者の不在により閉院が危惧されるようになっていましたが、知り合いを介して私に承継の話をいただき、クリニックを承継開院することとなりました。
四日市市はいわゆる過疎地域ではないものの、他の多くの自治体と同様に地域の課題として医師不足などの医療の課題を抱えています。そのような地域で診療所を閉院に至らせず継続してクリニックを開院できたことは、地域医療の継続性を担保できたことにもつながると考えており、うれしさとともに、使命感も覚えます。
これまで愛知県内の複数の地域の基幹病院で、様々な疾患の診療に携わってきましたが、四日市市に根ざして診療をするのは初めてです。そのような新参者にもかかわらず、地域の方々から温かく迎えて頂いていると様々な場面で実感しています。患者さんから好意的なお声をいただいたり、畑で獲れた野菜を患者さんが分けてくださったり…。地域の一員として、親しいコミュニケーションができる関係性になりつつあり、うれしく思っています。
病気を治すだけではなく、患者さんの心に「ひだまり」を灯したい
クリニック名の「ひだまり」には、私の原体験が反映されています。幼少期に楽しく遊んでいた日々を思い出してみると、太陽の光が降り注ぐ、温かいひだまりの光景が浮かぶのです。「このクリニックを、ただ病気を治す場所だけではなく、訪れたことで心がなごみ温かくなる、ひだまりのような場所にしたい。」そんな想いが名称の由来となっています。
この想いを大切に、診療や接遇の温かみを重視しながら、新たなクリニック像を描いていきたいと考えています。その一環として「音楽があふれるクリニック」の構想を進めています。ピアニストである妻の協力を得て、開院にあたっての内覧会で、ピアノ・クラリネット・ファゴットのミニコンサートをクリニックの待合室で開催したところ、聴きにこられた皆さまにとても喜んでいただきました。今後も気軽に訪れて頂ける音楽イベントを開催していく予定です。
さらに、医療の知識を楽しく学べるセミナーを院内で開催することも検討中です。私はこれまでに市民の皆様へ向けた多くの公開講座を行っていました。例えば「夏目漱石が長年悩まされた胃の病気について」などをテーマとした公開講座では、講演の最中に聴衆の方々を見渡すと、皆さんが素敵な笑顔を浮かべながら聞いてくださっていて、医学領域の学会等ではまずありえないそのような反応にとても感動した記憶があります。このような経験を活かし、気楽に参加できる、わかりやすくて親しみやすいセミナーを企画できればと思っています。
すべての人へ恩返しをするために、新たなクリニック像を模索し続ける
大都市でもなく、過疎地域でもない。その中間とも言える四日市市だからこそ叶う、地方都市におけるモデルとなるクリニックを目指したいと考えています。第一弾のアイデアとして現在視野に入れているのが、散在するクリニック同士の連携体制の構築です。大都市はクリニックの数が多く、クリニック同士がライバルになりがちです。
しかし四日市市のような医師が不足する地域では、各クリニックの専門分野を活かし、互いに患者さんを紹介し合うことで、より専門的な医療を提供できるようになるのではないかと考えています。連携構築の実現にはおそらく時間を要しますが、少しずつ、地道にすすめていきたいと思います。そして、さらには地方都市における持続可能性のある医療体制のモデルとなる構造を築いていければと思っています。
私が、新たなクリニック像を模索する最も大きな理由は、クリニックに新たな価値を生み出していきたいという強い願いがあるからです。そして、その新たな価値によって生みだされる「癒し」を、多くの患者さんに提供していきたいと強く思うのです。人々に「癒し」をもたらしうる新たな価値観のもとで運営されるクリニックにおいて、人々の健康を守るという医師としての勤めを果たすことにより、今まで応援して頂いたすべての方々に恩返しがしたいと願っているのです。
ひだまり内科クリニック
https://www.hidamari-naika.com
