自動車業界の枠を超えて、他産業などと日本の未来を創るモーターショー「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」が現在開催されている。主催者プログラムである「Tokyo Future Tour」には、住友金属鉱山株式会社も出展。自社で開発した近赤外線吸収材料「CWO」を基に開発された、素材テクノロジー「SOLAMENT」(ソラメント)がお披露目されている。
「CWO」とは、自動車内の温度上昇を抑えるための窓ガラス材料や、紫外線と近赤外線による肌への負担軽減が期待できる衣料をはじめ、自動車、建築材料、農業など様々な製品に活用されている素材のこと。より多くの人に知ってもらいたいという想いから、この度「SOLAMENT」として新たに名称を変更した。
同社では、太陽光などに含まれる近赤外線を吸収する機能を活かした「SOLAMENT」を、アパレル製品「SOLAMENT DOWN-LESS DOWN JACKET」として展開。現段階ではプロトタイププロジェクトとのことだが、アパレルや医療分野などへの市場進出も目指しているとのことだ。
気になる「SOLAMENT DOWN-LESS DOWN JACKET」とは、Droga5 Tokyoとのコラボレーションによって開発されたジャケット。羽毛を一切使用しないため透明で軽いが、見た目に反して温かいという、夢のような機能を実現している。光を熱に変換する「SOLAMENT」で作られていることから、加工することで生地自体が発熱し身体が温まるという仕組みだ。
既に検証もされており、羽毛の入っている通常のダウンジャケットで、プラス6.1℃。「SOLAMENT DOWN-LESS DOWN JACKET」は、プラス6.3°Cと、普通のジャケットよりも0.2℃も高いという結果が出ているという。
展示会には「SOLAMENT DOWN-LESS DOWNJACKET」を体験できるブースが設けられていた。こちらは「SOLAMENT」で加工された軍手と、そうでない軍手の温度差を、用意されたサーモグラフィーカメラで視覚的に確認できる。実際に見せていただいたが、どちらも普通の軍手にしか見えないものの、やはり「SOLAMENT」で加工された軍手は明らかに温度が高かく、発熱効果もすぐに表れていた。
では、発熱機能を持った「SOLAMENT」は、今後市場進出を図る業界にどんなメリットをもたらすのであろうか。担当者によると「衣料に使えば限界に挑戦するアスリートへの強力な伴走者になり、農業に使えばこれまで作れなかった土地や時期で作物を収穫することを可能にする」とのこと。
昨今は、近赤外線を使った盗撮被害が増えている。特に競技者においては、その被害が後を絶たないことが多いそう。しかし「SOLAMENT」で加工することで、そういった盗撮被害を未然に防ぐことができるという。
また、ユニフォームはデザイン性と機能性を両立することが難しいとされてきた歴史がある。「SOLAMENT」は、高い透明性や、分散液や粉末状など加工しやすい形状にできるため、カラーバリエーションや多様な生地をユニフォームに使用可能。つまり、デザイン性は必然的に担保されるため、機能性も取り入れやすくなるというわけだ。
他の分野ではどうだろうか。例えば農業であれば、作物の形状を自由に変えられるため、作付面積あたりの収穫量を増やすこともできる。土地毎による作物の育てにくさを軽減することができ、自然災害による被害も軽減できるのではないだろうか。
住友金属鉱山株式会社は、資源開発や非鉄金属・高機能材料の製造・販売をメインとする会社。今回の挑戦は、ある意味でその枠組からは少し外れている部分もある。というのも、企画開発部長の東福淳司氏曰く、一連の問題を解決したい。ひいては、未来の日本のための投資として開発に力を入れたいからとのこと。
創業から430年続く歴史ある会社が掲げる経営理念「地球および社会との共存」と「人間尊重」を達成するために、さらに邁進していくことだろう。