有限会社草場一壽工房は、2022年12月10日(土)〜12月18日(日)までの期間、日比谷OKUROJIにて「草場一壽 陶彩画新作展 東京」を開催する。
有田焼の伝統技法を絵画に用いた唯一無二の芸術・陶彩画(とうさいが)を描く草場 一壽(くさば かずひさ)氏。約30年間描き続けてきた”龍”をモチーフとした作品をはじめ、新作2点を公開。また大阪でも多くの来場者を魅了したインドの女神「ラクシュミー」が東京初公開となる。
絵に見えるこれらの作品だが、実は焼き物。陶彩画というネーミングを草場氏自身でつけている。有田焼の故郷・佐賀に生まれた草場氏が「いのちの輝き」を表現するために、30年、研究と試行錯誤の末に実現した焼き物の絵画だ。手書きで絵付けして調整を15回ほど繰り返しながら少しずつ作品を仕上げている。
鑑賞する位置により作品の色が変わり、他の焼き物や絵画にはない立体感と艶感を持つ陶彩画。今回は主に、”龍”や20年ほどかけて調べたり神社を巡ったりして聞いた日本の”神話”、そして”菩薩”などをモチーフにして描いた作品が展示されている。神社仏閣や古事記に興味がある人は更に魅力的な作品・内容となるだろう。
作品の一つ龍神・水の神の「瀬尾律姫」(せおりつひめ)は明治の終わりまで封印されていた神様だと草場氏は話す。日本書記や古事記などの歴史書には何一つ出てこないがゆえに、さまざまな異名を持つ謎多き女神だ。そんな歴史を調べて紐解きながら作品に仕上げていくのが好きだと草場氏は言う。今回のこの「瀬尾律姫」の作品は女性らしく柔らかくて美しい見事なものだった。
そして神話シリーズ最後の作品で最新作となる「国常立命(金龍)またの名をニギハヤヒ 艮の金神」。妻は「瀬尾律姫」とも言われている。国常立命(クニトコタチノミコト)は、天地開闢の際に出現した最初の神々のうちの一柱だ。宮崎駿監督の作品「もののけ姫」に登場するアシタカがこの国常立命だとインタビューの中で語っていたそう。一般的に国常立命は、歴史の中から消され、長らく祟り神とされてきた古い神とされている。堂々としたたずまいと威厳ある色遣いが目を引く作品。この作品に作家が込めた想いは”和解”。自分自身が囚われていた思い込みをリセットする=封印を解き和解すれば、忘れていた美しいものと再び出逢い、新しい生き方が始まるというメッセージがこめられている。
また、龍の作品も非常に多い。龍と言えば中国ではないかと言われるが、中国の龍は歴史的には浅い。そして世界中に龍の神話があり、人々に馴染み深いものだと草場氏は説明した。龍は一言で言うと「生命やエネルギーの痕跡の一つ」なのではないかとも語った。
龍の最新作「はじまり」は「これからの未来が思いやりのある世界であるように」という願いで制作された作品だ。新しい世界にシフトしていく中で人々の意識レベルを上げていくしかないという答えが草場氏の中に出てきた。これに対して、他者の想いを感じられるようになることが意識レベルを上げることに繋がるのではないかという考えと想いが込められている。
そして11月の大阪陶彩画展でも好評だった作品、インドの女神「豊穣の女神 ラクシュミー」。美・富・豊穣、そして幸運を司るインドの女神を描いた作品だ。インドでは豊かさをもたらす神として金銀財宝が散りばめられた構図が多く用いられているが、作家は敢えて「金銀財宝」に代わり「種子」が溢れる様を描いている。
全ての作品には絵に加えて詩も添えられている。絵を見て、文字を見て作品を感じてもらえたら嬉しいと草場氏は語った。