
クラフトビールという言葉はよく耳にしますが、クラフトサケという言葉に馴染みがある人はどれくらいいるでしょうか。
秋田県男鹿市で多種多様なクラフトサケを醸造/販売する稲とアガベ株式会社の代表取締役、岡住修兵さんにクラフトサケについて話を聞きました。
ーークラフトサケとは?
岡住:クラフトサケとは、日本酒の製造技術をベースにしながら、米と米麹に果物やハーブ、ホップ、茶葉などの副原料を加えて醸す、新しいジャンルのお酒です。
日本酒(清酒)は酒税法で「米・米麹・水(と醸造アルコール等)」で造るものと定められているため、副原料を加えた時点で法律上は「日本酒」と名乗れず、「その他の醸造酒」に分類されます。
背景には、日本酒の新規製造免許が原則として新たに交付されないという事情があります。
新しく酒蔵を立ち上げたい若い造り手は、日本酒の技術を学んでも「日本酒」を造ることができない。その制約を逆手に取り、副原料で自由な味わいを追求しながら生まれてきたのがクラフトサケです。
稲とアガベも、こうした経緯で生まれた醸造所のひとつです。
クラフトビールが「大手の定番とは違う、造り手の個性が出たビール」であるように、クラフトサケは「日本酒の技術を土台に、造り手ごとの発想で副原料を重ねた酒」とイメージしていただくとわかりやすいかと思います。

ーー5つの国と地域を象徴する最高級の素材を使用した新商品「ASIAN WISDOM SAKE(アジアンウィズダムサケ)」の開発経緯は?
岡住:稲とアガベの海外輸出は、2024年の約1000本から2026年には約3万本へと急速に拡大し、現在は欧米・アジアを含む11の国と地域に届けています。
海外で手応えを得る一方で、ずっと引っかかっていた問いがありました。「アジアの美しさとは何か。それを誰が決めているのか」ということです。
自分たちの文化の価値を、西洋のものさしだけで測ってはいないだろうか。アジアにある美しさや豊かさを、自分たちの言葉で捉え直し、世界に届けられないか。
本商品は、この問いをアジア各地の文化の担い手とともに考える対話の場「Asian Wisdom」から生まれました。誰かの評価を待つのではなく、自分たちで価値を見出し、つくり、伝えていく。その問いに、私たちは酒造りで応えようと考えました。
ーーASIAN WISDOM SAKEの原材料に唐花草(日本)、朝鮮五味子(韓国)、桂花茶(中国)、紅玉紅茶(台湾)、クローブ(インドネシア)を選択したのはなぜ?
岡住:単に珍しい素材を集めたわけではありません。それぞれの土地の自然と、その素材の魅力を引き出してきた人々の知恵の両方を重ねたい、という考えで選びました。
唐花草は日本の山野に自生するホップの近縁種ですが、世界で知られた素材ではなく、足元にある自然に可能性を見出すという姿勢の象徴です。
朝鮮五味子は甘・酸・苦・辛・塩の五つの味を持つとされる果実で、小さな実の中にいくつもの味を見出す感性は、多様な文化を重ねる本商品の考え方に通じます。
桂花茶はキンモクセイの香りを茶に移したもので、花を眺めるだけでなく、その香りを食卓の楽しみに変えてきた繊細な知恵が息づいています。
紅玉紅茶はミャンマー由来の品種と台湾の野生茶を掛け合わせて生まれた「台茶18号」で、外から来たものと土地のものを掛け合わせ、自分たちにしかないものに育てた、その誕生の背景そのものが本商品のコンセプトと重なります。
クローブはモルッカ諸島を原産とし、海を越えて各地の食文化に取り込まれてきた香辛料で、文化が国境を越えて広がっていく歩みを象徴しています。
アジアに共通するのは、異なる文化や技術を受け入れ、独自の解釈を加えて新しいものへ育てていく創造性だと考えています。5つの素材はいずれも、その創造性の物語を持ったものです。

ーーASIAN WISDOM SAKEは日本市場/海外市場のどちら向け?
岡住:どちらか一方ではなく、両方を見据えた商品です。国内では、9月の発表会と大丸東京店でのPOP UP STOREを皮切りに販売を開始しました。
一方で「日本だけでは完結しない、けれど日本の酒造りから生まれる新しいアジア酒」というコンセプト自体が、アジア各地、そして欧米の方々に向けたメッセージでもあります。今後は既存の輸出先を中心に海外展開も進めていく予定です
ーークラフトビールのようにクラフトサケも今後競争は激化する?
岡住:競争というより、まだ「市場をつくる段階」だと捉えています。クラフトサケの醸造所はこの数年で増えており、クラフトサケブリュワリー協会の加盟数も30を超える蔵が参画しています。
日本酒の新規免許が下りない以上、新しい造り手の受け皿として今後も増えていくと思います。
ただ、クラフトビールが数百の醸造所を持つのに対し、クラフトサケはまだその規模には遠く、認知度も「クラフトビールは知っているがクラフトサケは初めて聞いた」という方がほとんどです。
ですから今は、各醸造所が競い合うよりも、「クラフトサケ」というジャンル自体を知ってもらうことが最優先です。造り手が増え、個性のある酒が増えるほどジャンルの魅力は高まる。私たちは業界全体が大きくなることが自分たちの成長にもつながると考えています。
その上で、いずれ競争が本格化したときに問われるのは、単なる味の珍しさではなく「なぜその酒を造るのか」という思想だと思います。ASIAN WISDOM SAKEもその答えのひとつです。
ーーありがとうございました。

稲とアガベ株式会社 クラフトサケ事業
https://inetoagave.com/pages/craftsake/[リンク]
※画像提供:稲とアガベ株式会社
(執筆者: 6PAC)
