
エネルギーを奪い合う世界から、分かち合う世界へ。その未来を切り開く鍵として注目されているのが「水素」です。
2026年10月20日、国内外の自治体や企業が山梨県に集結。国際会議「富士ハイドロジェン・サミット2026」では、水素社会の実現に向けた挑戦や、現場で直面した課題が共有されました。
成功事例だけでは見えてこない、水素社会の現在地をレポートします。
「つまずきも共有する」水素が変えるエネルギーの未来

オープニングに登壇した山梨県の長崎幸太郎知事が呼びかけたのは、成功だけでなく、挑戦の過程も共有すること。
「うまくいったことだけではなく、つまずいたことも共有をする」
さらに、長崎知事はエネルギーをめぐる世界のあり方にも言及。地下資源は地域によって偏りがありますが、太陽と風、水はどの地域にもあります。
「エネルギーはどこで掘るかではなく、どれだけ上手につくるかで決まるようになります」
地域でエネルギーをつくり、技術や知恵を共有する。奪い合うのではなく、分かち合う未来へのメッセージでした。
水素を作る山梨、使う東京。2つの地域が手を組む理由

水素を広げるには、つくる技術だけでなく、実際に使う場所も必要です。東京都の小池百合子知事と長崎知事による対談では、両都県の連携が紹介されました。
小池知事は、気候危機とエネルギー危機の両方に対応するうえで、水素が重要な“切り札”になると強調。

水素製造の技術や知見を持つ山梨県に対し、東京都には燃料電池バスや商用車、地域の熱供給など、水素を活用できる場があります。2022年の基本合意をきっかけに、供給する側と使う側が連携し、社会実装を目指してきました。
水素をつくる技術を育てるだけでなく、使う場所を増やすことも普及への大きな一歩です。
水素で焼くとチキンはおいしくなる? 会場で食べ比べ!

水素は、発電や車の燃料だけのものではありません。会場では、水素で焼いたチキンやピザ、水素焙煎コーヒーなど、食を通じて水素を体験できるブースもありました。
驚いたのが、プロパンガスコンロと水素コンロで焼いた、山梨県産の鶏肉「信玄どり」の食べ比べです。

水素コンロで焼くと、食材の水分を保ち、ジューシーに仕上がるのが特徴。水素自体ににおいがないため、食材本来の味を感じやすく、焦げ臭さも苦みも出にくいといいます。
実際に食べ比べてみると、同じ鶏肉なのに風味がぜんぜん違う!

水素が暮らしに入り込む未来は、思っているより身近なのかもしれません。食を通じて体験すると、その可能性もぐっとイメージしやすくなります。
インドにブラジルも! 世界各地で進む水素への挑戦
サミットには、インド、ブラジル、フィンランド、カナダ、韓国、ベトナムなど、海外の関係者も参加。
国や地域ごとに異なる水素の活用方法や、普及に向けた取り組みが紹介されました。

インドのウッタル・プラデーシュ州は、グリーン水素の生産量100万トンを目標に掲げ、投資の促進や人材育成を進めています。これはインド全体の目標である500万トンの5分の1にあたります。

ブラジルのミナスジェライス州では、太陽光や水力、バイオマスなどを活用する取り組みが紹介されました。低炭素な鉄鋼生産や、肥料向けアンモニアなどへの活用も検討されています。
地域によって使える資源も産業も違うからこそ、世界各地の知見を持ち寄る意味があります。それぞれの地域に合った方法を探ることが、水素社会への道筋になりそうです。
水素を普及させるには? メーカーが挑む「鶏と卵」の壁

水素をつくる側と、使う側。水素社会の実現に向け、カナデビア、サントリーホールディングス、トヨタ自動車の3社が、それぞれの取り組みと課題を語りました。
水素をつくる側のカナデビアは、山梨県都留市に約80億円を投じ、水を電気分解して水素をつくる装置の量産拠点を整備する計画。2029年の稼働を目指しています。

一方、使う側のサントリーは、山梨県北杜市の「サントリー天然水 南アルプス白州工場」でグリーン水素をボイラーの熱源として活用。再生可能エネルギー由来の電力だけでは対応しきれない、工場の熱利用にも水素を生かしています。

トヨタも、燃料電池システムや商用トラックを通じて水素の利用拡大を目指しています。ただ、利用を広げるには水素を供給する拠点が必要で、供給体制を整えるには安定した需要も欠かせません。

この「鶏と卵」の課題について、サントリーホールディングス 常務執行役員 サステナビリティ経営本部長の浅木純氏は「一社では抱えきれないリスクだからこそ、みんなで抱えるしかない」と語りました。
一社だけでは解決が難しいからこそ、つくる側と使う側が連携し、リスクを分かち合う。各社の取り組みからは、水素社会の実現に向けて、企業が一歩ずつ道を切り開こうとする姿が見えてきました。
成功もつまずきも共有して、水素社会の次の一歩へ
サミットでは「富士水素宣言2026」も採択され、ノウハウの共有や人材育成、国際連携などを進めていく方針が示されました。
水素社会は、企業や専門家だけがつくるものではありません。そこで生まれるエネルギーは、私たちの暮らしにもつながっています。
成功もつまずきも分かち合いながら、一人ひとりの挑戦が次の誰かの力になる。そんなつながりが広がっていけば、エネルギーを奪い合うのではなく、分かち合える未来へ近づいていけるのかもしれません。
